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急転

その11

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「速やかに拘束を外し解放せよ。これは王の命である!」

王の命令が飛び速やかに3人は解放される。


先ほどまで縛られていた手首をさすりながら、アドルは王の前に膝をつく冒険者を見た。

(…何が起こってる?。あの骸骨兵スケルトンは依頼者の手じゃなかったのか?)

状況が全く掴めず、とりあえず流れに身を任せるしかない。


周囲には大量の騎士、逃げるのは例え一人だったとしても厳しいだろう。

その上、後ろには部下が二人───あいつ等もそれなりにやるが、まず逃げれるとは思えない。

少なくとも最悪の状況ではない───油断だけはしないよう、アドルは緊張感をもって状況を見守ることにした。



「…ところで、話の続きなんだが、なぜこの国は夢魔に襲われている?」

黒衣の冒険者は王の方を見て話を戻す。

王は隠しても仕方ないと、初老のエルフに指示をして状況を説明させる事にした。



「我が国はここ1年程前から、住民が夜な夜な力を奪われたように疲れ切るという謎の病が流行ってまして。それの原因が、大昔に滅んだとされていた伝説の夢魔であるというのが分かったのが、数か月前の話なのです」

コホンと一回咳をすると、初老のエルフは更に説明を続けていく。


「そして騎士団等の捜索の末、西の遺跡にその夢魔とやらがいるという事を突きとめ、ここ数日の内に討伐する予定だったのでございます」

説明を終え初老のエルフが王に頭を下げると、王はそれを受け言葉を繋ぐ。

「此度の夢魔の手による襲撃は、その時に自分の力を無効化する、この秘宝を恐れての事であろうな」



「なるほど。そういう事か」

青年は静かに納得していたかと思うと、とんでもない提案を投げてきた。


「…よし、その討伐に俺も連れて行け」

横の少女が「あら?」と青年を見ているが、それほど驚いた様子はない。

「ジョンさん達の出発までに終わりますの、それ?」

国をあげての討伐の話を、なんかどうでも良さそうな話と並べて話す少女。

青年は「まぁ大丈夫だろう」とこれまた軽く返す。



「貴様は馬鹿であるか!?。国をあげての討伐に、貴様の様な冒険者を連れていけるわけがないのである!!」

騎士団長のギルが我慢の限界と大声で怒鳴る。王の前でなかったらそのまま斬りかかって行きかねない勢いであった。


「だが、俺がその気になったら、その秘宝とやらは失われていたのだろう?。連れて行くくらい安い礼だと思わんか?」

横の少女が「おー」と、なにかに感心してた。

そして騎士団長のギルは「うぎぎ…」と唸るばかりで言葉を繋げないでいる。



(…あれだけの夢魔に対する知識、確かに同行してもらう価値はあるか)

あの冒険者が言うのももっともだ。

貴金属などの宝はどうとでもなるが、あの秘宝だけは代わりなどないのだ。

そして秘宝を守り戻した報酬がだというのなら許可せずを得ないだろう。


「よいだろう…明日の早朝から出発し、その日の夕方には到着する。討伐は夜が明けてから行う。それでもよいか?」

周囲が耳を疑う中、王は冒険者へ告げる。

王の言葉を受け、少女と青年は頭を下げる。

少女達が頭をあげると、少し優しい感じを含んだ王の声が聞こえる。

「…では、頼んだぞ。若き冒険者よ」



少女達と盗賊シーフ3人組は騎士に連れられて城門まで戻ってきた。

謁見の間という事で預けていた杖、そして盗賊シーフたちは奪われていた短剣を返してもらう。

最後に連れてきた騎士から盗賊シーフ達に、後日宝を守った褒美があるので来るようにと指示があった。



城門を離れて少し歩くと、後ろにいた3人組の内、長髪のエルフの女性が少女達に声をかける。

「ありがとうございました。貴方の一言が無ければ私達の言う事など取り合てもらえず、あのまま処罰されていたことでしょう」

そしてとてもきれいに頭を下げ、横にいた短髪の女性もならって頭を下げる。


「いやー、でも本当に助かったよ。いつか必ず礼は返す。機会があれば訪ねてきてくれ」

そういうと、男性は懐から一枚の紙を出すと、青年に渡す。

それは『アドル商会代表:アドル』と書かれた名刺だった。


横からそれを覗き見た少女は、どこか楽しそうに言う。

「あら、あなたは社長さんでしたのね?」

そして少女はアドル、そして後ろの二人の女性を見るが、その格好はどう見ても盗賊シーフにしか見えない。


「社長さんなのに、盗賊シーフなんですのね?」

アドルは待ってましたとばかりに、少女にニヤリとする。

「ま、表の顔はな。ただ、文字どおり裏の顔ってのがあってな」

言われた少女は屈むと、下から青年の持っている名刺の裏を見てみると、そこには『盗賊シーフギルド:スカイ 代表:アドル』と書いてあった。

少女は「なるほど。確かに裏の顔ですの」と納得した。


それからしばらく雑談をした後、再び礼を言うと3人組は街の方へと姿を消した。



「面白い人達でしたの。またどこかで会えるといいですの」

盗賊シーフと絡むとかトラブルの予感しか感じないが、青年はとりあえず同意する。

その後、そろそろ今夜の宿を探そうと、2人並んで街に向って歩き出すのだった。

 
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