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第五章 ブラッドウッド

その1 序

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彼女はいつもの日課である、教会で常時灯している蝋燭の交換に来ていた。

教会という建物にとても馴染む、シスター服の女性だった。


外は既に日は落ち、闇に覆われる時間帯。

街の外れにあるこの教会は、たまに聞こえる鳥の声以外は静寂に包まれていた。


不意に、窓の外でなにか動く人影を見つける。

シスターは窓に寄り、こっそりその動いた辺りを覗き見る。

そこには人というには明らかに大きすぎる人影がいて,その人影は、教会からすこし離れて建つ宿舎を観察している様に見えた。



「─────っ」

シスターは一言二言何か唱えたかと思うと、そのまま普通に扉を開け外へ出る。

そしてさっき窓から見た人影の居る方へと、ごく自然に歩いていく。


「…ほう、大物が釣れたのじゃ。この装備は…奇襲部隊じゃの?」

シスターは足元に情けなく横たわりピクピクとしている、大きな人影の頭上に立ち、上から見下ろしている。

足元には普通の人より一回りは大きい体躯をした、すこしぽっちゃりした感じに見え、そして緑の肌をしていた。

そして、その手元には木を切り倒す時に使う様な、片刃の斧が落ちている。

ギョロリとした大きな目、豚の様に潰れた鼻─────間違いなくオークだった。


「な…なんで体が…?。てめぇっ!、何しやがった!」

下からオークが喚く。

目の前に現れたのが小さなシスター服の女性一人だったので、動けないながらもまだ余裕があるように見える。


麻痺パラライズじゃ、それくらいも分からんのか?。やはりお前たちは、救えぬ馬鹿じゃのぅ」

「なっ!?。たかが人間の女如きが生意気をっ!」

オークの言葉は気にも留めてない様子で、シスターはオークをどこまでも蔑んだ目で見る。


「…で、ここで何をしておる?。あ、別に言わんでいいぞ?、こっちで勝手に訊くのじゃ─────魅了テンプテーション

シスターが言うと、下で倒れていたオークの目から光が消える。

うつろといった感じに、口からは「ウー…」と言葉にならない呻きだけが聞こえている。



「…で、こんなとこでオークなんぞが何をしておるのじゃ?」

「…先行での…偵察…明日の夜に…街を…攻める…」

「ここへはお主らオークは何体来ておるのじゃ?」

「…街へは…俺と他に2人…」

シスターは何か考えてるようなポーズをとると、足元のオークへ「こっちへ来るのじゃ」と命令する。

オークはノロノロと起き上がると、シスターの後をついて歩く。


そしてシスターは教会裏にある、色々名道具が雑に入れてある小さな倉庫へと向かう。

少女は倉庫の床になにやら赤い宝石を数個置くと、その中にオークを座らせた。

「…しばらく大人しく寝とくのじゃ─────睡眠スリープ


宝石で囲まれた中が赤い霧で覆われる。

そして座っていたオークは、そのままガクンと首を下げ、そのまま床へと倒れ込み、ブーと寝息をたて始めた。



「…少々面倒くさい事になりそうなのじゃ。さて、とりあえずガーベラ共にも言っておくのじゃ」

シスター─────夢魔王プリティー=ドリーマーは、本当に面倒くさそうに夜空を向いて言うのだった。

 
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