ワンライ!

ベンジャミン・スミス

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極小こそ極上なり!【研究員×刑事】

第五話 「お揃いのカップ」

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「親指サイズですね」

 ノギスで頭をかきながら津河山は嬉しそうに微笑んだ。測定された丹波は病院でもないのにベッドで横になり股を広げている自分の状況に手で顔を覆っていた。そこへ追撃するようにサイズを言われ、もう男の尊厳はないに等しい。

「でもデカくなんだろ?」

 縋るように指の隙間から零す。

「交尾したい相手でもいるのですか?」
「交尾とかいうんじゃねーよ。いねーけど……やっぱり……公共の場で脱ぐ事だってあるだろ」
「警察官が堂々と公然猥褻ですか」
「温泉に決まってんだろ!!」
「好きなんですか?」
「おう」

 独り身丹波は休日に温泉へ行くのが趣味だった。酷使した身体を癒す極楽浄土が地獄とならぬよう、何がなんでも大きくする必要があった。

「今まではタオルで隠していたのですか?」
「別に。確かに小さいとは思ってたけど、そんなの気にしないだろ。ヨダレ垂らしたストーカーに極小性器って言われたりしなけりゃな」

 他人から言われてしまえば、急に周りの目が気になるのは当然。

「では、大きくなった暁には一緒に行きましょうか。お詫びです。私が極上の温泉場所を探しておきますよ」
「何か秘湯でも知ってんのか?!」

 興味のある話に、丹波は腹筋の力のみで起き上がった。しかし、輝いていた瞳は光を失い、目の前の光景に瞬いた。
勢いと筋力に「肉体派ですね」と呑気な声を出した津河山の手には──

──男性器を模した大人の玩具が握られていた

「なんだそれ」
「これを貴方のお尻に挿れます」
「はっ?」
「貴方の性器を大きくする第一ステップです。今日から継続して続けていきます。第2ステップ、前立腺で射精まで頑張りましょう」
「そんなフィットネスクラブみたいに簡単に言うな!  つか、挿らねーよ、そんな極太!」
 
 同じ男の丹波でもこの大きさは生唾を飲む。自分のものとは違うそれに尊敬と嫉妬が交差し、そして胸が熱くなる。
その反応を津河山は見逃さなかった。

「ちょっと興奮してますよね?  その証拠にほら……」

 津河山の指さした先には少しカットされた陰毛の中で張り始めたそれ。

「そ、そりゃ、同じ男でもそのサイズは……性的な意味じゃなくて……」
「いえ、貴方は確かに性的に興奮しているのです。憧れがイきすぎてある種の興奮を生んでいる」

 津河山がいやらしく微笑んだ。策士が笑うその姿に丹波に悪寒が走った。

「ところで、これは、刑事さんの性器ですよ」
「ま、まさか」
「そうです。トイレで型を取ってもらったあれです。それを元に作りました。これを挿入します」
「はぁ?! あんたの使用済みだろそれ!」
「私は1度も使っていませんよ」
「あんた、好きな性器の型を取って、自分でオナるんじゃねーのかよ!」
「そんな性癖があるとは一言も言ってません。私は伸びしろのある性器に興奮する。そして──」
 
 津河山が舌をペロリと出す。

「──それで対象者をメスイキさせるのが好きなのです」

  丹波は予測不能な男に腰から砕けおちた。

「しかし丹波刑事の性器を丹波刑事のアナルに挿入するのは不可能です。長期の考察と予想の結果、肥大化の幅は大きくても、アナルまで届く長さにはならないと数字は言っています。まっ、丹波刑事が無理でも、そもそもそんな長い方、地球上にいないでしょうけど」

 津河山は咳払いをして、玩具を丹波の口元に持っていった。

「つまり、こうしなければ丹波刑事を丹波刑事の性器で犯すことができないのです」
「まて、まてまてまてまて。つまり最初から型を取るだけじゃ済まされなかったってことか?」
「そうですね。あの写真で脅すつもりでしたが、まさか「性器を大きくする方法」を聞かれるとは思いませんでした」
「性器をここまで研究し尽くしている男になら聞きたくもなるだろ。前立腺がどーのいってたけど関係あんのか?」
「あります。前立腺を刺激して射精することを覚えれば大きくなります」
「嘘っぽいな」
「嘘ではありませんが確証もありません」
「でかくならない可能性もあるってことか?」
「はい。しかし、やってみなければ分かりません」

 藁にも縋る思いとはこの事だと、丹波はこの方法に望みをかけた。

「どうしたらいいんだ?」
「四つん這いになってください」

 サイズを測られた仰向けの丹波は動かない。

「……電気消せよ」
「女性みたいですね」
「うるせー! 早く消しやがれ!」
「はいはい」

 真っ暗になり、丹波は何の抵抗もなく四つん這いになった。そこへ何の躊躇いもなく、津河山の五本の指が臀部の輪郭をなぞり、二本の指が割れ目を広げる。

──ピチャッ

「つめてぇー!!!」

 急に粘着質で冷たい何かが割れ目を伝い、丹波は声を上げた。

「ローションです」
「先に言え! 急に勝手なことするな!」
「分かりました。ちゃんと伝えます。では電気をつけますね」

 カチッと音がしてベッドサイドのオレンジの明かりが灯る。

「つけてんじゃねーよ!」
「ちゃんと伝えましたよ?」
「いいとか一言も言ってねーだろ! 尋ねろ、そして了承をとれ!」
「はいはい、次からそうします。では、まず指を挿入していいですか?」
「……」
「了承しかねますか?」
「……勝手にしろ」
「困った人ですね。了承がとれなければ何もできないじゃないですか」
「あーーもうめんどくせー!! さっさと突っ込め!」
「はい」

 返事と同時に、津河山の人差し指が、秘部を広げ侵入した。

「いっ?!」
「痛いですか? すみません。もう少し優しくします」
「おい、馬鹿野郎ッ……優しくされると……怒鳴りにくいだろ!」
「でも痛いんでしょ?」
「痛くねーよ! こんなの刺された時に比べればッ」

 津河山はシャツを巻くって丹波の背中を眺めたが、筋が通り、背筋が浮き出た逞しい背中に傷などない。

「どこを刺されたのですか?」

 丹波は腹をねじった。ちらりと見えた割れた腹筋。そこには縫合の後があった。

「背中なんて刺されるかよ。犯罪者に背を向けるほど俺は落ちぶれちゃいねー」

 アナルを掻き回されているのに、仕事の話になれば急に饒舌になる丹波。その丹波を崩そうと、津河山は硬く膨らんだ箇所を指の腹で撫でる。

「あっ?!」

 丹波は背筋を硬直させ、経験したことの無い刺激に目を見開いた。その反応に満足した津河山は更に硬い箇所──前立腺を更に刺激する。

「んっ、ぐあっ……くそっ、なんだ、これ……」

 丹波が腰から砕ける。漢気溢れる刑事のこのギャップに津河山はいつもと違う興奮を覚えた。

「もしかするとギャップ全般に私は弱いのでしょうか?」

 ポツリと漏らした独り言に丹波は反応を見せない。シーツを握りしめ「ふざけんな……なんだよ、これ」と快楽に抗っている。

「自分で言うのもなんですが、前立腺マッサージには自信があるのであっという間に気持ちよくなれたでしょ?」
「くっ、くそっ」

 その悪態を最後に丹波は言葉を失った。指が引き抜かれ、自身の性器を型どった玩具が挿入された時には低い喘ぎ声が寝室に響き渡り、女の様に身悶えし、射精のその時まで頭の中は真っ白だった。
 気がついた時には真っ白なチカチカした視界に汚れた白がチラついていた。

「すげー気持ちよかった」

 蕩けた声を出し、丹波はベッドの上でぐったり沈んでいた。
そこへ津河山がマグカップを二つ持ってくる。

「どうぞ、お疲れ様です。大丈夫ですよ、変な薬なんて入ってませんから」
「ありがとよー」

 危険人物から丹波は平気で飲み物を受け取った。中にはアイスコーヒーが揺らめいていて、汗をかいた身体にはとても有難かった。

「前立腺への刺激で本当にデカくなんのかよ」
「たぶん」

 丹波は津河山を睨みつけた。視線を合わせず、マグに口をつけた津河山は相変わらず飄々としている。
手に握られているマグカップは模様の形が中途半端だ。見る側によっては端で切れているように見える。
丹波は自分が握るマグカップを見た。丹波と並べればハートの模様が完成する。

「お揃いのマグカップか……あんたの昔の恋人のものか?」
「さぁどうでしょう」
「やっぱり恋人って男? さぞかしいい思いしてたんだろな」

 セックス依存症になりかねない危険な快楽を思い出し丹波は再び目を細めた。

「どうでしょうかねー」

 マグカップにもう一度口をつけ、津河山は一気に飲み干した。そのまま背を向け、寝室から消える。消える間際の背中が纏う哀愁のせいで、丹波はバツが悪そうに頬をかいた。

「別に変態科学者の事なんて……」

 一線を越えたせいか、羞恥心塗れのはずなのに、丹波は津河山の元へ走り出したくなっていた。

「ちげー。職業柄、解明されていない事柄があんのが嫌なんだ」

 そう言い聞かせ、ちびちびとアイスコーヒーを喉に流し込んだ。
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