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迎撃
その7
しおりを挟む「───みつけた!」
日没までまだ少し余裕があるくらいの時間帯、空を飛び丘から丘へと飛びわたっていたラベンダーが言葉を漏らす。
今は木の葉に紛れ、樹上から村へとやって来ているオークの集団を睨んでいた。
【姫様!。オーク共がやはり村の方にもいました。数は…10といったところです。どーしますか?】
気持ち良く兵士達の前で弁を振るっていた夢魔王の頭の中に、村に一人残っていた部下ラベンダーの声が響く。
【いきなり何なのじゃ、お前は!?。こっちはそろそろぶつかるとこなのじゃ、そっちはお前だけで何とかするのじゃ!】
【え?…オーク10匹、私だけで、ですか?】
頭に響く声に、明らかに困惑が混ざってる事に夢魔王は気付く。
【…お前を何のために残したと思ってるのじゃ?】
【で、ですけど!?。でも、どーやれば…?】
はぁ、と夢魔王がリアルでため息を漏らす。
会話の聞こえている両脇の2人は別に反応しないが、脳内の声が聞こえる訳もない周囲の兵士は、いきなりため息をついた小さな人影に少しざわつきだす。
【日頃儂等には魔法しかないのだから腕は磨いておけといつも言っておいたはずじゃが…?】
【う…が、がんばります…】
ラベンダーとの念話も終わり夢魔王は軽く頭を左右に振ると、両脇の夢魔へと視線を飛ばす。
【…………最悪、村は諦めるのじゃ】
【…っ!!?】
【ラベンダー先輩っ!。ホント頑張ってくださいよっ!?】
【………はい。単なるお留守番だと思ってたのに…】
気持ち涙ぐんでる声が3人の頭に響く。
夢魔王は「駄目そうなのじゃ…」とぼんやり考えていた。
「とりあえず、初手でどれだけ纏めれるかが勝負です!」
樹上でラベンダーは気合を入れ、眼下のオークの集団を見る───10人がそれなりにバラバラに歩いてきている。
自分の魔法の範囲は魔道具《アイテム》を使わなければそこまで広くない。
中心に撃ち込んでどの程度巻き込めるか不安もあるが、村までもう距離はなく、ここで止めないといけないというのは十分に分かっている。
気合を入れたラベンダーは、樹上で魔法の詠唱を開始した。
「しかし兄貴。俺達だけで勝手に村襲って、本当に大丈夫なんですか?」
1匹のオークが、隣を歩くオークへと疑問を投げかける。
兄貴と呼ばれた問われた方のオークは、言った方を見ると、声を荒げる。
「バルガスの野郎は、何もかも自分の手柄にして我らが王ヴォーグ様に伝えてるんだぞ?。なら、明らかな手柄を持って帰るしかないだろうが!」
「でも、こんな勝手な事をやって、俺らがバルガス様に罰されやしませんか?」
兄貴オークは、弱気な発言をするオークの頭をゲンコツで殴った。
「いちいちお前はうるせぇんだよ!。とりあえず村落としちまえば、バルガスの野郎だって文句は言えない筈だろうが!」
「まぁまぁ、兄貴。もぉそれくらいで…」
後ろを歩いていたオークが駆け寄ってきて兄貴オークをなだめる。
前を歩いていたオーク達も、何事かと歩みを止めてそんな様子を見ていた。
(…なんか知らないけど、オーク共が集まってます!)
樹上で詠唱をしていたラベンダーは、千載一遇のチャンスと判断して、騒動の中心であるオークへと狙いを定めると、詠唱を終えた魔法を撃ちこむ。
「───麻痺!!」
兄貴オークはいきなり体に痺れが襲ってきたことに気付いた。
横の弱気なオークも、自分をなだめに来たオークも同じ様に痺れが来てるのは一目瞭然だった。
「てめえら、魔法だ!。どこかに魔法使いがいるぞ!。探して殺せっ!」
兄貴オークが命令し終わると同時位に、3匹のオークが、麻痺で体が動かなくなったのか地面に倒れ込む。
無事な残りのオーク達は、広がって術者を探している。
(…3匹だけですか。思ったより巻き込めてませんね)
樹上でラベンダーは表情を暗くする。
出来れば半数位は麻痺させたいところだったが、やっぱりバラバラに広がられ過ぎていた。
暫くは麻痺《パラライズ》の効果が続くが、それもそれほど長くはもたない。
適時重ね掛けしないと、今は動けないあの3人まで加わることになって一層自分が不利になる。
(…あと2度ほど麻痺した後、あの3人に重ね掛けて時間を延ばさないとです)
とりあえずまだ自分の場所がバレてないうちに少しでも多くのオーク達の動きを止めないとと、ラベンダーは再び詠唱を開始する。
そして、少し離れた場所にいるオークに狙いを定めて魔法を放つ。
「─────麻痺」
狙われたオークは何か言葉を発すると地面に倒れる。
「いたぞ!そこの木の上だ!」
1匹のオークが木を指さし声をあげる。
指された木に居る人影を見つけると、オーク達は各々弓を射たり、足元にある石等を投じだした。
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