漂流物

九時木

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瞬間的記憶: 服屋〜海

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 「思い出せるのは、夜中に母さんが叫び声を上げて、家に警察官が来たことだ」

 彼は砂浜に座りながら、私に言った。

 「制服を着た何人もの大人が風呂場に入って、僕の父さんの様子を確かめていた。僕はこっそり警官を見ていたけれど、母さんに止められてしまった」

 彼は近くの砂を掴み取り、指を擦り合わせた。
 きめ細かな砂は彼の指を滑り落ち、風に揺れて消えていった。

 「母さんは父さんのもとから離れようとしなかった。だけど、警官は母さんをリビングに移動させて、ひたすら質問を投げかけていた」

 眩いほどの日光を浴びた彼の顔が、俯くと同時に影を帯びた。
 私は彼の隣に座りながら、話を聞き逃すまいと耳を傾けていた。

 「まだ幼い頃の出来事だったから、記憶が曖昧でさ」

 彼は両腕に顔を半分ほど埋めながら、手のひらから落ちていく砂をぼんやりと眺めていた。

 「正直に言って、はっきりと覚えているのはそれくらいなんだ。だけど」

 彼は歪んだ笑みを浮かべたが、実のところ、それは笑みを表したかったのではなかったのかもしれなかった。
 彼は言葉を詰まらせた。重たげな瞼が両目を覆い、彼の顔はやがて両腕の中へと沈み込んだ。

 「何だか寂しくなったよ」


 虚しい沈黙が続いていた。
 私は彼から目を逸らし、海を眺めた。
 海はたっぷりの日光を反射し、宝石を散りばめたように煌めいていた。
 光は痛ましいほどに輝き、私の両目に焼き付けるような痛みを走らせた。
 目の奥がずきずきと悲鳴を上げた。私は目を擦りながら、目の前の光から逃れるようにして、陸に視線を向けた。
 渚に目を移すと、波が相変わらず海藻や貝殻を吐き出していた。
 私はそれらが陸や海を行ったり来たりするのを眺めながら、彼に言った。


 「今から貝拾いをしないか」

 その言葉は、私の喉元から不意に放たれた。
 彼の方は顔を上げ、「今から?」と確かめるようにその言葉を繰り返した。
 「一番良いものを見つけよう」と、私はよそ見もせず、彼に真っ直ぐな眼差しを向けた。
 彼は口を開いたまま何も言わなかったが、しばらくしてゆっくりと立ち上がり、私に同意した。
 私たちは夢中で貝殻を探した。何かに急かされるようにして、あちこちを歩き回った。
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