33 / 39
最終章 夕顔達の十年間
第二話 Zの復讐
しおりを挟む第一段階まで開いた教官室の扉を閉めた宇野は、福山をつれて体育館倉庫に来ていた。
中の埃っぽさに顔を顰めながら、宇野は跳び箱を撫でる。
「これ、あの時と同じ跳び箱なのかな?」
「どうだろうな。まあそこそこ年季は入っているな……っておい」
宇野は福山を跳び箱の上に押し倒し、抱きしめた。
「あの時の先生の声が、未だに耳から離れないんです」
「この下で聞いてたんだな」
「はい。でも俺が悪いんです。俺が直ぐに木田のことを言えばよかったのに……」
胸に顔を押し付ける教え子の頭を福山は撫でた。
「お前は優しい子だよ。俺の方こそ悪い。お前にトラウマを植え付けた」
「辻本先生のせいですよ。そうだ! 今ここで先生の気持ちの良い声を聞いて上書きしましょうよ! うがッ!」
福山は宇野の鼻を摘まんだ。
「油断も隙もないな」
「いてててて」
鼻を擦る宇野に福山は怪訝そうな顔をする。
「でも、どうしてあれから10年間抱かれ続けてるって知ってたんだ」
「……ああ、それは……」
宇野は体育館倉庫から出て行き、教官室へと向かう。今度は一気に扉を開き、誰もいない教官室にズカズカと入り込む。
そしてテーブルの下を触った。
「ささくれあるぞ」
「ついでに盗聴器もありますよ」
にっこり笑いながらヒョイっと黒い小型の機械を取り出した宇野。
とんでもない物の登場に福山は言葉が出なかった。身体は脱力し、何度も辻本に犯されたソファーに沈む。その横に座った宇野が真面目な顔つきになる。
「生活指導講習会の時ですよ。先生に注意されて二重の意味でドキっとしましたよ」
「二重ってなんだ」
「久しぶりに先生に怒られたのと、盗聴器しかけてるのがバレたかもって。あれ、潜入捜査だったんですよ。俺久しぶりに制服着て緊張しました。先生は制服姿の俺とスーツ姿の俺どっちが好きですか?」
ういういと表情を変えた宇野が詰め寄ってくる。
「お前、仕事中だろ」
「あっ、そうでした」
「でも、何で潜入捜査なんか……」
「それはもちろん辻本先生を捕まえる為です。辻本先生、5年前に転勤しましたよね? その時から警察に目をつけられていたんですよ」
宇野がもういなくなった辻本の席を見つめる。
*
刑事課に配属され、最初の仕事が覚せい剤の取り締まりだった。ある暴力団体の入手経路と取引経路を調べるというもので、その張り込みの中で辻本を見つけた。
だがその時の辻本は団員でも運び人でもなかった。まだ覚せい剤を使用するか迷っている──そんな様子だったのだ。
だからあまり警察としても要注意人物としては上げていなかった。
しかし宇野は燃えていた。
(福山先生の仇をとってやる)
そして10年目、とうとう辻本が動いた。団員から覚せい剤を購入し、福岡と大阪への運び屋も任されていた。
──辻本を尾行して一網打尽にする。
その作戦が立てられ、宇野は指揮官に一つの提案をした。
「俺に潜入されてくれませんか?」
生活指導講習会に紛れ込み、盗聴器を仕掛ける仕事を請け負った宇野は、急いで○○署へと連絡をとった。直ぐに話が回らず、福山が電話をかけた時には『宇野ですか?』と困らせる事態に陥ったが、何とか潜入は成功した。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿



【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる