上 下
13 / 103
闘技大会

その13

しおりを挟む
 

「…でも、そんなことになってたんですのね」

神官の少女がどこか困った感じとも取れる雰囲気で、そうつぶやいた。

少女と黒衣の青年は闘技場に繋がる通路を離れ、誰もいないトーナメント表の貼ってあった場所へと戻ってきていた。


「ま…何も問題なさそうだし、俺としては別に構わないんだが…」

「いいえ、そんなわけにはいきませんの!」

青年はあまり興味なさげに答えるが、少女の納得は得られなかった。


「それに、あの人の戦い方はあまり褒めれたものじゃありませんの」

まださっきの大男への怒りは冷めきっていなかったのか、ぶつぶつ何か言っている。

青年は軽く息を吐き、少女の頭を右手で触る。


「じゃああいつと当たったらぶっ飛ばす、って事でいいか?。正直、俺も少しは思う事があるしな」

「む、また子ども扱いして…でも、分かりましたの。そこまで言うのなら、そちらはシェイドさんに任せますの」

ただ、と言いながら少女は顔を上げ、青年の顔を指さした。

「やりすぎは絶対ダメですのよ?」

青年は投げやり気味に「はいはい」と答える。



闘技場内に音響魔法によるアナウンスが響き渡る。

『お待たせしました。これより闘技大会2回戦を開始します』

アナウンスが終わるのを待たずに、観客席から興奮気味に「わー」っと歓声が上がる。



2回戦第一試合はルークと槍使いの戦いだった。

遠目からの槍の攻撃を左右に素早く身をかわし、隙を見つけて一気に近付くと目にも止まらないような速さで上下左右から剣撃を打ち込んでいく。

しばらくなんとか耐えていた槍使いだったが、とうとう攻撃を捌ききれなくなっていい攻撃をもらい転倒させられてしまう。

「…まいった」

槍使いは槍を手放すと、両手を上げる。

「…勝負あり!。勝者、ルーク選手!」

審判の声が闘場に響き、勝負の決着を告げると、また観客席から大歓声が上がった。



「お疲れさまでしたの。ルークさんはなんかすごく素早いんですのね?」

通路へと戻ってきたルークに、少女は声をかける。

「おう、ありがとな。次はあんた達の番だな。また派手なの期待してるぜ」

少女の横に居た黒衣の青年に声をかけると、通路の壁に背を預け、余程疲れたのかそのまま座りこむ。

「あーでも、やっぱ槍相手はきついな。もっとこう、上手く間合いも詰める方法がないもんかね…」

自分的には納得いってない戦いだったのかルークは顔の汗をぬぐいながら頭をかき、何やら考えている様に見える。


『続きまして2回戦第二試合を開始します。シェイド選手、ゲイダ選手。闘場へお願いします。』

「あ、シェイドさん、呼ばれましたの。今度こそちゃんとしてくださいですのよ?」

1回戦で散々文句を言われたらしく、どこかうんざりした雰囲気を漂わせながら、青年は闘場へと繋がる通路を進んでいった。

少し遅れて、あまり見ない形の槍を手に持った闘士が、少女とルークの前を通って闘場へと出ていく。


「あの方の持たれていたのは、なんか変な形の槍でしたのね。斧みたいな槍みたいな、不思議な形でしたの」

後ろに座るルークの方に顔を向け、「ね?」と少女は同意を求める様に話しかける。


(…あれ?。もしかしてオレ、解説役にさせられてないか?)

少し納得がいかないものの、神官だと武器への知識もそんなないだろう。

ここはやっぱり剣士のオレが教えてやるべきだろうと、尻の埃を手ではたきながら立ち上がる。


「あれは戦戟ハルバードって呼ばれる複合武器、だな」

「…複合武器、ですの?」

ルークの予測通り、全く分からないといった感じで少女はこちらを見てくる。

「槍の部分で突く、斧の部分で薙ぐ、刃の部分で斬ると、一個の武器で色々やれるのが特徴だな」

ふんふんとうなずく少女がどの程度理解してるのかは分からないが、とりあえず話は続ける事にする。


「逆にあいつは大丈夫なのか?。槍と格闘なんてかなり厳しいと思うが?」

ルークが思っていた疑問を少女にぶつけると、んーと軽く考えたあと、あっけらかんと少女は答えた。

「大丈夫じゃないですの?。さっき、この後当たったらあの無礼者をぶっ飛ばしてくれるって言ってましたのよ?」

ここで言われてる無礼者とは、間違いなく1回戦でちょっといざこざのあったドルガの事だろう。


(…ん?って事は、トーナメント的にオレも負ける前提か?)

ルークはそんな疑問を持ちつつ少女を見るが、悪気はないのか少女は、不思議そうにこちらを見返してくるだけだった。

「…まぁいいさ」

諦め半分のルークは闘場の方に目を向けると、少し離れた闘場の中央では二人が既に向かい合っていた。



アナウンスが二人の事を紹介して、場を盛り上げている。

(さっきの試合を見るだけじゃ何も分かりませんが、うかつに攻め込まず確実にやるほうが良さそうですね。普通にやれば、相手が格闘だというのなら負ける要素はありません!)

ゲイダは目の前の黒衣の青年を見ながらそう考える。


1回戦開始即1撃で決めるというとんでもないことをした相手、いくら相性のいい格闘家モンク相手だといって油断はならない。

(とりあえず距離を取り確実に削る、そして勝つ…よし!)

ゲイダは知らぬ間に、槍を持つ手に力がこもっていた。



審判が二人に「両者構えてっ」と合図をする。

相手は拳を握ると自然体で、ゲイダも両手で持った槍の切っ先で相手を牽制する様に構える。


『それでは、試合開始してください!』

アナウンスが響き、試合開始の打鐘かねが闘場に『ジャーン』と鳴り響いた。

だが闘場の二人の闘士に共に動きはなかった。

じわじわと様子を見あいながら距離を保ったまま、円運動をしている感じに見える。


(…すぐに殴りかかって来るかと思いましたが、とりあえず牽制は成功した様ですね)

ゲイダは相手の動きを見ながらそう納得する。

ここからは戦戟ハルバードの攻撃範囲を活かして、どうしても接近しないといけない格闘家モンクを確実に削ってゆく戦略だった。

もちろん大振りな攻撃はカウンターを取られて、1回戦の二の舞になるので絶対に厳禁だ。


ゲイダは慎重な性格なので戦い方に派手さはないが、性格とこの長物の武器というのが合うのか、その勝率は決して悪くない。

むしろ無謀な討伐クエストは決して受けずに、確実にこなしてくれるのでギルド内での評価も高い。


(…とにかく確実にやるべき事をやるだけです!)

ゲイダは油断なく槍を構えたまま、正面で拳を構える黒衣の青年を見るのだった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

処理中です...