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第十九話 天下分け目の性器合戦

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 ようやく想いが通じあった二人。小池は少し前までやる気満々だったのに急に初心な男になってしまった。これもそれも松崎の急な告白の返事のせい。しかし悪い意味ではない。
キスやセックスの仕方も分からず、ただ肩に寄り添うだけ。
それだけで幸せだった。

「凄く緊張しています」
「私もだ」

そう言いつつ男を見せたのは松崎の方だった。

「小池君、キスしてもいいかい?」
「は、はい」

攻めの威厳は皆無。
松崎が小池の後頭部に手をあてがい引き寄せる。眼鏡がないせいで目を細める松崎の方が攻めに見える。

「あああ、部長かっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいい。早く犯したいし、喘がせたいし、泣かせたい。うわあ、どうしよう。でも今は怪我してるから、心の声だけに留めておこう」
「だだ漏れだな」
「ひゃいいいん‼」

顔を両手で隠す小池だったが、その手を優しく退かし、真っ赤になった顎を松崎はとった。
 そしてゆっくり唇が近づき、小池は目を閉じる。
先に髭が当たり、さあいよいよ唇の結婚‼

と、胸を高鳴らせた瞬間

「まああつううざああきいいい‼(訳:松崎)」

とお呼びではない黒いおパンティーもとい椛島が部屋に乱入してきた。そしてどこぞのアニメの怪盗のようにダイブしてきた為、慌てて二人は身体を離した。

(さ、最悪だー!!!)

「寂しかったよおおお‼」
「同じ家にいるじゃないですか」
「あの部屋幽霊出るんじゃないの? 何か「かっこいい」って煩いんだけど。ナルシストの霊でもついてる?」

松崎が椛島の肩越しに小池を見るが、小池はそっぽを向いた。

「そんなのいませんから戻って下さい」
「ええ、でもせっかく来たんだから川の字で寝ようよ」
「嫌ですよ、狭いじゃないですか」
「じゃ、川じゃなくてHにする? 俺が真ん中の棒」
「余計に狭いですよ」

背中を向けて椛島を回避しようとした松崎に、低い声が落ちる。

「それとも本当に俺の棒がほしいか?」

——ゾクッ

小池の背筋が凍る。
自称アナ〇堀りチャンピオンには分かる。この声は 男 を 落 と す 。
小池に絶対的に足りない大人の色気を宿した声に松崎は……

「骨ならいただきます。痛くて仕方がないので」

と返事し「誰かがダイブしてくるからですよ」と椛島を引き離した。

「まっ、冗談はおいといて。月曜日に社長室に来てくれない?」
「急に仕事ですか。何時ごろ?」
「昼過ぎならいつでも。あの企画の進行状況知りたいから」
「分かりました。小池君も連れて行きます。もうほぼ完成しているのでデザイナーの彼にも……」

と松崎が小池を見る。
小池は固まっていた。何故なら松崎と共に小池を振り返った椛島の鋭い眼差しに睨まれていたからだ。

「松崎だけで十分だ」
「しかし彼は今回のデザイナーですよ?」
「君だけでいい。小池君は通常の仕事でもしていればいいさ」

ほぼ命令だ。
流石に松崎も反論する理由が見つからず渋々了承した。

 結局、キスはお預け、川の字で寝る羽目になり、小池は一睡もできずに朝を迎えてしまった。
 まだ日曜日があると思っていたが、椛島はまだ居座り、結局もう一泊して、小池は二徹で月曜日を迎えてしまった。

 月曜日の朝、目を血走らせる小池に松崎は「大丈夫かい?」と聞くに聞けず、黙って出勤した。
オフィスでも小池を心配する声が上がり、先輩たちが「抜いてないのか?」「これいいぞ、10秒で抜ける」といらぬ心配をしていた。
 確かに小池はここ数日抜いていない。抜きたくてもあの男がいて、一瞬の隙も見せられなかった。だが、先輩がくれる胸が膨らんだ性別のエロ本などいらない。
一応笑顔で受け取り、直ぐに引き出しにしまった。

 それを遠目にみている松崎は心配しながらも、何故そこまでなっているのかが分からず、気が付けば昼になっていた。

「すまない。少し席を外す」

と告げると、高橋が「ティータイムですか?」と声をかけ「小池も行けよ」と背中を叩いた。
しかし松崎は

「いや違う。小池君は自分の仕事をしていたまえ」

と一瞥してオフィスを出て行った。

「ああああああああ」

項垂れる小池の心情も知らず、更にエロ本が追加されていく。

「どうしたらいいんだーーー‼」

頭を掻きむしり仰け反る小池は、背中を反らせた状態で「行くか? 行かないか?」とブツブツ唱えだした。

「俺はどうしたらいいんだ。やはりここは男らしく行くべきなのか?」

でないと確実に松崎の尻は椛島にやられる。
悩む小池に、先輩の緊縛ジャスティス山田が自慰に困っていると思い近づく。


「山田さん」
時にと後悔するぞ」
「でも……」

身体を丸め怖気づく小池に、山田は胸座を掴んだ。

「今で、いつ‼」

山田から鼓舞されても、小池はしりすぼみになる。相手は社長だ。自分がどうこうできる立場の人間ではない。
それに松崎にも背くことになる。

「で、でも……我慢できないなんて子どもだと思われたくない」
「我慢できないんだろ?」
「……はい」
「なら我慢するな! 悪い事じゃない! 本能が求めているんだ。誰も咎めやしない。自分を信じて。ほら‼」

山田が「トイレでできるドM入門」というエロ本を小池の胸に押し付けた。

「最高の瞬間を逃すな」

と背中に砂嵐でも舞っていそうな山田の激励に、休日の嵐を思い出す。

 椛島という嵐のせいで、散々な休日だった。しかし、告白の返事も貰い、幸福の嵐も巻き起こった。だが、最終的にその最高の瞬間は、高いところから流れてきた川の水にやられ、湿ってしまった。

(……今度は負けない)

 先輩からの熱い応援に「先輩……俺……」と小池は涙ぐむ。

‼」
小池‼」

強く肩を叩かれ、小池は頷いた。そしてオフィスを出て、社長室へと向かう。
 黒い嵐と戦うために。


——ちなみに……

 小池が出て行ったオフィスでは……

「あいつ何で右に曲がったんだ」
「あっちトイレじゃなくね?」
「何があるっけ?」
「非常階段」
「……ああそうかあいつ」

その後、小池はめでたく「青姦デザイナー小池」という名を貰う。


          *


 オフィスでそんな事があっているとは知らず、松崎はピンチに陥っていた。

「あの、社長……これは?」

椛島がソファーの上で松崎に馬乗りになっていた。

「約束しただろ? 俺の棒をやるって」
「……しかし乗られていては更に骨折が悪化します」
「天然なところもいいけど……そろそろ、俺の気持ちにも気づこうか」

良い声が、松崎の耳元で「好きだ」と囁き、50年以上そこに居座る(肉の)棒を惜しげもなく晒す。
 流石に松崎も何をされるか気が付いたが、もう遅かった。完璧に椛島の足の下に身体をホールドされている。

「社長! いけません!」
「いけないかどうかは俺が決める。それともやはり君は、あの若きデザイナー君と付き合っているのかな?」

 松崎は迷った。同性、しかも上司と部下、言うのは憚られる。
そのを逆手にとって椛島は松崎の頬に手をやる。そして性器を近づけたが……

「ちょーーーーと待ったーーーー‼」

 ドアを蹴破らん勢いで、渦中の若きデサイナーが飛び込んできた。
 そして視界に広がるとんでもない光景に、血の気が引き、急いでズボンを脱いだ。

「部長に触らないでください!」

秒速で自身の性器を勃起させ、「ふんっ!!」と腰を回し、椛島の性器を弾いた。

──パチーンッ!!

「おおっと」

椛島はその衝撃で松崎の身体の上から吹っ飛ばされる。

(物理的な法則だと色々無理があるな)

と目の前の性器同士のありえない攻防を見つめながら松崎はソファーから身体を起こした。
その前に小池が立つ。

「部長は俺のものです。貴方には渡しません」
「なにを若造が」
「若造? 言っときますが俺の性器は普通より大きいですよ。しかも黒い。これが何を意味するか分かりますよね?」

(何を意味するのだ)

「この赤黒い性器こそ、部長を天国へ連れて行くヴァージンロードの色なんです‼」
「ふん。その歳でヤリチンとは大した若造だ。だが俺も黒さなら負けていないぞ? これは女で培った黒さだが、それが何を意味するか分かるか?」

(いや、だから何を意味するのだ)

松崎は完璧に置いてけぼりで心の中で突っ込みを入れている。

「男は未経験。つまり俺と松崎は男同士の性行為は童貞・処女に等しい。この歳であの初々しく甘酸っぱいセックスができるのだ。最高のシチュエーションだとは思わんかね」
「部長に痛い思いさせるなんて許せません。それにどう考えても俺と部長の方がお似合いです。俺たちのことなんて言うか知ってますか?」

(上司と部下では?)

「年下攻め×オッサン受けという最高のカップリングなんですよ!」
「甘い、小池君。オッサン受けはさほど人気ではない……そう、俺たち上司×部下という王道には勝てないだろ!」

いつの間にか椛島と小池は勃起したお互いの性器を、騎士が剣の切っ先を交わす様にクロスさせている。
 その先端からは火花が見える気がしたが、最高のシチュエーションを前に、二人とも先走りを垂らしているだけだった。

「タイトルをつけるならば、『人嫌いのサラリーマンは社長に溺愛される』……だ」

(ライトノベルでありそうだな……)

「どこからどう見てもお2人は『退職してから始める介護講座』ですよ」

(あっ、それは少し私も傷つくぞ小池君)

睨み合い、火花を飛ばす二人に、流石の松崎が間に割って入った。

「すみません社長。彼のいう事は確かです」
「介護だというのか?」
「いえ、そっちではなく。私は小池君と付き合っています。なので社長の気持ちには答えられません」

至極真っ当な意見なのに、先ほどのやり取りの後に言うと、松崎が非常識な人間に思えてくる。

「それだけです。申し訳ありません。あと、企画の話はきちんと小池君も交えて話しましょう」

 小池は何とか危機を回避し、喜びで松崎に抱き着きそうになった。
 
 だがこれで終わりではなかった。

「ふふふふふふふ。残念だったね小池君」

肩を震わせ、俯きながらどこかの悪役よろしくせせら笑う椛島。「あーはははは」と高らかに笑い、人差し指をビシッと突き付けた。

「君はとんでもない事をしでかしているのだよ! これだ」

椛島の胸ポケットからは折りたたまれた紙。そしてそれが開かれ、とんでもない物が姿を現した。

「そ、それは?! 俺の履歴書」
「君はここに確かに記載している。性癖は 熟 女 だ と ‼」

「だが実際はどうかね。君は同性愛者ではないのか? 松崎の甘いマスクに誘われてここに入社したか? でも残念だった。入社の時についた嘘が仇となったようだ」

小池の目の前で悲しそうに履歴書がヒラヒラと舞い落ちる。

「これは立派な詐欺だ。性癖詐称せいへきさしょうだ」

そんな言葉聞いた事もない。
だが、嘘をついた事は確かだ。
偏差値40の大学を卒業しているのに、偏差値80の大学を卒業していると書いているのに等しい。

「どうだ?」

小池も松崎も何も言い返せない。

「返す言葉もないということはそういうことだよ。勿論分かっているね? 君は首だ」
「そ、そんな‼」

小池に振りかかる絶対絶命の大ピンチ。
椛島の剣は先走りを垂らしながら雄の勢いを保ち、小池の剣は項垂れ始めている。
 だが、そこに……

「私が君を守ろう」

最強の盾が小池の肩を叩いた。
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