55 / 133
思惑
その2
しおりを挟むウィズ=ダムとサンド=リヨンを結ぶ街道がある。
商人達が馬車で荷物を運ぶ姿を時々見かける主要路の1つだ。
その街道のウィズ=ダムから少し離れた丘の麓の、街道沿いの林の方から少女の声がした。
「シェイドさん、採れましたわよ!。さぁ!」
神官の少女は倒木に座ってリュートを演奏していた黒衣の青年に、採ってきたキノコを差し出す。
少女の名はマレット=リラシア、この街から少し離れたルビナの村出身の冒険者、職業は神官だ。
「これと…あぁこれもか。他はたぶん大丈夫だろう」
シェイドとよばれた黒衣の青年は渡されたキノコを選別し、良かったものだけを袋に詰めた。
青年の名はシェイド、少女と同じく冒険者で、職業は格闘家《モンク》。
目元しか見えない黒衣で頭を巻いており、体も黒い服とマントで覆われていて、素肌はほとんど見えない。
「む…まぁ先ほどは3つ違いましたし、今回2個しか違わなかったのは成長ではないですの?」
良く分からないが、ちょっと自慢気な感じで少女は返してくる。
「…そうだな、確かに成長してるな。では足りない分をまた採ってこい」
あきらめた、とも感じれるくらい少女に対しぶっきらぼうに返すと、青年はまた倒木に座る。
そして置いていたリュートを手に取り、奏で始める。
少女は少し離れた倒木の方へと戻っていき、またキノコを探し出していた。
「…お?。やっぱりか。こんな街じゃ逆に目立つ格好してる奴なんてそうそう居ないしな。旦那、久しいな」
街道の方から男性の声がした。
見たところ商人の様に見える男性が立っている。
清潔感のあるデザインの服装、嫌味にならない程度に身に着けられた貴金属。
見ただけでそれなりに裕福な人間なのだろうと察しはつく。
「社長。打ち合わせまで時間はありません。要件は手短にお願いしますよ」
男の後ろにさらに2人の人影でが現れた。
男性と同じくらいの身長、同じく清潔そうな服装。
片方は短髪、あと一人は髪をアップしてまとめていて、2人とも女性だった。
ただ1つ人間と違ったのは、ぴんと尖った長い耳をしている事だった───そう、エルフである。
「分かってるさ、リース。ただやっぱり挨拶はしとかないとな。なんせ恩人様だからな」
男性は女性にそう言うと、折角の服が汚れそうな林の中へざくざく入ってくる。
「…お前は何だ?」
奏でていた楽器を鳴らす手を止め、青年はこっちに向ってくる男性へと質問を投げる。
質問された男性は一瞬「え?」といった感じの顔をすると、自分の服装を見て「あぁ、そうか」と勝手に納得していた。
「シェイドさん、どなたかいらっしゃいましたの?」
相方の青年の方で何やら声がするのが気になったのか、キノコを探しに行っていた少女が戻ってきた。
そして、林に不似合いな格好をした男性を見ると、ぺこりと頭を下げる。
「アドルさん…だったですの?。お久しぶりですの」
来てすぐにこの格好の自分をちゃんと見破った事に、男性は感心してヒューと口笛を鳴らした。
「おう、サンド=リヨンでは世話になったな。おかげで今日もこうやって商売させて貰えてる。本当に感謝しかないね」
そう言いながら男性は、少女に手をさし出してくる。
少女はたった今までキノコを探して汚れていた手を、自分の神官服の裾で軽く払うと、差し出された手を取り握手を交わす。
少女は目の前のアドルを見て考える。
あんな高そうな服を着てるのに、わざわざ汚れる様な林まで入って来るなんて、きっとなにか急用か何かなんだろうと。
「ところで、何かご用でもありましたの?」
「いや、用というか、街道を通ってたら見た事のある姿が見えたんでな」
少女の思惑に反して、別に大した用事はなさそうである。
服のどうこうは個人の価値観の違いでしかない様だった。
「そうなのですか、それはわざわざご苦労様ですの。ではわたくしは、また採集に戻りますの」
そう言って会釈をしてまたキノコ探しに戻ろうとした少女の背に向かって、アドルは声を掛けた。
「俺達はしばらくあの街に居るんで、暇が出来たら訪ねてきてほしい。『赤い雄羊亭』って宿屋に居るからな」
それじゃ、と2人に手を振ると、またザクザクと草をかき分けながら街道へと戻っていく。
通路に戻るとエルフの女性からなにやら怒られてるような声がしたが、さほど問題はなさそうである。
「…あと5個、キノコ探し頑張りますの!」
少女は気合を入れると、また倒木の方へと向って行った。
林には青年の奏でるリュートの音が響いていた。
30
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~
果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。
王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。
類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。
『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』
何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。
そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。
「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」
その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。
英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?
これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。
※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。
【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる