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番外編

番外編2 猫の日③

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 春人は急な出張を頼まれ、一週間近く福岡を離れる事となった。

「大丈夫かなあ」
「君がいなくてもチャーリーは死んだりしないよ」
「いない間に新しい飼い主が決まったら……」
「君が帰ってくるまで待ってもらおう」
「アルは大丈夫? だってチャーリーは……」

 チャーリーは相変わらずアルバートに懐いていなかった。猫パンチを華麗に避けていても心配だった。
しかし出張は待ってくれない。春人は後ろ髪を引かれる思いで出張に向かった。
 その夜、アルバートひとりが帰宅したのをみてチャーリーは玄関に張り付いた。まるで犬の様に忠実に春人を待っていた。その背中は文字通り猫背だ。哀愁がのしかかっている。

「チャーリー、食事の時間だ」

 アルバートが呼んでも猫缶の匂いを漂わせてもピクリとも動かない。抱っこしようものなら爪を立て、玄関マットにしがみつき梃でも動かなかった。何がなんでも春人を待つ姿にアルバートは一度キッチンへ戻った。丁度その時スマートフォンが震え、春人のメッセージを受信した。案の定チャーリーへの心配が並んでいた。食事は摂っているか、今は何をしているのか、アルバートと喧嘩していないかなど、母親のようだった。

「春人が心配している。さあ、ディナーにしよう」

 もう一度声をかけると今度は振り向いた。しかし直ぐに玄関の方に意識は戻ってしまう。アルバートは顎に手を当て少し考えた後、「春人」と口に出した。すると、またチャーリーが振り向いた。

「なるほど」

そして夕食に準備したサンドイッチと、チャーリーの猫缶を持って、彼の隣に座る。

「君とは気が合わないと思っていたが、どうやら私たちは仲間のようだ」

 チャーリーの黄色の瞳がアルバートを見つめる。

「本当は私も寂しくて仕方がない。春人の名が聞こえるだけで心が躍ってしまうだろう。君が振り向いたようにね。春人は私の太陽だ。そして——」

 アルバートはサンドイッチに口をつけた。マスタードの風味はアルバートの好みより少ない。これは春人仕様だ。

「きちんと食事をとらねば、私の太陽は雨を降らせてしまうのだよ」

 今にも玄関の扉を開けて春人が「おかえり! ちゃんとご飯食べて元気にしてた? 仕事ばかりしてご飯食べるの忘れたりしてないよね?」と帰ってくる気がした。

「君がこのまま食事を摂らずに痩せれば春人は悲しむ。元気に食事をしている姿を写真にでも撮って送れば、春人は最上級の笑顔を咲かせる。君も春人が好きなら、まずは彼が笑顔になる方法を考えねば」

 アルバートの言葉は猫のチャーリーには伝わらない。しかし英国紳士の流儀を肌で感じ取ったのか、チャーリーは目の前に置かれた猫缶に鼻を近づけた。そして鼻をヒクヒクさせた後、小さく口を開き食事を始めた。

「そうこなくては」

 その後、完食された猫缶とチャーリーの写真が春人に送られた。春人はその写真に嬉しい反面、早く帰りたい気持ちが逸った。


◇       ◇       ◇

そして待ち望んだチャーリーとの再会の日、出張先からスーツ姿でアルバートの家へ向かった春人は毛が付くのもお構いなしにチャーリーを抱き締めた。

「良い子にしてた?」

 喉を鳴らし、大好きな春人の帰宅に全力で甘えるチャーリー。ひとしきり抱っこすると春人はアルバートに抱きついた。

「ただいま!」
「おかえり」
「会いたかった!」
「チャーリーの次にかい?」
「アルが一番だよ!」

 そのやり取りを眺めていたチャーリーは寝室へと入って行く。春人は「眠いのかな?」とあとを追いかけた。ベッドの上で置物のように座るチャーリーに誘われ、春人はベッドにダイブした。

「ふふ、くすぐったい」

 うつ伏せの春人の首や頬をペロペロ舐めるチャーリーに、春人は声を上げながら頬ずりをした。その瞬間、寝室のドアが閉まる。そしてベッドを軋ませ、アルバートが春人に覆い被さる
 
「アル? したいの? でも、チャーリーがいるからダメ」
「見られたら恥ずかしいのかい?」
「……うん」
「ネコでも?」
「うん」

 紳士は口角をあげ、春人のシャツの釦を外していく。

「待って! チャーリーを向こうに……」
「このまま愛し合おう」

 アルバートの躊躇いのない指先は春人をあっという間に裸にしていく。春人を後ろから抱きしめたアルバートは、春人の脹脛に自分の足を潜り込ませ、M字に開脚させて、春人の下腹部を惜しげもなく晒させた。

「や、やだ! チャーリーが!」

 アルバートが春人の後ろで頬を緩める。戸惑う春人の目の前にはちょこんと座るチャーリーがいて、春人の朱に染まっていく身体を見つめていた。

「見られてる……アル、チャーリーがこっちを見てる」
「見られているね。君の猫も君が喘ぐ姿を見たいんじゃないかい?」
「猫がそんなの……ヒャッ、あ、ああ!」

 アルバートが舌先で春人の耳たぶをつんつんと突き、頬骨に反って舌を這わせた。

「それとも私と一緒に君を気持ちよくさせたいのかもね」

 低い声はやけに確信的で、春人にではなくチャーリーに向けられているように聞こえる。

「おいでチャーリー。久しぶりの春人だ。一緒に堪能しようか」

 身を硬くした春人。「にゃおん」と鳴いた白黒の猫は前足を春人の肋骨に乗せた。

「いたッ!」
「こら。爪を立ててはいけない。大切な人が傷ついてしまうだろ」

 ぷにっと肉球の感触だけは春人の皮膚に残る。長いひげが二つの突起のどちらを狙うか吟味し、右に鼻を近づけた。

「ンッ?! くすぐったい……」

 甘い声を出した春人を黄色い目が一瞥すると、その下からザラリとしたピンクの舌が覗く。春人の生唾を飲む音と同時に、猫の舌が春人のピンクと交わった。

「ああンッ‼ やっ……チャーリー、だめえ」

 声を上げれば上げるほどチャーリーは春人の胸の突起を舐めた。特徴的な舌先は人間と違って凹凸部分が吸い付き、微かに突起を引っ張っていた。それも相まって春人は初めての感覚に天を仰いだ。薄く開いた視界にはにひるに笑うアルバート。

「ほお、春人が私以外で感じているのを初めてみたよ」

 その顔に嫉妬は浮かんでいない。

「花には嫉妬する癖に……あん! あ、あ……ご、ごめんなさいッ!」
 
 遠距離恋愛の最後を揶揄われ、アルバートは仕返しにと左の突起、そして春人の反応し始めた雄を扱いた。
 三か所を攻められ春人の口からは熱い吐息と、快楽の音しか発せられない。必死に「三か所……も、だ……め」と言ったが、それは悪戯な紳士の最後の引き金を引いてしまった。

「ここがお留守だろ?」

 アルバートの太く硬いそれがコリッと臀部の割れ目に押し付けられる。春人の秘部がひくつきだし、腰が揺れる。

「しかし、私はこの通り手が塞がっている。さあどうする? 賢い君なら分かるだろ?」

 どちらかの手を空ければいいのに、挑発的に春人を誘う。既に三か所を攻められているのに更なる快楽を欲した春人は、自分の二本の手を後ろに回し、アルバートのベルトにかけた。その際突き出た胸は「もっと舐めて欲しい」と主張している様にも見え、アルバートとチャーリーは激しく二つの突起を攻めた。
喘ぎながらも春人はアルバートのズボンのジッパーを下ろし、紳士的とは言えないほど肥大したそれの上に跨った。

「もう濡れてるから大丈夫……空港のトイレで……離陸前に我慢できずに一人でしちゃったの……」

 意を突かれたアルバートは「やはり君は最高だ」と下から春人を突き上げた。

「アアッ! はあ……あっ……いいッ、もっと、欲しい……」

 一度大きく喘いだ春人はゆっくりと腰を動かし始めた。肉壁の隙間に残っている粘着質な液体がアルバートのそれに絡みつく。一度乱れた内部は既に熱を持っていて、アルバートはため息を漏らした。

「本当にいやらしい子だ。猫にまで反応して、四ヵ所でも足りないのでは?」

 二つの突起、二度目の射精を迎えようとしている性器、そして火傷しそうな中、背骨を砕くほどの快楽に震える春人の首筋に五つ目の悦が襲ってくる。

「そ、んなに……キスしないで……きもち、いい」

 薄いアルバートの唇が食みながら春人の首筋を移動する。その度に声が漏れ、あちこちで与えられる快楽が身体の芯を崩していく。肉壁がアルバートを締め付け、低い英語が余裕なく漏れ始める。
 二人の世界を崩したのは「にゃおん」という寂し気な声だった。舐めるだけしかできないチャーリーにアルバートは「君の御主人のいやらしい姿をもっと見せてあげようか」と言い、春人の太腿を掴み上下に動かした。ピストンのタイミングを奪われ、春人はいつも通り、アルバートのされるがままになる。

「あっ……そこ、ばっかり……いじわる」

 離陸前に一度熟した前立腺の膨らみを擦ると、あられもない声と姿を春人は猫にさらす。マニアックなのに紳士がすると上品な趣向に見えてくるのが、春人には悔しかった。

「ア、 アル、もう……イっちゃう」
 
 春人の身体を上下に揺さぶるアルバートの動きが激しくなる。快楽に全てを奪われた春人は両手を逞しい太ももの上に乗せているのが限界だった。しかし、必死に「お願い……」と吐息の隙間から懇願する。

「お願い……イく姿は、アルにしか見せたくない」

 残された力で首を回し、濡れた唇が震えながら乞う。

「アルだけの特別……だから……」

 勿論、アルバートも最後はチャーリーを退席させるつもりでいたが、春人に言われ、満足そうに微笑んだ。

「すまないチャーリー、席を外してくれないか?」
「にゃおん」

 嘘のようにアルバートのいう事を聞いているチャーリーは尻尾をピンと立てながらベッドから飛び降り、するりと寝室から出て行った。扉が閉まった瞬間、寝室は春人の喘ぎ声で埋め尽くされる。

「いやぁ、ああ、あんッ……ッああ……ん、ん、ん‼」

 正常位に体位を変えられ、パンッ、パンッ、パンッとリズミカルにそして深く奥を突かれる。

「更にいやらしくなって……これではまだ絶頂を迎えるには早いな」

 アルバートは腰を引き、達しそうになった自身の雄を諫める。

「今からは独り占めの時間だ」

 春人の耳もとで「リセット」とアルバートが囁く。二人だけの激しい性行為はようやく今始まった。


             *


「どうやって手なずけたの?」

 乱れた服を伸ばしながら春人はソファーで眠るチャーリーを見つめ尋ねた。

「特に何も。ただ、二人の向いている方向が同じだっただけだ」
「仲悪かったじゃん」
「私たちは春人を奪い合うライバルだ。自分のものにしたくて争う事はあれど、愛する春人が喜ぶなら仲良くもする」
「結託の間違いでしょ」
「……」

 英国紳士は黙って紅茶のカップを傾けた。

「もう二度としないでよ」
「勿論だ。それにもう無理だろう」
「どういうこと?」
「君が出張へ行っている間に貰い手がついた」
「……」

 春人の肩が分かりやすく下がる。「そっか」と言いながらチャーリーの頭を撫でた。

「もう会えないのかな」
「大丈夫、またいつか会えるさ」

 無責任にも聞こえるアルバートの発言だったが、これは嘘ではなかった。

「村崎さんが飼うそうだ」
「えええ?!」
「奥さんがずっと飼いたがっていたそうだ。あの家なら安心だな、御息女もいい子だ」
「じゃあ、また会えるの?」
「村崎さんの家に行けば会えるよ」

 春人は身近な人に里親を頼んでくれたアルバートに抱きついた。
 こうしてチャーリーは晴れて村崎家の一員になった。残念ながら名前は変わってしまうそうだが、それでも永遠の別れにならず、恋人の笑顔も奪われず、少し楽しい夜も過ごせたアルバートは二杯目の紅茶の湖面を笑みで揺らした。







 結局一番いい思いをするのはアルバート。読んでいただきありがとうございます。


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