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第5章 三日目の午後、そして再び事件は起こる
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食事の写真が数枚続いたあと、背景は再び屋外に変わる。玄関前の広場から道へと出たところ、日ノ出の集落へと向かう方向のようだ。自転車に跨った伊藤さんと村上さんが振り返り、カメラに手を挙げて笑っていた。
「二人はどこかへ出かけたのですか?」
僕の質問に、高遠さんはしばらく考えていたが、
「ああそうだ。食後に二人は大風湖の見物に行ったんです」
なんとか思い出してくれた。
「大風湖って、あのダム湖だっていう?」
「そうです。この先の交差点で、湖頭峠へ向かう道とは反対の方角へ車道を登っていくとダムの目の前に出ると聞いています」
「前に敦子さんが話していた道ですね」
そうだと言うように、高遠さんは頷く。再び三輪さんがキーを操作しインフォメーションを出した。撮影時刻は十二時三十七分だ。
その次の写真は、ペンションにレンズを向けて撮影したものだ。玄関前で藤田さんが大島さんと何やら話している。撮影時刻は同じく十二時三十七分。
そしてその隣の写真は、ペンション屋内へと変わる。食堂の席に座り、水戸さんと飯畑さんがお茶を飲んでいた。時刻は午後三時二十八分。
「ここで一気に、時間が経ちましたね」
僕は三輪さんに視線を向けた。先輩は悲しげな目で画面を見つめている。この二枚の写真の間で、クルミさんは亡くなったのだ。
「三輪さん、やはり消しましょう」
高遠さんも先輩の悲しみに気づいたのだろう、閲覧ソフトを閉じようとした。しかしその動作を、三輪さんは再び制止する。
「二枚前の写真に戻ってもらえませんか?」
「え?」
突然の申し出に高遠さんは、すぐに動けない。すると三輪さんはもどかしげに彼女の手からマウスを奪うと、自分で操作して二枚前、自転車に乗る伊藤さんと村上さんの写真に表示を戻した。そして画面にグッと近づき、食い入るように見つめる。
「先輩、いったいどうしたんですか? この写真に何か不審な点でも」
そう聞く僕へ三輪さんは向き直ると、指で画面のやや左上を指し示した。
「ここや。ここにもう一人、誰かがいる」
確かに、言われるまで気づかなかったが、そこにはもう一人誰かが写っていた。伊藤さんたちの乗った自転車の向こう、道をかなり進んだ先に、人影が見える。しかし小さすぎて、いまいち判然としない。
「誰ですかね?」
「女性に見えるんやが。よし拡大してみよ」
三輪さんはそう言うと、閲覧ソフトのメニューから拡大表示を選び出す。たちまち村上さんの顔が画面いっぱいに拡大された。そこからマウスを操作して問題の箇所へと移動する。するとそこには、黄色いTシャツにベージュのパンツ、そしてピンクのザックを背負った人物が写っていた。体型や歩き方から、確かに女性に見えなくもない。
「誰だろ。高遠さんは気づいてましたか?」
と聞くと、彼女は顔の前で手をブンブンと振って否定した。
「知りませんでした。ここに他の人が写ってるなんて。これ誰かしら」
心なしか、顔色が悪い。それはそうだろう。大きな事故のあった日の写真だ。何やら不吉な雰囲気を感じてしまうのも無理はない。そして、三輪さんは再び固まったかのように画面に見入っている。
「先輩、よく気づきましたね。この人に」
「……みや」
「え?」
「これは、クルミや。間違いない」
三輪さんは僕たちに向かって宣言した。
「二人はどこかへ出かけたのですか?」
僕の質問に、高遠さんはしばらく考えていたが、
「ああそうだ。食後に二人は大風湖の見物に行ったんです」
なんとか思い出してくれた。
「大風湖って、あのダム湖だっていう?」
「そうです。この先の交差点で、湖頭峠へ向かう道とは反対の方角へ車道を登っていくとダムの目の前に出ると聞いています」
「前に敦子さんが話していた道ですね」
そうだと言うように、高遠さんは頷く。再び三輪さんがキーを操作しインフォメーションを出した。撮影時刻は十二時三十七分だ。
その次の写真は、ペンションにレンズを向けて撮影したものだ。玄関前で藤田さんが大島さんと何やら話している。撮影時刻は同じく十二時三十七分。
そしてその隣の写真は、ペンション屋内へと変わる。食堂の席に座り、水戸さんと飯畑さんがお茶を飲んでいた。時刻は午後三時二十八分。
「ここで一気に、時間が経ちましたね」
僕は三輪さんに視線を向けた。先輩は悲しげな目で画面を見つめている。この二枚の写真の間で、クルミさんは亡くなったのだ。
「三輪さん、やはり消しましょう」
高遠さんも先輩の悲しみに気づいたのだろう、閲覧ソフトを閉じようとした。しかしその動作を、三輪さんは再び制止する。
「二枚前の写真に戻ってもらえませんか?」
「え?」
突然の申し出に高遠さんは、すぐに動けない。すると三輪さんはもどかしげに彼女の手からマウスを奪うと、自分で操作して二枚前、自転車に乗る伊藤さんと村上さんの写真に表示を戻した。そして画面にグッと近づき、食い入るように見つめる。
「先輩、いったいどうしたんですか? この写真に何か不審な点でも」
そう聞く僕へ三輪さんは向き直ると、指で画面のやや左上を指し示した。
「ここや。ここにもう一人、誰かがいる」
確かに、言われるまで気づかなかったが、そこにはもう一人誰かが写っていた。伊藤さんたちの乗った自転車の向こう、道をかなり進んだ先に、人影が見える。しかし小さすぎて、いまいち判然としない。
「誰ですかね?」
「女性に見えるんやが。よし拡大してみよ」
三輪さんはそう言うと、閲覧ソフトのメニューから拡大表示を選び出す。たちまち村上さんの顔が画面いっぱいに拡大された。そこからマウスを操作して問題の箇所へと移動する。するとそこには、黄色いTシャツにベージュのパンツ、そしてピンクのザックを背負った人物が写っていた。体型や歩き方から、確かに女性に見えなくもない。
「誰だろ。高遠さんは気づいてましたか?」
と聞くと、彼女は顔の前で手をブンブンと振って否定した。
「知りませんでした。ここに他の人が写ってるなんて。これ誰かしら」
心なしか、顔色が悪い。それはそうだろう。大きな事故のあった日の写真だ。何やら不吉な雰囲気を感じてしまうのも無理はない。そして、三輪さんは再び固まったかのように画面に見入っている。
「先輩、よく気づきましたね。この人に」
「……みや」
「え?」
「これは、クルミや。間違いない」
三輪さんは僕たちに向かって宣言した。
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