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出発
その6
しおりを挟む「荷の確認は済んだか?。では出発するぞ。」
マーン商会代表兼ジョン商談長のジョン=マーン=ジュニアの声がまだ早朝の街道に響く。
昨日は何事もなく順調に進めたので、全行程の4割ほどは来れている。
少しでも早く到着すれば、それだけ儲けが増えるのが商売というものだ。
(…後ろの荷馬車の冒険者が言うことを聞かないのが少々癪に障るが、商団が無事目的地に着くのが最優先だ)
二台目の馬車の荷台で相変わらず楽器を奏でる黒衣の冒険者を忌々しく一瞥すると、前を振り返り「出発!」と号令を響かせる。
昨日同様順調に進む。未だにモンスター等に遭遇はないままである。
時々襲われたのであろう他社の荷馬車の残骸が道脇に残っており、あまりに順調で忘れそうになるこの街道の危険さを改めて確認する。
陽が落ち始め商団が視界の良い広めの広場のような場所に到着すると、ジョンの指示が飛びまたキャンプの準備を開始する。
もうこの頃にはジョンの青年への不信感は薄れており、むしろ安全な行程をありがたがってるほどであった。
食事の準備を終え、皆が食べ始めるのを笑顔で見て席を離れようとした少女を、ジョンはふと気まぐれで止める。
そして商人達の食べるパンやスープも分けて一緒に食事を囲ませる事にした。
少女がまるで娘みたいに一緒に食事してくれてる事に、商人達の顔は緩み、和やかな時間が流れていた。
「なあ、あんたもこっちに来て食べないか?」
機嫌の良くなってきたジョンは、荷馬車の上で干し肉を咥えて楽器を奏でる青年に声をかけた。
「…俺はこれでいい」
青年は顔を上げジョンの方を見ると、咥えた干し肉を指で示す。
「なっ…人が親切で言ってるのに、その言い草はなんだっ!!」
さっきまでの御機嫌はどこへやら、ジョンは青年に声を荒げる。
親切の押し付けで怒り出すのは、経営者の驕りと言われても仕方ないところなのだが…。
「ジョンさん、ちょっと待ってくださいですの」
怒りだしたジョンに少女が駆け寄り説明を始めた。
「シェイドさんは皆で同じ食事をして、万が一食あたりをして誰も動けなくなってるところを襲われる可能性を考えて、ああして別に食べてるんですの」
少女が真剣に説明するのを聞いたジョンは、「そういう事ならしかたないか‥」と言い、渋々とはいえ納得したのか、また皆の囲む炎の方に戻っていった。
「…前もって打ち合わせしておいて良かったですの」
少女は青年の隣まで来ると、商人達には聞こえない程度の声量で話しだした。
実は、こういうトラブルがあるかもしれないと、クエストを受注した夜にいくつか想定していた、その内ひとつがこれだったのだ。
不死族《アンデット》である青年は食事を必要としていない。
ただそれは人間社会ではあまりに異質なので、食事しているふりとして、食事時間の間は干し肉を咥えることにしたのだ。
青年は唾液等を出さないので、ただ歯で挟まれるだけの干し肉はほぼ劣化する事がなく、何度も再利用出来るのも理由の一つだ。
そして、このように食事に誘われた時は、こうやってやり過ごそうと二人で決めておいたのだ。
「では、わたくしはあちらに戻りますの」
青年に軽く手を振ると、少女は商人たちの囲いへと戻っていった。
戻ってきた少女を歓迎し、商人達はまた楽し気に会話を再開した。
そしてこの夜も青年一人が見張りとして残り、何も現れない穏やかな時間だけが過ぎていった。
出発して3日目の昼前、理想の到着時間よりもはるかに早い昼前に商団はサンド=リヨンの門の前へと到着した。
王国兵士による荷の確認と、簡単な身分証明等を済ますと、商団は街へと入っていくのだった。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
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