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思惑

その4

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クエストも完了し、少女達が冒険者ギルドを出ようとすると、入れ違いでウィズ=ダムの兵士が数人入ってくる。

兵士達はそのままカウンターへと駆け寄り、受付のお姉さんとなにやら話していた。


「どうされましたか?───」

「冒険者の───」

「あ、それならあの───」

「───!。すいません、そこの冒険者の方っ」


受付の方で何か話していた兵士が、扉から出ようとする神官の少女達を呼び止めた。

「…はい?」

少女が何事かとこちらを振り返ると、呼び止めた兵士は二人の前に駆け寄り、一度頭を下げる。


「呼び止めて申し訳ありません。ランク3冒険者のシェイド様、そしてマレット様で間違いありませんか?」

「…そうですけど、なにかご用ですの?」

少女は少し怪訝そうに兵士を見た。

もしかしたら半年前に、半ば無理矢理城へと連れて行かれた事を、少女は思い出しているのかもしれない。


「申し訳ありません、自分達も詳しくは…ただ、城の方にお連れしろとだけしか命じられていなくて」

少女が「何かご存じですの?」と言いながら青年の方を見ると、青年は首を左右に振り、思い当たりがない事を伝えた。


「分かりましたの。とりあえずお付き合いしますの。でも、あまり遅くならない様にお願いしますの」

ありがとうございますと何度も繰り返す兵士の後について、少女達はギルドを出ていく。

少女が出ていく時に受付のお姉さんに手を振ると、お姉さんもいってらっしゃいと返した。


(…ところで、あの兵士さんが言ってた闘技大会優勝って何の話なんでしょう?)

受付のお姉さんは、闘技大会の話を未だに知らないのだった。



城に着くと、そのまま応接室へと案内される。

そこにはこの前に謁見室で見た大臣、兵士長に加えて、いかにも冒険者という風な壮年の男性がいた。


「こちらが冒険者のシェイドさん。前回の闘技大会の優勝者の方となります。そして横にいらっしゃるのが、同じパーティーを組まれているマレットさんです」

大臣が男性に二人を紹介し、紹介された2人は良く分からないまま、とりあえず会釈をしておく。

「そして、こちらがダース=D=スレイヤーさん。今大会の優勝者になります」

次に大臣は、2人に男性を紹介した。


「…ほう、アンタか」

黒衣の青年を見ながら、男性は勝手に納得している。

ふと、首に掛かってる青銅《ブロンズ》冒険者章を見て動きを止める。


「ん?…前回優勝者はランク1の冒険者と聞いていたが、人違いか?」

「あぁ、気にするな。上がっただけだ」

ごく普通に答える青年に、壮年の男性は明らかに驚いた顔になった。

「たった半年で1から3だと?…そりゃ、とんでもないな…」

男性は半ば呆れながらぶつぶつ言っている。




「…ところで、なんでわたくし達はここに呼ばれましたの?」

神官の少女は空気も読まずに、ズドンと大臣に質問をした。

「あぁ、すまん。それはオレが、アンタと話したくて呼んでもらったんだ。来てくれて感謝する」

男性は青年にそう言うと、深々と頭を下げる。


「…何のつもりだ?」

青年が不思議そうに、目の前で頭を下げてる男性に質問をした。

「アンタのおかげで、弟子が戻ってきた。そして、目の色を変えて真面目に修行に取り組んでくれている。アンタが弟子を叩き直してくれたおかげだ、本当に感謝している」

少女が頭を下げてる男性に寄ると、頭をあげるように言う。


「あの、ダースさんのお弟子さんとは一体どなたなんですの?。話が全く見えないんですの」

「あぁ、そうか。説明が足りなかったな、重ね重ねすまない」

コホンと咳をすると、男性は姿勢を正した。


「アンタが前回大会で倒した剣士のルークって小僧を覚えてないか?。アレはオレの弟子で、ついでに言うとオレの孫なんだ」

「…なるほど、そういう事か。ということは、あいつよりお前が強いわけか」

男性はふっと笑うと、軽く首を振る。


「弟子の獲物は片手剣、今は預けて手元にないがオレの獲物は大剣だ。相性とかあるから一概にどちらが強いとは言えないな」

ただと前置きすると、ニヤリと笑った。

「実戦だったら弟子には、まず負けない自信はあるがな」



「…ところで、お話というのはこのお礼の事でしたの?。終わったのならそろそろ教会に戻りたいんですの」

少女が空気も読まずに話の腰を折った。

「あぁ、その事なんだが…シェイドって言ったな、アンタ?。悪いがオレと戦っては貰えんか?」

男性は至って真面目な口調で青年に言う。


「…話が見えんな。優勝はして賞金は貰ったんだろう?。ならそれでいいんじゃないのか?」

「未熟とはいえ自慢の弟子が負けた、その雪辱戦といったら少しは理解してもらえるか?」

男性は強く力のこもった目で青年を見た。


「もちろん、ただでとは言わない。今回のオレの貰った賞金を、そのまま勝った方の総取りでもいいんだが……どうだ?」

言われて少し青年は考える。

「…それはつまり、オレ達にも同額を用意しろという話か?」

「いや、アンタは戦ってくれるならそれだけでいい。賞金はオレのワガママに付き合うオマケと思ってくれたらそれで十分だ」


しばらく考えた後、青年は口を開いた。

「一日だけ答えを待って貰いたい」

不思議そうに青年を見る少女を、青年は一度見て安心させる様に頷くと、男性の方を再び向く。

「どうだ?。待って貰う事は可能か?」

「おぉ、全然大丈夫だ。じゃあ、答えが決まったら『青い巨蟹亭』って宿に泊まってるので、訪ねて来てくれ。いい答えを期待してるぞ」



とりあえずこれで一回お開きということで、兵士達に案内されて城の外へと3人は出た。

男性は預けていた大剣を受け取り背中に背負うと、二人にじゃあなと言って街の方へ消えていった。


青年が少女に「少し用がある。まだ付き合えるか?」と尋ねるので少女は大きく頷く。

そして、2人も街の方へと並んで進んでいった。

 
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