NATE

56. 声明

　「グッド・イヴニング、エブリワン。俺たちは怪しい者じゃないぜ。
　これは悪ふざけでもなければ、暇つぶしでもない。俺たちは真剣マジな話をしに、ここに来た」

　NATESのメンバーの一人が、落ち着いた声でカメラに向かって話す。
　静まり返ったスタジオで、スタッフや他のメンバーは彼を見つめながら、じっとしていた。


　「S市内の諸君よ、見ているか。俺たちは今、自由を手にしている。
　若者の置かれている状況を説明するための自由を。発言の権利を。

　先に言おう。俺たちは社会に抑圧された身だ。
　クラスでは周囲にからかわれ、会社では上司にこっぴどく叱られ、同僚からは冷ややかな目で見られている……

　俺たちには居場所がない。他人の前では、ヘラヘラと良い顔をして本心を隠さなければならない。俺たちは精神的に参っている」


　「そして、何よりも金を十分に持っていない」少しの間があった後、今度はもう一人のメンバーが口を開いた。

　「俺たちは金がないせいで、大学に進学できない。親の介護で手一杯で、自分のことなんかそっちのけだ。

　それに、いくら働いても賃金が安すぎて、とても暮らせたものじゃない。光熱費と家賃の滞納で家を追い出される寸前だ。

　実際に追い出されている者もいる。シェアハウスでさえ住めずに、ホームレスや車上生活を強いられているんだ。

　奨学金の返済に追われている者もいる。生活保護に入って、ギリギリの生活を送る者も。くそったれの長時間労働で、過労死寸前の者も。

　いくら努力しても、無駄な足掻きだと知らされる。わからないな。どうして俺たちは、こんなにも報われないんだ？」

　メンバーが切り替わり、3人目が話を始めた。

　「政府からの保障がないせいか、物価高騰のせいか。俺たちは社会に振り回されて、暗い道をさ迷っている。

　NATESやJACKは、そんな鬱屈した感情をさらけ出せる唯一の場所だった。
　それなのに、警察は俺たちの行為を暴行罪扱いして、片っ端から捕まえるんだ。

　俺たちには、発言の権利もないのか？生活や人間関係の苦しさにもがいていることすら発信を許されないのか？

　そうではないはずだ。俺達には発言権がある。自分の現状を伝えるだけの言葉が与えられている」


　「俺たちは自由の身でありたい」メンバーたちは口を揃え、力強く主張した。

　「抑圧的な社会から解放されたい。
　立派な生活じゃなくてもいい。アパートに暮らして、一日の食事が保証されていて、借金の返済に頭を抱えずに済むような、そんな生活を送りたいんだ。

　将来に希望が持てるような生活を送りたいだけだ。
　だが今は、生活が保証されている人間はごくわずかしかいない。皆、毎日何かに追われて生きている。

　でも、だからこそ俺たちは自由を信じたい。
　俺たちNATESとJACKは、NATEに自由の可能性を見出だし、NATEをもとにつながった。

　NATEの力を信じる若者は、皆社会に抑圧されていた。苦しい生活の中に、希望を見つけたいと思う者たちだった。

　だから、俺たちをこれ以上捕まえるのは止めてくれ。
　俺たちは自由の身でありたい。それだけなんだ」


　30秒が経過し、電力が完全復活する。
　メンバーたちは急いで全頭マスクを被り直し、撤退の準備をした。

　スタッフの手首を縛っていたテープを解放する。ドアに駆け込み、思い切り閉める。

　非常階段を駆け降り、一斉に外へ向かう。
　外ではJACKのメンバーが集い、武装した警察に向かって声を振り絞っていた。

　「俺たちは自由の身だ！」