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第十五話 ドラム式ドラ息子
しおりを挟む「いただきます」
不慣れな歯磨きを終え、小池手作りの朝ご飯を食べる。
「今日で近親相姦生活も一か月ですね」
「ブフッ‼」
味噌汁ウェーブが汁茶碗からあふれ出た。
「ああもうお父さん!」
松崎がティッシュを取る前に常備しているハンドタオルで口元を拭ってくれる。
「待ちたまえ小池君」
「直樹です!」
「む、すまない。いや、そうではなくてだな……近親相姦は語弊があるのでは?」
「そうですか? 父と子が一つ屋根の下にいるんですよ? すごく背徳感がありませんか?」
「どこに背徳感があるのか是非教えていただきたい」
小池は肘をつき、頬を手で包み込みながらニコニコ笑っている。
「ゲイの部下と、右腕の自由がない上司が、同じ空間で親子プレイしているんですよ? 凄くないですか?」
「みなまでいうな。それでは提案した私が変態みたいではないか」
「お父さんは普通ですよ。あっ、ご飯お代わりどうですか?」
差し出される右手にはもう絆創膏はない。
「いただこう」
「はーい!」
どこかで買ってきた新妻の様な赤い水溜りのエプロンを着けた小池がルンルンとご飯をよそっている。
「君は優しいのだな」
「へ? 何か言いましたか?」
「いや、何もない」
「? ……今日は会社休みだからゆっくりできますね!」
「小池……直樹も何処かへ出かけてきてはどうだ? ずっと家にいてもする事がないだろう?」
「俺はシーツを洗って、掃除して、食材の買い物行ってと予定てんこ盛りですよ!」
無邪気に笑う小池は、会社で見せない笑顔を見せている。好きな人と居るせいもあるが、「誰かとご飯食べるのってやっぱりいいですね」と二日目に言っていたのが思い出される。
結局、小池に両親がいない理由はまだ分からず仕舞いだ。
「どうぞ!」
「ありがとう」
小池から茶碗を受け取る。
「私も一緒に買い物に行こう」
「無理に出歩いたらいけません!」
「もうだいぶ骨もくっついた。荷物だって左手で持てるから問題ない」
「しかし……」
心配そうな表情をする小池だったが、ちょっと一緒に出掛けてみたい気もした。
「いいんですか?」
「ああ、構わない」
「じゃ、掃除とシーツの洗濯が終わったら行きましょう! シーツ剥がしてきます! ご飯ゆっくり食べていて下さい!」
寝室へ消えていく背中へ「最後まで一緒に食べよう」と声をかけたかったが思いとどまった。
思った以上に松崎も今の関係に満足している。湯気が立ち昇るご飯の様に今の生活は温かく、腹の底から満たしてくれる。
そして松崎がそんな満足感に浸っている間に、小池は松崎の寝室へと突撃していた。
(ぶ、部長の匂いがする‼)
グワッと身体を反らせて歓喜に震える。
寝室に入るのは二度目。前回もシーツを洗濯するときだった。その時は、松崎も一緒だったが今日は一人だ。
松崎の寝室はビジネスホテルのように無駄なものがなくまとまっている。セミダブルのベッドに、シックなナイトテーブル。書斎も兼ねていて、本棚にはぎっしりと哲学や純文学が並んでいる。
そして……
小池は部屋のクローゼットを凝視し喉をゴクリと鳴らす。
「あそこには下着たちが……」
思わず声に出してしまった。
洗濯等の家事を請け負っている為、勿論松崎の下着は確認済みだ。それはそれは女性も驚くほどのコレクションぶりだった。
これは下着なのか? と言うものまであったくらいだ。
だがクローゼットはプライベートな領域なので、了承も取らずに開けるなど無粋な真似はしない。
「でも……でもですよ部長……」
そっと悪魔の手が伸びる。申し訳ない気持ちはあるが止められない。
「これくらいなら……いいですよね?」
小池が手にしたそれは……
「スー、ハー、スー、ハー……ああ、天国って真っ白なんだ」
シーツだった。
薬物をしているかのように、人目(松崎の目)を掻い潜り、この幸せを手に入れた。身体がふわりと浮く感覚がする。やはり薬物なのでは? いや、オーガニズムである。
うかうかしていられない。
この薬の栽培所(松崎の寝室)に原物(松崎)がやってくるかは分からない。
早めに逃走を謀り、次の犯行へと計画を進める。
次なる犯行場所は脱衣場だ。
ドラム式の洗濯機の前で、小池は周りを確認する。松崎はまだリビングだ。
正直に言おう。
小池は松崎の下着で抜きたいと思っている。
だが、それは流石にまずいと思い、この作戦を思いついたのだ。
(シーツならいいよね?)
もう一度匂いを肺に溜め込む。
(うわあ、何の香水つけているんだろ。お洒落な匂いする。昨日餃子だったのに、体臭は薔薇の香りなんてどんな新陳代謝しているんですか部長!!)
ちなみに今日の小池のシーツはニンニク臭かった。
「が、我慢できない」
エプロンをしたまま、ズボンとパンツを脱ぎ去る。
パンパンに張っている小池の息子は、この生活を始めてから毎日が勃起祭りだ。トイレで抜くことが多いのだが、昨日は松崎に寝室として与えられている客間で抜いた。そこも松崎の匂いが少しするが、このシーツはその比ではない。
母なる松崎の体臭の量は、シーツと部屋では太平洋と瀬戸内海ほど違う。
小池は床に広がる太平洋に股間を擦りつけ白い波を立たせる。それを松崎に見立てて、正常位で犯しているかのように腰を振った。
「……ッ」
大理石の床の冷たさが布越しに伝わるが、それすら気持ちがいい。
「んあ……んん……」
シーツにシミが浮かび上がる。
性器からは光る糸がシーツと繋がろうと溢れ出る。
「はぁ、すごく、いい……ぶ、部長」
「直樹?」
「うわあああああ!」
————ガコンッ‼
「……」
「……」
「……」
「……何をしているのだ」
松崎の目の前には、下半身丸出しでドラム式洗濯機にシーツと共に頭を突っ込んでいる小池だった。
「いや、あの……その……」
洗濯機の中で焦り声が反響している。
「こういう性癖なんです。洗濯機プレイ」
「……では頭ではなく、股間を入れるべきでは?」
「真面目に返答されると虚しくなります」
「そうか……」
松崎の足音が遠のき、そしてまた戻ってくる。
「いつものお礼だ。ここに置いておく。では、先に出かける支度をしておくよ」
今度は寝室へ足音が去り、完全に聞こえなくなった。恐る恐る洗濯機から顔を出すと……
ティッシュの箱がポツンと置かれていた。
完璧にばれている。
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