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思惑
その7
しおりを挟む大剣使いに大量の酒を購入して渡したした後、黒衣の青年と神官の少女は昨日訪れた高級宿屋の『赤い雄羊亭』を訪れていた。
昨日あったゴタゴタガ伝わっているのか、今回は名前を告げるとすんなりと案内してもらえた。
部屋に案内されると、正装のエルフの女性が迎えてくれ、アドルが今は商談中なので少々お待ちくださいとの事だった。
「…なんか忙しそうですの。アドルさんは結構やり手の社長さんなんですの?」
少女は目の前のエルフの女性を見る。長い髪を丸くまとめてアップして、この世界では珍しい眼鏡をかけている。確か名前はリースさんといったはずだ。
「そうですね、うちの社長の手腕は素晴らしいです。少々面白そうな話に食いつきすぎな気もしますが、それだけは自信を持って言えます」
「そうなんですの…わたくし達としては付き合っていただけるのは嬉しいんですが、そちらは大丈夫ですの?」
少女はリースに少し心配気に疑問する。言われたリースは笑顔で返す。
「社長がやれると思っているのなら大丈夫です。私達も全力でサポートいたしますので」
「─────それじゃ、俺の分の飲み物を準備してくれ」
そんな話をしていると、入り口の扉が開いてアドルが横に短髪のエルフの女性を連れてやってきた。
リースはすぐにコップに注ぎ、アドルの前に置く。
「いや、待たせてすまなかった。久々のウィズ=ダムだから、色々商売相手が順番待ちだったりしてな。人気者は大変ってやつだ」
ハッハッハとアドルは軽口を叩き、目の前に置かれたコップの中身をクイっと飲み込む。
そしてスッと鋭い目をすると、青年に尋ねた。
「…で、城の方はどうだった?。上手い事いきそうか?」
「それは大丈夫そうだ。ただ念のため、城から監視が数名入るとは思うが」
軽く舌打ちが聞こえた気もしたが、青年は気にしないことにする。
「ま、国の興行に混ぜてもらうんだ、それなりの制限は覚悟はしてるさ。じゃ、次は取り分の話なんだが?」
「悪いが俺も女も商売には疎くてな、細かいところは何とも言えない。ただ、昨日お前の言ってた事を伝えると、概ね了承するとは言ってたぞ?」
青年の言葉に、アドルの顔が分かりやすく明るくなった。
「おうおう、跳ね返されなかったなら上々だ。それならこっちも本気でやらせてもらうか。おい、リオン」
アドルはそう言い短髪のエルフを呼び2・3指示をすると、言われたエルフは一礼をして部屋を出ていく。
「とりあえず1週間後までには必ず何とかする。なんか進捗があれば伝えさせるが、旦那達に連絡したかったらどこに行かせたらいい?」
「それでしたら、すぐそこの冒険者ギルドの方にお願いしますの。大体毎日行ってますので、確実だと思いますの」
少女の返事に分かったと告げると、「次の商談が待ってるので今日はここまでにしてくれ」とすまなそうに二人に言う。
少女達も長居する気もなかったので「よろしくおねがいしますの」とだけ残して宿を出た。
(…なんだか、商売というのも楽しそうですの)
少女は良く分かっていないながらも、忙しくも楽し気に働くアドルや大臣を思い出し、そんな風に思うのだった。
次の日にはもう、街のいたる所にある掲示板に1週間後の特別闘技大会の告知ポスターが貼ってあった。
【『今大会優勝者:龍討伐者《ドラゴンスレイヤー》ダース=D=スレイヤー』
vs
『前大会優勝者:漆黒の瞬殺王』】
(…なんかシェイドさんに、勝手にあだ名がつけられてますの)
少女がそれを見て楽し気に思う。
そしてニヤリとすると横の青年に「瞬殺王さん」と話しかけてみた。
青年はやれやれといった感じの目で少女を見ると、相手もせずに歩き出す。
「もー、そんなに照れなくてもいいんですのよ?」
そんな青年の背を少女は楽しそうに追っていくのだった。
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