漂流物

九時木

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不在: 居酒屋〜海

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 彼の母をマンションに待機させ、私は彼を探していた。
 しかし、手がかりのないまま、彼の場所を探すのは困難だった。
 母の反応から察するに、彼は恐らく昨日か今日に家を出たばかりだった。
 マンションには彼の衣服が残されていなかった。もしかすれば、彼は荷物を一通りまとめて出かけているのかもしれなかった。

 私は彼がバックパックかスーツケースを持っていることを予想した。そうして、もしかすれば遠出をしているのかもしれないと思うに至り、人通りの多い街を想像した。
 しかし、駅から駅を移動し、街中へ足を運んでみた所で、彼が見つかるはずもなかった。
 そこは縁もゆかりも無い場所であるばかりか、あまりの建物の多さや人の多さに圧倒され、人探しには全く不向きの場所だった。
 私は街中で彼を探すことを断念し、近場に彼がいることを願いながら、そこで探すことにした。


 近場で考えられる所と言えば、美術館、大学の図書館、そして道沿いのカフェだった。
 しかし、美術館や図書館については、彼が荷物を運びながら向かうとは考え難い場所だった。
 私は消去法でカフェに向かった。美術館や図書館の周辺に散在するカフェや、駅付近の店を一通り歩いて回った。

 日が暮れ始め、辺りは暗闇にのまれつつあった。私は身体が熱で汗ばむのを感じながら、彼と通った道を辿り続けた。
 自分が何だか途方もないことをしているように感じ、ひどく打ちのめされた気がしたが、私は彼を探し続けた。
 しかし、何処へ行けども彼の姿は見当たらなかった。


 夜がすっかり更けた頃、私の足はすっかりくたびれてしまったので、ひとまず近くの公園で一休みすることにした。
 私は街灯の下に置かれたベンチに座った。
 そのベンチは、かつて老人と私が酔い潰れた彼をもたれさせた場所だった。
 私はベンチを懐かしく思いながら、夜空を見上げた。
 暗闇には三つの星が並んでおり、以前ほどの眩さはなく、ただ弱々しく点滅していた。
 私は星々を眺めながら、彼のいる場所について考えを巡らせた。


 思い浮かんだ一つの場所について、確信はなかった。しかし、そこが彼にとって最も思い出深い場所であることには違いなかった。
 思い出深いという点では、私にとっても、変わりのない事実だった。私たちはあの静けさの中で、互いの時間を共有し、秘密を守った。
 もし私がそこへ向かい、そこに彼がいるとすれば、それは変わることのない時間への郷愁によるものかもしれなかった。

 私は、彼は今一人で行動しているのだろうと思った。そして、それは彼にとって絶望的なことであり、それだけに彼は何か縋れるものを求めているかもしれないと、そうも考えた。
 全て私の憶測に過ぎなかったが、私はそこへ行くことにした。
 時計を見ると、針は二十時前を指していた。
 私はベンチから立ち上がり、急いでバス停に向かって走り出した。
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