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高位鑑定士

その20

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「わたくしが居たくないと言ってるんですの」


神官の少女は司祭長のキール達にはっきり言った。

「それは、昨晩こちらの対応に不手際でもありましたか!?」

「いえそんな事は無いですの。とても快適な夜を過ごさせていただけましたの」

ふう、と一息吐くと、少女はキールを見る。

「明後日の朝にはわたくし達はここを旅立ちますの。ジャスティンさん達の商団《キャラバン》の行程がありますので、これはずらせませんの」

「それはクエストですか?。報酬金とかならこちらで払いますので…」

キールは少女的にはなぜここまでという感じで食いついてくる。

「お金ではないですの」

少女は首を振る。

「お金じゃないというなら、名声的なものですか?。もしそれなら、城から特別冒険者としてランクも…」
「そういう事じゃないんですの!」

いままで遠慮していた分、語気強めに食い気味に返してしまう。

「…わたくしは冒険がしたいんですの。いつ戻るか分からない力を、ここでぼんやり待つつもりはないですの」


言われたキールは我に返ったのか、うなだれると、少女に「しつこかったですね、すいませんでした‥良い旅を…」と残して部屋から出ていった。

司祭2人も一礼をして、キールを追って外へ出る。

「もう、出てもいいですのよね?」

少女は目の前に屈んだままの高位鑑定士《ハイウォッチャー》の女性に言った。

「…そうですね、すいません私達の力が及びませんでした。お手間を取らせて申し訳ありませんでした」

女性は立ち上がり少女と壁際に立つ黒衣の青年に頭を下げる。


部屋の隅に仕切られたスペースに向い、そこで着替えを済ませて置いていた荷物もとると、入口へと移動する。


「ではシェイドさん、リズさん達が待ってますの、いくですの」

少女は青年と並んで入り口に向い、扉を開ける。

出る前に一度部屋を見ると、こちらをじっと見る女性がいた。


少女は青年に「少しだけ待ってくださいですの」と言って女性の方に向かう。

「…わたくしがここに留まる事は出来ませんの。でももし、ルビナの村にあなた達が来るというのなら、時間あいた時に見せに行くくらいなら、協力してもいいですの」

「!!。あ、ありがとうございます」

女性が少女の手を取り感謝の意を示す。

「あくまでもあいた時だけですの。ずっとは付き合いませんのよ?」

女性は「わかってます」「ありがとうございます」と繰り返すばかりだった。


「では、わたくし達は失礼しますの。キールさんには少し言い過ぎたかもしれません、ごめんなさいですの」

少女は深く頭を下げると振り返ってドアへと向かうと、扉を閉めて青年と出ていった。

少女が扉を出ていくまで見送った女性は、きっと落ち込んでるであろう司祭長の下へと小走りでかけだした。



部屋の外に出ると、兵士が城の外まで案内してくれた。

外まで出ると兵士に一礼して、少女と青年は冒険者ギルドを目指して歩き出した。


ギルドに到着して内部を見て回るがラーズ達の姿はなかった。

まだ見て回るとこを探してくれてるのかと、とりあえず適当な席に座り待つことにする。

なにか周囲の冒険者がニヤニヤしながら少女達を見ていたが、相手をしない事にして二人を待つ。


少しすると一人の女性が息を切らしながらギルドの扉を激しく開けた。

「ラーズが、仲間が襲われてるんです。誰か、誰か助けてください!」

目をにじませ、涙声で叫んでいたのはリズだった。


「リズさん、何がありましたの!?」

少女が駆け寄り、リズは後ろに見える小さな通路を指さし「あっちで、ラーズが!お願い、助けて!」と少女に抱き着く。

「とりあえず、急いでいきますの!」

少女はリズの手を取り、指をさした通路へと走って入っていく。

2度ほど角を曲がった通路に、横たわる人影があった。


「ラーズ!?」

リズは駆け寄りラーズを抱き起す。

「…ちくしょう…ちくしょう…」

命には別条はなさそうながらも、体中を殴る蹴るされたようで、全身ボロボロ、顔には何か所も殴られた跡があり、ところどころ血で滲んでいる。



通路の先に目を向けると、ちょうど通路へと曲がる人影が見えたので、青年は走ってそちらへ向かっていった。

 
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