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第二話

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「帰る」
 抱きしめる徹司を引きはがし、身なりを整える昌。一緒に死ぬ事のできない己が不甲斐ない。不貞腐れた昌は、撤司と目を合わさず、彼の家を出て何かから逃げる様に家へと帰りついた。
「兄様、お帰りなさいませ」
 妹の千代ちよが出迎える。よくできた妹で、父母の死後家を守り続けている。しかし、しっかり者の千代の目が泳ぎ、着物をせわしなくいじっている。
「お隣のご長男様が招集されたそうです」
 ここら一帯の男衆みな招集を受けたようだ。もちろん昌は知っているが知らぬふりを通すし、足に障害を抱えた今招集されるとも思っていない。
「そうか。私はお国の為に戦えず何とも情けない男だ」
 棒読みで気持ちの籠っていない言葉に千代は反論しない。千代も美徳とは無縁の思考の持ち主だ。そして彼女が気にしているのは隣の長男ではない。
「徹司様も……招集されてしまったのでしょうか……」
 千代の遠くを見る瞳に視線を下げる昌。千代にはそれが「招集された」の意に見えた。しかし昌の本音は違う──これは謝罪だ。徹司を愛する千代へ、実の兄と徹司の本当の関係を秘密にしている事への懺悔だった。今度はそれから逃げる様に自室へ向かう。足をさすりながら胡坐をかくと後ろからずっと千代がついてきていることに気が付いた。
「どうかしたのか?」
 咳払いをする千代の姿に昌は胸騒ぎがした。
「兄様、私と徹司様を結婚させてくださいませんか?」
 千代は、自分が徹司に想いを抱いていることを兄である昌に打ち明けていた。それはもう幼い頃から。しかし昌も徹司に好意があり、実の妹で徹司と婚姻を結べる性別の千代に嫉妬を抱いたこともある。徹司と千代が仲良く談笑しているのを遠くから羨ましく見ていた。男女であるというだけで、関係を結ぶことが容易い現実を嘆いたこともある。
 だが、徹司が関係を持ったのは昌とだった。優越感に浸るとともに、関係を持って数年した頃、男同士が許容されぬ現実に段々とこの関係の終わりを想像するようになっていた。その為、好いている気持ちを隠し通しながら、肉体関係を続けている。
「口利きをしろと?」
「はい」
「死ぬかもしれない男だぞ」
「それでも構いません。やはり私には徹司様しかいないのです」
 女は強い。いつまでも曖昧な肉体関係を続ける自分たちとは違う真っ直ぐな瞳。自分のようにいつまでも思いを告げずにいる男よりよっぽどまともだ。
「あいわかった」
 出兵と妹の幸せという言い訳を被せて、想いを封印する決意をした。
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