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討伐

その19

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騎士団長のギルは黒衣の冒険者の青年から手渡された赤い塊を見る。

とても美しい深紅の宝石の塊、といった感じのものだ。

これだけの大きさの宝石、種類にもよるがそれなりの金額にはなりそうである。

(…はて?。吾輩つい最近これと同じものを見た記憶があるのである?)


ギルはハッと気付き、首から下げていた破夢の首飾りを横に並べてみる。

加工されてない分色や輝きは劣るものの、まさに同じ宝石だった。

そしてその大きさたるや、首飾りが軽く二桁は取れるほどのサイズである。



「これは…なぜ、どうやって手に入れたであるかっ!?」

気が動転してしまってるのか、さっき言われたことがすっかり飛んでしまったようで、青年へと言い寄る。

「だから消えた亡骸から出てきたと言ってるだろう。自分にとって不利になるものだから、盗られない様に隠し持ってたんじゃないか?」

あまり興味なさげに青年はぶっきらぼう気味に答える。

青年のいう事にギルは「そうであるか…」としか言う事が出来なかった。


「…で、1つ頼みがあるんだが、聞いてもらえるか?」

もし残党が残ってたらいけないという事で、騎士団に遺跡の捜索の指示を出したりと忙しそうなギルに、青年が背後から声をかける。

「我らの危機を救い、その上夢魔まで倒してくれたのだ、吾輩が出来る範囲であれば、いくらでも相談に乗るのである」

朝までの毛嫌っていた態度はどこへやらというくらい、好意的な顔で自分の胸を拳で軽くたたきながらギルは答える。

「…今回の夢魔を倒したのは、お前って事にしてもらえないか?」



(…今この冒険者は何と言ったであるか?)

ギルは目の前の冒険者を見るが、全身黒い布などで覆われており表情などを読み解くことは出来ないが、その口調は冗談を言ってる風には聞こえなかった。

「討伐した栄誉を吾輩に譲る…と聞こえたようであるが‥?」

「聞こえたも何も、そう言ったんだが?」


改めて聞き返したが、やはり意味が分からない。

そんな事をして、この冒険者に何の得があるというのだろうか?。


「…それは、栄誉を譲る代わりに金品等を対価にくれ、という話であるか?」

ギルは少し怪訝な顔つきになり、青年に疑問を投げる。

「…いや、ちょっと色々あって、オレはあまり目立ちたく無い。もし褒章などを貰ったりして、この国で名を売るのは避けたい」


(…もしかしたらこの冒険者は、元々名を馳せた高名な者だったが、身の危険を感じた為に名を変えて新しい人間として生きようとしてるのであるか?)

もしそうだとしたら、謁見の間で見せたあの低ランクではあり得ない知識量も、夢魔を倒した強さも納得がいく。

一つの可能性として、昔に夢魔と何かしらの因縁があって、それを果たすために同行を求めたのかもしれない。


(…だとすれば、ここは余計な詮索をせずに提案を受け入れるのが、最大の恩返しになるであるか)

少し考えた後、ギルは青年に答えを返す。

「お前の言う様に倒した栄誉はこちらで預かるのである。ただし、倒したのは吾輩一人でなく先ほど共に来た騎士達と共にという事でいいであるか?」

「…それは任せる。女が待ってるので、先に戻るぞ」

それだけ言うと、青年は手を振り、野営所の方へと歩いていった。



ギル達は遺跡の捜索をしつつ、いまだ動けない兵士達を馬車に乗せたりなどして戻る段取りを進めていく。

幸いだったのは、赤い霧は睡眠《スリープ》の効果だけだったらしく、騎馬隊や後から巻き込まれた騎士達はほぼ無傷だったことだ。

あの謎の衝撃で倒された者は、虚脱感はあるもののケガ等はなく、時間が経てば何事もなさそうである。


結局のところ、弱体魔法の対策として破夢の首飾りを持っていた自分の周囲にいて、正気を失った仲間達にケガを負わされた騎士達が一番ケガが酷いという皮肉だった。

(…まったく、戦とは思ってた通りにはいかないものであるな)

ギルは分かりきっていたはずの事を、今更ながらに実感していた。



先に1人戻った青年は、昼くらいには野営地へと戻ってきていた。

心配してくれていたのか、青年の姿をみつけた少女が駆け寄ってきたので、護符が役に立ったぞと伝える。

「それは何よりでしたの。では騎士の皆さんが戻ってきたら、今夜はここで野営して、戻るのは明日なのですのね?」

少女は「これならジョンさんたちの出発に十分間に合いそうですの」とご機嫌な顔になる。

青年も「そうだな」と軽く同意をすると、少女と一緒に待機用のテントへと入っていった。



討伐隊が戻ってきたのは夕方を回ってからだった。

疲弊して戻ってくるかと思えば、あれだけの大軍で行った割には戦闘らしい戦闘もなく、それどことかずっと寝てた騎士や兵士が大半だったという事で、逆に力が有り余ってるように見えた。

 
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