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闘技大会

その20

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神官の少女と国威の青年の二人が授賞式も終え城を出ると、とりあえず日課にもなってきているクエストを受注しに冒険者ギルドを目指して通路を歩く事にした。


大通りからギルドへの近道の細い路地に曲がって暫く進むと、大きな人影が通路をふさぐように立っていた。

悪趣味な鎧、異形の両手斧─────昨日のダメージなのか、顔の下半分は包帯が巻かれている。

そう、いたのは昨日の決勝で戦ったドルガ=ドルガだった。


ザザっと音がしたと思うと、少女たちの後ろにも、いつの間にか3人の武器を持った男が立っていた。

「ちょっと顔貸しな…」

大男はそう言うと、顎で暗い裏路地の方を示す。

少女が青年に寄りしがみついてきたので、青年は少女の頭に軽く手を載せると「大丈夫だ」とだけ、小さくつぶやいた。

大男は二人が着いて来てるのを確認するとツカツカと裏路地を進んでいき、その突き当りまで辿り着く。



「偶々俺が躓き、そこにラッキーパンチが当たっただけで優勝とは運がいいよな、てめぇ」

ドルガは青年分かりやすい因縁をつけてきた。


いつの間に増えたのか、二人の周囲にはドルガを含めて7人が囲む形で立っている。

服装を見る限り魔法使いや神官もいるようだった。


「ラッキーパンチだから優勝を取り消せと国に言ってもそれは通らねぇだろう。だから優勝はくれてやる─────代わりに貰った賞金は全部置いていきな」

周囲ではニヤニヤいやらしい笑いをした男達が武器を構えている。

「そんな言いがかりはないですの!あれだけ派手に負けたんだからおとなしくしてたらいいんですの!」

少女は強気に言い返すものの、青年の横からは動けない。

青年は軽く周りを見回すと、面倒くさそうに一息吐いた。


「いいから早く出せって言ってるんだよっ!。それとも痛い目をみたいのかっ?」

真横にいる男が剣を振り威嚇して、二人を脅してくると、周りからは下品な笑いが響く。


「…おい、そこの大男」

周りの男達は全く気に留めず、青年はドルガに声をかける。

「はぁ?。なんか文句あんのか?」

大男は体を前に倒し、両手斧の柄を肩にぶつけながら威圧をかけていく。

「…お前は戦いの最中、何もないところで躓くような,本物の阿呆か?」

青年が顔を上げ大男を睨み返す。


「何言ってんだ、てめぇ?。まだ自分の立場が分かってねぇみたいだな!。もぅいい、やっちまえ!」

大男が周りの男達に指示を出す…が、誰も向ってこなかった。

「貴様ら、やれって言ってんだろうが!」

更に怒号を飛ばし周りを見る大男、そこには目を疑う光景があった。


「ど、ドルガさん…助けてください…」

やっとの事絞りだしたような男の声がする。

周りの男達のほとんどは、いつの間にか鎧を着た人影に押さえ込まれていた。

その人影は歯をカチカチ鳴らし、目があるべきところは完全な孔になっている─────そう、骸骨兵スケルトンだ。


「なんでこんなとこに骸骨兵《スケルトン》が?。おい神官、さっさと浄化《ターンアンデット》しやがれ!」

横に頭を向ける、そこには既に後ろから骸骨兵スケルトンに羽交い絞めにされている神官がいた。

「それが、いくら浄化ターンアンデットしても抵抗レジストされて出来なかったんです…」

「はあぁっ!?。浄化ターンアンデット抵抗レジストする骸骨兵スケルトンとか聞いたことねぇぞ!?」


ならば自分で殴りかかろうと足を踏み出そうとしたドルガは、自分の足が全く動かせないことに気付く。

足元に目を向けると、そこには地面から生えてる様に足を掴む、白骨の手が何本もあった。

いつの間にか両脇にも骸骨兵スケルトンが現れて、すぐに両手も押さえ込まれ、大男は身動き一つ出来ない状態だになる。


ドルガは目の前の青年達を見る─────これだけ自分達が骸骨兵スケルトンに襲われているのに、何故か目の前の二人には一体も襲いかかってない。

ここにきてやっとドルガは状況が分かり始める。

「てめぇ、まさか死霊術死ネクロマンサーかっ!?」



死霊術死ネクロマンサーとは、魔法を用いて人や魔物の死体を操る術者たちの事である。

そのあまりに禍々しさの為一般的に忌避されており、ほとんど術者は存在しないとされている。



青年は前に進み出ると、ドルガを前蹴りで突き当りの壁へと蹴飛ばす。

青年の蹴りが大男に当たる瞬間、骸骨兵スケルトン達は手を離し、壁にぶつかった大男の横に新たに現れると再び四肢にまとわりつき自由を奪う。

少女が「やりすぎちゃダメですのよ!」と声を出しているが青年からの返事はなく、面倒くさそうに肩を回しながら、青年は大男の目の前まで進んでいく。


「はっ!!…まさかあの試合の時に足が動かなくなったのも、この骸骨兵スケルトンか!?」

ドルガは目を見開き青年に疑問するが、青年は何も言わずにそこに立ったままである。

「てめぇ、きたねぇぞ!。きちんと正々堂々戦いやがれ!」

今自分がやってることを棚に上げ、ドルガの抗議は続いていた。

青年は言われる言葉に全く興味は示さないまま、大男に近付くと口を開く。


「ところでお前、デッドマスターを倒したって話だよな?」

まったく話の流れの分からないまま大男は、「それがどうした!」と強気に答える。


大男の顔の前まで顔を寄せた青年は、目の前で口元のフードをずらす。

そして大男にだけ聞こえる、感情のこもってない声でボソリと告げる。

「喋らなくていいから首だけを振って答えろ─────お前が倒したっていうデッドマスター、こんな顔をしてたんじゃないか?」



青年の顔を見た大男は、一瞬で目を大きく見開き、驚いた顔になった。

釘を差されるまでもなく言葉すら出せなくなり、ただただ首を左右に動かす事しかできなくなっていた。


なぜなら、大男の目の前には明らかに頭がい骨とわかる白い肌?と、眼孔にふよふよと浮かぶ眼球があったのだから。
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