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最終章 夕顔達の十年間
第二話 Zの復讐
しおりを挟む第一段階まで開いた教官室の扉を閉めた宇野は、福山をつれて体育館倉庫に来ていた。
中の埃っぽさに顔を顰めながら、宇野は跳び箱を撫でる。
「これ、あの時と同じ跳び箱なのかな?」
「どうだろうな。まあそこそこ年季は入っているな……っておい」
宇野は福山を跳び箱の上に押し倒し、抱きしめた。
「あの時の先生の声が、未だに耳から離れないんです」
「この下で聞いてたんだな」
「はい。でも俺が悪いんです。俺が直ぐに木田のことを言えばよかったのに……」
胸に顔を押し付ける教え子の頭を福山は撫でた。
「お前は優しい子だよ。俺の方こそ悪い。お前にトラウマを植え付けた」
「辻本先生のせいですよ。そうだ! 今ここで先生の気持ちの良い声を聞いて上書きしましょうよ! うがッ!」
福山は宇野の鼻を摘まんだ。
「油断も隙もないな」
「いてててて」
鼻を擦る宇野に福山は怪訝そうな顔をする。
「でも、どうしてあれから10年間抱かれ続けてるって知ってたんだ」
「……ああ、それは……」
宇野は体育館倉庫から出て行き、教官室へと向かう。今度は一気に扉を開き、誰もいない教官室にズカズカと入り込む。
そしてテーブルの下を触った。
「ささくれあるぞ」
「ついでに盗聴器もありますよ」
にっこり笑いながらヒョイっと黒い小型の機械を取り出した宇野。
とんでもない物の登場に福山は言葉が出なかった。身体は脱力し、何度も辻本に犯されたソファーに沈む。その横に座った宇野が真面目な顔つきになる。
「生活指導講習会の時ですよ。先生に注意されて二重の意味でドキっとしましたよ」
「二重ってなんだ」
「久しぶりに先生に怒られたのと、盗聴器しかけてるのがバレたかもって。あれ、潜入捜査だったんですよ。俺久しぶりに制服着て緊張しました。先生は制服姿の俺とスーツ姿の俺どっちが好きですか?」
ういういと表情を変えた宇野が詰め寄ってくる。
「お前、仕事中だろ」
「あっ、そうでした」
「でも、何で潜入捜査なんか……」
「それはもちろん辻本先生を捕まえる為です。辻本先生、5年前に転勤しましたよね? その時から警察に目をつけられていたんですよ」
宇野がもういなくなった辻本の席を見つめる。
*
刑事課に配属され、最初の仕事が覚せい剤の取り締まりだった。ある暴力団体の入手経路と取引経路を調べるというもので、その張り込みの中で辻本を見つけた。
だがその時の辻本は団員でも運び人でもなかった。まだ覚せい剤を使用するか迷っている──そんな様子だったのだ。
だからあまり警察としても要注意人物としては上げていなかった。
しかし宇野は燃えていた。
(福山先生の仇をとってやる)
そして10年目、とうとう辻本が動いた。団員から覚せい剤を購入し、福岡と大阪への運び屋も任されていた。
──辻本を尾行して一網打尽にする。
その作戦が立てられ、宇野は指揮官に一つの提案をした。
「俺に潜入されてくれませんか?」
生活指導講習会に紛れ込み、盗聴器を仕掛ける仕事を請け負った宇野は、急いで○○署へと連絡をとった。直ぐに話が回らず、福山が電話をかけた時には『宇野ですか?』と困らせる事態に陥ったが、何とか潜入は成功した。
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