NATE

九時木

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54. 前日

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 10月20日日曜日、午後21時。
 Yビルでは、明日に備えてメンバーたちによる最終確認が行われていた。


 「さて、Aグループの諸君。作戦の流れは把握できたか?」

 ダンが輪の中心に座り込みながら、メンバーに話しかける。
 メンバーの一人が彼に向かって言った。

 「清掃員と警備員に扮装して、潜入する所までは。だけど、制服はどうやって手に入れるんだ?」

 「その心配はいらないぜ」ダンがにやりと笑い、輪の中にいたメンバーに目をやった。

 「幸い、JACKウチのメンバーにテレビ局の清掃員と警備員を務めているやつがいる。
 制服は、その2人が事前に用意してくれるだろう。ロッカーの鍵を開けて、他の業務員の分を借りるんだ」

 「2人とも、シフトは調整してあるな?」ダンが清掃員と警備員に確かめる。

 「もちろんです」2人は事務的に頷く。
 「充分だ」ダンは2人に真っ直ぐな視線を送った後、作戦の説明に戻った。


 「いいか。スタジオは15階にある。スタジオは俺とザイオンが、UPS(無停電電源装置)と発電機をハッキングして一時的に停電させる。
 
 その間に、お前たちはスタッフを拘束しろ。スタンガンも念の為用意しておくが、そいつは極力使わず、最終手段のために取っておけ。

 スピーチできる時間は30秒だ。時間内に、お前たちAグループは意思表明をする。
 代表はNATESから数名選抜した。安心しろ、討論で鍛えられたやつらだ。NATESのメンバーなら、俺たちの現状を十分に説明してくれるだろう」

 「30秒後には」ダンがAグループを見渡しながら、話を続ける。

 「停電を復活させる。時間内にスタジオから撤退してくれ。そのまま警備員と清掃員の振りをして、テレビ局を出るんだ」

 「これがAグループの作戦だ。自信はあるか?」ダンが説明を終え、メンバーたちの様子を再度確かめる。
 メンバーたちは真剣な顔で頷いた。ダンは立ち上がり、今度はBグループの輪へ入った。


 「Bグループの諸君。再度説明をしよう。

 お前たちは、テレビ局付近で警察が来るのを待ってくれ。
 やつらが来たら、とにかく暴れてAグループのために時間を稼ぐんだ。

 やつらの前でお互いを殴り合う。振りをするだけでも構わない。できるだけ長く騒ぎを起こせ」

 「もし警察が武装をしていたら」ダンは注意深く話す。

 「すぐに抗議しろ。『俺たちは自由の身だ』と、ひたすら訴えるんだ。
 デモだとわかれば、いずれカメラも回るようになる。騒動が派手になるまで持ち堪えてくれ」

 「やってやるさ!」力が自慢の意欲的なBグループは、一斉に声を上げた。
 「いい調子だ」ダンは静かに笑い、ゴスに視線を向けた。


 「地上は任せたぜ、ゴス」

 「手は抜かないよ」ゴスは腕を組みながら返す。

 「リンダもな」ダンはリンダの方へ向き、彼女の意思を確かめた。

 「口論なら任せてちょうだいね」リンダはJACKのメンバーらしく、自信ありげに頷いてみせた。

 「作戦の実行は明日だ」ダンは会場の中央に立ち、メンバーたちに声をかけた。

 「俺たちは自らの意思で立ち上がり、闘う。
 
 日々、上司や同僚にこっぴどくやられている者。金がなくて学校に行けない者。クラスで惨めな思いをした者……
 俺たちはそんな抑圧への怒りと不満を、全て明日にぶつける。

 明日の出来事は、今後の俺たちのあり方を大きく変えるだろう。
 俺たちは抑圧からの解放を求め合う仲間だ。どんな風に転がっても、己の意思に従い続ける。俺たちは自由の身だ」

 ダンの言葉で、会場が一斉に湧き上がる。
 「俺たちは自由の身だ!」メンバーたちはそう叫びながら、拳を突き上げた。

 会場の盛り上がりはピークに達した。
 ダンはメンバーたちを見届け、最後に締めくくった。

 「それでは諸君、健闘を祈る」
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