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出発

その7

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「おお、ウィズ=ダムの友よ、長旅ご苦労様です。無事でしたか?」

二人の従者を連れた、すこし成金趣味のする商人のような男が目の前に現れた。

「おお、これはシャダールさん、お迎えありがとうございます。今回はついていたらしく、一度も襲われなく到着できました」

ジョンは恭しく相手へと返答していく。

きっとこの街での商談相手なのだろう。


「なんと、一度も襲われなかったですと?」

ジョンの話を聞くと、シャダールと呼ばれた成金商人は驚いたような声をあげた。

「確かに一度も襲われませんでしたが、それがどうされましたか、シャダールさん?」

ジョンが疑問すると、シャダールは少し困ったような顔をして答えた。


「いえ、最近街道の近くに小鬼ゴブリンどもが住み着いたらしく、頻繁に商団キャラバンが襲われているのですよ」

ジョンが頷き話を聞いてると、シャダールは更に状況を語る。

「ですので、最近は護衛を多めに雇ったりする商団キャラバンも多く、近々王国騎士団が討伐に出るようにもなっているのです」



なるほど、と話を聞いていたジョンは、ふと後ろの冒険者をみる。

こちらの話を聞かないどころか、逆に言い伏せてきたり、こちらの好意を無にしたりと色々癪に障るのも事実だ。

だが、護衛という職務に忠実故にこちらの親切を断り、より安全な行程のために雇い主に対しても畏れず意見をしてきたと考えると、逆に素晴らしい冒険者にさえ思えてくる。


実際、日中はおろか、夜間に襲われた形跡の1つもなかった。

何度もこの街へ来てはいるが、正直なところこれほど順調だったのは初めてだ。


そして目の前の商人の話では、今まで以上に街道の危険度は増していたと聞く。

それでも襲われなかったのは、あの冒険者が言う様に音を奏で存在感をアピールしていたお蔭なのだろう。

(なるほど、冒険者ギルドが自信をもって勧めるだけある。他の高ランク冒険者よりよっぽど職務に真面目で優秀だ)

ジョンは腕を組み、どこか満足気に頷くのだった。


「それでは、馬車をこちらへどうぞ。これからは私達商人のお楽しみの、商談の時間ですよ」

シャダールが自分の商会の方へと、ジョン達の商団キャラバンを案内する。

ジョンは部下の商人に指示を飛ばし、馬車を動かし荷をおろしていく。



「護衛ご苦労様でした。おかげで無事に到着できました、ありがとうございます」

ジョンは少女の差し出してきたクエスト完了証にサインをしながら、思い切って目の前の冒険者に声をかけた。


「ところで、あなた方はこれからどうするのですか?。このままこの街に残るのです?」

質問を投げられた二人組のうちの一人の少女は、完了証を受け取り鞄に入れるとジョンを見ながら答える。

「わたくし達はとりあえず、完了証をこちらの街で提出したらこの街に泊まりますが、明日にでもまたウィズ=ダムへと戻りますの。帰りは歩きなのでのんびり帰りますの」

とりあえずクエストでこちらに来ただけなのだ。

ウィズ=ダムにはナタリー達も待っているのであまり長い旅をして心配をかけたくはない。

それに、前に得た賞金もほとんど寄付してしまっているので、長期間の旅は所持金も不安になるというのもあった。


「丁度ウィズ=ダムへの護衛などがあるといいのですが、そんな都合よくあるわけもありませんの」

少し残念そうに少女は顔を曇らせる。

頷きながら少女の話を聞いていたジョンは、それではとばかりに少女へと交渉を持ちかける。

「それでは、帰りも私の達商団キャラバンを護衛をしていただけませんか?。4日ほど滞在して色々仕入れたら、それを積んでまたウィズ=ダムへと戻る予定なのです」

話を聞いた少女は顔をぱっと明るく輝かせ、隣の青年に何か嬉しそうに報告している。

そして「こちらこそよろしくお願いしますの」とお辞儀をするのだった。


「ではこの街の依頼を出しておきますが、あなた方が後で受けに来るのでそれで処理して頂けるよう、ギルドの方にはこちらで話を通しておきます。数日ですがよい観光を」

そう告げるとジョンは軽く会釈をして、商談相手の商会の方へと消えていった。


クエストも無事完了して、二人残された少女達は、とりあえず冒険者ギルドを探そうと街の中央へと向かっていった。

 
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