6 / 39
第一章 十年後の七月
第四話 10年ぶりの再会(※)
しおりを挟む一学期の終業式を目前に控えたある日——いよいよ生活指導講習会当日
応接室に行くと、警察官の水色と紺色の制服に身を包んだ男が二人いた。一人は田中で、そこそこ年配の警察官、そしてもう一人は……
「ご無沙汰しています、福山先生!」
見違えるほど成長した宇野正親だった。
「久しぶりだな宇野」
高校生の頃の幼い面影はほぼ残っていない。福山より高い身長に、がっしりとした筋肉質な体系、頬は骨ばっていて、柔らかさはない。だが微笑んだ時の骨格は宇野だった。
「立派になったな」
それだけを言って、福山は宇野との会話を中断した。何故なら後ろに辻本が現れたからだ。
その瞬間、応接室の空気がガラリと変わる。
「……お前、あの宇野か」
「辻本先生もご無沙汰しています」
火花を散らし睨み合う二人の相性は今も悪いようだ。何も知らない田中が、困り果てた表情をし始めた為、福山は無理矢理間に割って入った。
「とりあえず、本日はよろしくお願いします。もうすぐ生徒が体育館へ移動しますので、そのまえに教官室の方へ。本日の確認をします」
そこでようやく辻本と宇野の交差していた張りつめた視線がそっぽを向く。
体育科教官室へ行く間、宇野はわざわざ辻本と福山の間に割って入る様に後ろから話しかけてくる。
「先生、老けましたね!」
「当たり前だろ。あれから10年も経っているんだぞ」
「でも今でも立派な先生なんだろうな」
と褒める宇野に福山も悪い気はせず、頬が緩んでしまった。それに小さく舌打ちをした辻本が「さあどうだかね」と悪態をつく。
「俺が教官室開けていいですか? 久しぶりだな!」
仕事を忘れてはしゃぐ宇野が教官室の扉に手をかけた。ボールが当たっても凹まない頑丈な造りは把手から他の扉とは構造が違う。重たいそれは開ける前に一度つっかえる。
少しだけ隙間が空き、そこからさらに体重をかけると重厚な音を鳴らして教官室が目の前に現れた。
普段こっそり体育教師が寝ているソファーに二人を座らせ、その目の前に福山と辻本が座り打ち合わせが始まった。
大した内容ではない。
毎年やっている事で、今年は自転車の実演が増えただけ。それでもこういう講習会を担当するのが初めてなのか、宇野は忙しない。ソファーの間に構える古びたテーブルを撫でたり、キョロキョロしたりしている。
「テーブルの下、ささくれとかあるから怪我するぞ」
と福山が注意し、宇野は苦笑いをする。
「先生に注意されるの懐かしいですね!」
「その歳にもなって注意されるんじゃない」
「へへへ」
その教師と生徒の姿にさすがの辻本が苦言を呈した。
「いつまで学生ごっこをしている」
「すみません辻本先生、宇野はあとで俺が叱っておきます」
「またか。お前はこいつを10年前同様庇うのか?」
「庇っているわけではありません。それにあの時の宇野は何も悪くなかったではありませんか」
教師の顔をした福山は辻本に噛みついた。頭の片隅ではその後どうなるか分かっていても、教え子が悪く言われるのは我慢ならなかった。
「なに? 宇野君悪い子だったの?」
茶化す様に田中が宇野を小突いた。
「ちょっとしでかしてしまいまして」
人懐っこい笑みを浮かべて頭を掻く宇野。それで終わらせればいいのに性格の悪い男は嫌いな男を徹底的に貶めようとする。
「バイクを盗んだんだよ」
流石に田中も固まった。
だが、福山がもう反論する。
「あれは結局違う生徒が犯人だったではないですか」
「はっ。でっちあげたんだろ」
どうなの? と、田中が宇野本人に視線を送る。
「俺は盗んでいませんよ。ただ好奇心で触っただけです。それを勘違いした辻本先生に生徒指導室送りにされてしまったんですけど、福山先生が助けてくれました」
辻本が苦虫を噛み潰した様な表情になる。この後、実演に使う自転車が運びこまれなければ、この論争はまだ続いていただろう。
そして講習会が始まってすぐ、辻本から「覚えておけ」と今日のお仕置を取り付けられた。
*
放課後、部活動の最中、何気なしに体育館の方を見た。すると教官室の窓に人影があった。逆光で顔までは分からないがシルエットで分かる──辻本だ。
(見張らなくても、どうせ俺は逆らえない)
最初は、抵抗していた。警察に行ってやろうとも思ったのに、「これがバレたらお前も傷物教師のレッテルを貼られるな」と言われ思いとどまるしかなかったのだ。男性教師に強姦を受けたなどニュースのネタ。もしメディアがポロリと被害者教師の年齢でも言えば、当時新卒の教師は一人しかいなかった為、確実に世間に広まってしまう。
それを逆手に取られ身体を許すしかなかったのだ。
いつの間にか、ふざけた体育会系のルールは福山の身体にも染みつき、辻本の前でだけは従順になっていた。
だが生徒がいれば別だ。どこかに残る教師としての本質が意図も簡単に辻本を払い除ける。最後には犯されてしまうのに。
「先生!」
今日も福山を窮地の思い出から救ってくれるのは生徒の声。
「ダウン終わりました。終礼お願いします!」
「よし、集合!」
集まってくるサッカー部員たちはみな可愛い。あの宇野にもこんな時期があった。
(結局最後はあまり話せなかったな)
と言うより、あのいがみ合いを見て、田中が気を遣い間に入っていたのだ。
しかし宇野は、ちゃっかり「これ、俺の連絡先です。飲みに連れていってくださいよ」とメモを渡してきた。生徒と禁断の恋でもしている様な気分になり直ぐにそれはポケットの中へ。
まだ登録はしておらず、したところで何を話していいかも分からない。
とりあえず……
「よし終礼だ」
今は仕事に集中し、その後は今日の分のお仕置を受け入れるしかなかった。
終礼後、すぐに足が向かわずグランド整備をする生徒たちに混ざった。福山が大好きな生徒たちは喜んで整備をする。その間も、辻本のシルエットは窓にある。時折忙しなく行ったり来たりしており、40代後半にも関わらずありあまる性欲を持て余しているのだろう。
太陽が今日を去り、明日に備えて眠りについた頃、福山も覚悟を決めて教官室へと向かった。
教官室には辻本だけ。彼は部活の指導はしない。名だけサッカー部に在籍し、たまに口を出しに行くだけ。サッカー部が大会で好成績を収めれば辻本の手柄になり、成績が悪ければ福山を罵る。どこまで性格が腐っているか分からない男だ。
そしてそんな男は福山が来たのを確認すると、扉の鍵を閉めた。
振り向いた表情は怒りに歪み、それを発散させるように胸座を掴んで、激しく揺さぶった。
「よく自分をこんな目にした生徒の前でヘラヘラできるな?」
——ドサッ
辻本は、宇野が座っていたソファーに福山を押し倒した。馬乗りになる辻本の下で、福山は汗で背中に張り付くジャージに焦りを覚えていた。
「まだ、部活終わりの生徒が……」
教官室で部室の鍵を管理している為、まだ生徒が出入りする時間帯だ。
「鍵を閉めている」
「しかし、怪しまれます」
「ふん。生徒絡みだと強気だな。だがその態度も今のうちだ」
何かふざけた事が始まる──そう予感させる言動に福山は身を硬くする。
一挙一動から目が離せず、辻本がポケットに忍ばせた手に何が握りしめられているのか想像したくない。
確実にローションや避妊具ではない。そもそも辻本は避妊具を着けてはくれない。
ポケットの中で動く手は君の悪い生物のよう。そしてそれが正体を現す。
「ちょっ、せ、先生?! それは……」
福山のジャージのウエストから無理矢理手を突っ込んだ辻本。生暖かい皮膚とは別に冷たい物が触れ、思わず腰を捻って避けてしまった。
「ちっ」
小さな抵抗ですら不快感を露わにする辻本の眉間に皺が寄り、腰をグイッと掴み乱暴に自身の方へ福山を引き寄せた。
ポロシャツの背中が捲れ、汗とソファーの皮がヌルリと気持ち悪い。
だが、それ以上に気持ちの悪い笑みを辻本は浮かべていた。
「抵抗しやがって、おらッ」
「んあッ?! そんなもの……挿れない、で……ください」
硬い何かを雑にグリグリと押し込む。濡れていないそこは、その物を押し返そうとするが、辻本は無理矢理秘部を広げた。
「そんなこと言いながら、全部飲み込んでしまったぞ」
肉壁がヒクヒクと痙攣し、初めてのそれに戸惑う。出してしまい生理的な衝動に耐えながら、福山は息を吐いた。
「はあ……ッ?! あああ‼」
まだ生徒が来るかもしれない教官室で福山は声を上げた。
——ブブブブブ
「ああッ」
小刻みな振動が前立腺を激しく刺激し、福山の上半身が跳ねた。
「い、いやだ……これ、ぬ、抜いてくだ……さい……ああん、はっ、んあ‼」
「気持ちいいのか?」
「ちが、違います、んんんッ」
口ではそういうも福山は感じていた。
押さえつけられた下半身の上では辻本が満足そうに顎を撫でながら見下ろしている。
「やっぱり淫乱教師だな。ローター1つでそこまで反応しやがって」
「ロ、ローター……」
身体の中で福山に快楽を与える玩具──ローターの振動が激しくなる。
「うあッ‼」
辻本の手にはリモコンが握られている。水色のそれは可愛らしく点滅しているが、シャレにならないほどの刺激を与えてくる。
嫌いな男にされているのに、無機物が与える快楽に福山は身もだえする。
その時だった……
——コンコン
慌てて辻本が離れ、福山も身体を起こす。
「失礼します」
重たい扉が開く。
「サッカー部の山下です。部室の鍵を返しに来ました」
福山の部活の生徒だった。しかも辻本は鍵をかけていなかった。
(あ、危なかった)
山下から見れば、動揺する福山は背を向けてソファーに座っている。心の中で気づかれない事を祈ったが、3年間福山の背中を見続けた生徒を騙すことはできなかった。
「あっ、福山先生だ!」
福山は足に力を込め、必死に耐える。
「おう。お疲れ山下」
何事も無いように振り向き、手を翻し、無駄に余裕アピールをする。生徒の前ではやはり簡単に声が出る。だが今日は流石にピンチだ。部活疲れの青春真っ盛りの高校生の前で、顧問は蜜壺をローターで攻めたてられている。
「何しているんですか?」
「ちょっと辻本先生とお話だ。もう暗いぞ、さっさと帰れ」
「はあい」
残念そうに言う山下だが、辻本がいつもより機嫌の良い笑みを浮かべていたのでそそくさと退散した。
重たい扉が閉まる音を確認して、福山はソファーにどさりと倒れ込んだ。
「ううっ」
額には汗が滲んでいる。
恨めしく辻本を見つめると、その視線に満足したのか生唾を飲み、強度を上げた。
「んんんッ‼」
ソファーに顔を押し付け、漏れないように耐える。だが、快楽の為に開発された玩具は福山を追い込んでいく。
「あっ……はぁ、はぁ」
初めて射精感が込み上げる。
今まで辻本の前で射精をしたことはなかった。だが、辻本より確実に気持ちの良いローターは福山の性器をパンパンにしていた。
それはジャージの上からでも分かるほどで、腰を引いてしまう。
「ほらみっともない姿を見せてみろ」
ジャージと下着をひん剥かれ、勃起した性器が晒される。
「おいおい何だこれは」
先端に溜まった先走りを辻本の指が弄ぶ。
重力で下に歪みながら引いた糸を見せつけ、福山に屈辱を味合わせる。
「やめて……ください」
射精を我慢した事で加わった力がローターを外へ押し出した。
「もう一度欲しいだろ?」
首を横に振るが、辻本は見ていない。震えるローターを福山の性器の先端に押し付け「ああああッ‼」と仰け反る身体を楽しそうに見下ろしているだけだ。福山の意志などはなから考慮する気はない。
「ヌルヌルだな。淫乱教師はローションなど不要みたいだ」
先走りで濡れたローターがもう一度蜜壺へと帰ってくる。せめて前立腺からはズレて欲しいと願ったが、辻本は一発で前立腺にローターを運んだ。
「お前も往生際が悪いな。十年近く抱かれているんだ、流石に前立腺の位置くらい把握している。俺の指の第二関節のここが……おらッ」
「んくッ?!」
「どうだ? 気持ちがいいだろ? ん? そう言ってみろ」
先程より激しく首を横に振り、射精を耐える。辻本との根競べだった。
「ふんっ、まあいい。今日はこれで勘弁してやる」
抜き取られたローターがコロンと床に転がる。それを一瞥し、肩で息をしながら安堵の溜息を呼吸に混ぜた。
「玩具遊びはな」
辻本の低い声に福山の方が震える。
「さあ、続きだ」
福山の口元に、辻本が自身の性器を服越しに擦りつけてくる。服の中では赤黒いあれが蒸れているのが分かるほど嫌な臭いを放っていた。
「今日は咥えさせてやる」
福山を吐き気が襲う。
その気持ち悪い胸がふわりと浮き、首が締まる。
ポロシャツの襟を掴まれ、福山は体育館倉庫に連れて行かれた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
たまにはゆっくり、歩きませんか?
隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。
よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。
世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる