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2-3 邂逅3
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「こんなところで、見ず知らず同士がやりあう必要もないと思うが」
立ちはだかる目の前の男を無視し、リーダーらしき奥に立つ男に視線を向ける。
「くっくっく、そう言うな。ここで会ったのも何かの縁だ。こちらにはこちらの都合がある」
口調は軽いが、そのセリフ一言一言に迫力がある。俺は腹に力を入れ直し男の顔をひと睨みした。
「じゃあ、名前など聞いておこうか。俺はハイダ・トール。ちょっと野暮な事情があってな、壁面を落っこちてきた」
相手を刺激しないよう、ゆっくりと右手で目を覆うゴーグルをヘルメット側へずり上げ、そしてその手を尻側へ下ろしていく。
(手前二人はなんとかなるが、問題は奥の大将だろうな)
「フン、おもしろい男だなハイダ。俺はシーナ、シーナ・デン。そしてそこの二人は弟分のピノと」
目の前に立ちはだかる大男がニヤリと笑う。
「チェスだ」俺の左手で構えを取る男は自分で名乗った。
(随分可愛い名前じゃないか、こいつら)
(しかしこの男たちは俺が背面ポケットに手をかけたことに気づいているだろうか?)
(まあ、ケンカの勝ち負けは時の運。あまり考えても仕方あるまい…)
俺は右手を背後にやったまま、ふらりと一歩前に進み出る。その緩やかな動きに誘われるように、ピノも一歩目を踏み出そうとしたその瞬間、俺は前足にかかる己の体重を抜き去り、前方へと一気に駆け抜けた。
慌てたピノがロングナイフを俺の眉間へ打ち出そうとするが、それに構わず間合いに踏み込み、顔面に頭突きを叩き込む。不確定惑星の探査に使う樹脂ヘルメットごしに、鼻骨が折れた手応えを感じつつ、踏み込んだ足をそのまま左へ飛ばし、焦りで足をもつれさせているチェスの胴体を、背面ポケットから抜いた短棒で打ち据えた。
この時、一瞬だがシーナの姿が俺の視界から外れた。しかし間合いを詰めてくる気配は感じない。腹を抱えて悶絶するチェスの体を盾にしながら、低い姿勢で素早くシーナを正面に見据えるポイントに回り込む。
「悪くない動きだな、ハイダ」
シーナは先ほどと変わらぬ位置に立っている。しかしいつ抜いたのか? その右手には、鮮やかに輝く細身のロングナイフが握られていた。棒立ちに見える立ち姿だが、刀身を胸前に置いた構えが見とれるほど美しい。ピタと止まった切っ先が、この男とピノ、チェス二人との格の違いを表していた。
「しかし、そんなチャチな武器じゃあ、俺の”カタナ”は受けきれんぞ」
「そうは言ってもねシーナさん。これしか持ってないんだ」
「じゃあ、それを拾えばいい」
シーナはそう言って、俺の足元に視線を向けた。そこには、先ほどの俺の一撃でピノが取り落としたロングナイフが水底に沈んでいる。手を伸ばせば、すぐに拾えるだろう。しかし、シーナがその瞬間を待ってくれるとは思えない。
俺はそろりと一歩下がると、左手を前に突き出し、単棒を持つ右手を後ろにした第一種格闘戦の基本構えをとった。
立ちはだかる目の前の男を無視し、リーダーらしき奥に立つ男に視線を向ける。
「くっくっく、そう言うな。ここで会ったのも何かの縁だ。こちらにはこちらの都合がある」
口調は軽いが、そのセリフ一言一言に迫力がある。俺は腹に力を入れ直し男の顔をひと睨みした。
「じゃあ、名前など聞いておこうか。俺はハイダ・トール。ちょっと野暮な事情があってな、壁面を落っこちてきた」
相手を刺激しないよう、ゆっくりと右手で目を覆うゴーグルをヘルメット側へずり上げ、そしてその手を尻側へ下ろしていく。
(手前二人はなんとかなるが、問題は奥の大将だろうな)
「フン、おもしろい男だなハイダ。俺はシーナ、シーナ・デン。そしてそこの二人は弟分のピノと」
目の前に立ちはだかる大男がニヤリと笑う。
「チェスだ」俺の左手で構えを取る男は自分で名乗った。
(随分可愛い名前じゃないか、こいつら)
(しかしこの男たちは俺が背面ポケットに手をかけたことに気づいているだろうか?)
(まあ、ケンカの勝ち負けは時の運。あまり考えても仕方あるまい…)
俺は右手を背後にやったまま、ふらりと一歩前に進み出る。その緩やかな動きに誘われるように、ピノも一歩目を踏み出そうとしたその瞬間、俺は前足にかかる己の体重を抜き去り、前方へと一気に駆け抜けた。
慌てたピノがロングナイフを俺の眉間へ打ち出そうとするが、それに構わず間合いに踏み込み、顔面に頭突きを叩き込む。不確定惑星の探査に使う樹脂ヘルメットごしに、鼻骨が折れた手応えを感じつつ、踏み込んだ足をそのまま左へ飛ばし、焦りで足をもつれさせているチェスの胴体を、背面ポケットから抜いた短棒で打ち据えた。
この時、一瞬だがシーナの姿が俺の視界から外れた。しかし間合いを詰めてくる気配は感じない。腹を抱えて悶絶するチェスの体を盾にしながら、低い姿勢で素早くシーナを正面に見据えるポイントに回り込む。
「悪くない動きだな、ハイダ」
シーナは先ほどと変わらぬ位置に立っている。しかしいつ抜いたのか? その右手には、鮮やかに輝く細身のロングナイフが握られていた。棒立ちに見える立ち姿だが、刀身を胸前に置いた構えが見とれるほど美しい。ピタと止まった切っ先が、この男とピノ、チェス二人との格の違いを表していた。
「しかし、そんなチャチな武器じゃあ、俺の”カタナ”は受けきれんぞ」
「そうは言ってもねシーナさん。これしか持ってないんだ」
「じゃあ、それを拾えばいい」
シーナはそう言って、俺の足元に視線を向けた。そこには、先ほどの俺の一撃でピノが取り落としたロングナイフが水底に沈んでいる。手を伸ばせば、すぐに拾えるだろう。しかし、シーナがその瞬間を待ってくれるとは思えない。
俺はそろりと一歩下がると、左手を前に突き出し、単棒を持つ右手を後ろにした第一種格闘戦の基本構えをとった。
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