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ジュライヘ
その9
しおりを挟むそれから10日ほど日は経過する。
まだ陽も上りきれない早朝、ひんやりと空気が心地良い。
集合場所としていたウィズ=ダム西門には、最終的に20人もの冒険者が揃っていた。
当初の予定通り、話し合いの時に表示された金額を各自払うと、座れる程度に少し空間を開けられた荷馬車へとバラバラに乗り込んでいく。
全ての冒険者が乗り込んだのを確認すると、集金役の社員から行ってらっしゃいと送り出されながら、ジャスティン商団《キャラバン》の馬車6台はウィズ=ダムを出発した。
2台目の馬車に、神官の少女と黒衣の青年、そして剣士のラーズと魔法使いのリズが乗り込んでいた。
青年は相変わらず、荷物に背を預け、リュートをポロンポロンと奏でている。
いつ出てくるか分からない魔物の襲撃への緊張感を持ち続けている2人に、青年は「少しは気を抜いておかないともたないぞ」と言う。
ただし、言葉を繋ぐと横でいつの間にか寝てしまっている少女を見る。
「…これは抜きすぎだ」
言われて少女を見る、ラーズとリズは顔を見合わせると、思わずぷっと吹きだしていた。
結局何事もなくその日の野営予定地へと到着する。
毎度のごとく青年の恐怖《フィアー》によって何も寄ってこなかった事に気付く者はいなかった。
食事の準備をする商人達、それを手伝う一部の料理にそこそこ自信のある冒険者達。
ちなみに今回は、冒険者達の分の材料も準備してくれたそうなので、皆で火を囲んで食事をした。
夜も更け、監視役の3人を残して他は馬車へ戻り眠りにつく。
実は神官の少女もそのメンバーだったが、眠気を訴え馬車へと戻っている。
「まぁ神官だし、いいか」と他の二人も渋々とはいえ了承していた。
火が消えない様にたまに拾ってきた枝を放り込みながら、中年くらいの男性二人が向かい合って座っている。
その足元にはそれぞれ片手斧と剣が置かれており、有事の際はすぐにでも手に取れる様にはしてある。
少し離れた倒木には黒衣の青年が座り、リュートを奏でていた。
「…しかし、なんかここは嫌な感じがするな。背筋がぞーっとするような嫌な感じがよ」
「なんだ、お前も思ってたのか。なんかやばい魔獣でも近くに居るのかもしれねぇ。気を抜くなよ」
少し落ち着きなく周囲を気にした後、2人は青年の方に見る。
「あんたも、そんな風に音鳴らしてると魔獣共が来るかもしれないだろう?。さっさと止めろよ」
今まで我慢してたぞと言わんばかりに、不満を含んだ物言いである。
「…これだけ暗い中で火を焚いておいて、今更だろう。気にするな」
青年は相手をせずに、そのまま奏で続ける。
「おいおいあんた、ちょっとあの商人を連れてきたからって、上から目線してんじゃねぇぞ、ゴラァ」
「おい、やめろって…」
斧を手に取り、青年に向っていこうとする相方を、もう一人が食い止める。
「少し黙れ、そして動くな」
「んだと、てめぇ!」
斧を持った方が向かって来そうになったので、青年は二人をキッと睨むともう一度繰り返す。
「黙れ、そして動くな」
そして青年は楽器を足元に置き、真っ暗で何も見えない林の方へと進みだす。
「小便か?」と問う男性に答えずに、青年は暗闇に向って低い声で言った。
「…さっさと出て来い、ブタ。お前らの臭いはちょっとやそっとの距離じゃ消えないので諦めろ」
男性二人が「こいつ何を言ってるんだ?」と頭を捻ってると、青年の前に巨大な人影が徐々に姿を現してきた。
緑の肌、丸く見えながらも鍛え上げられた肉体、手に持った大きな戦斧─────オークだった。
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