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52. 本心
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私がJACKに着いた頃、メンバーたちは既に闘いを始めていた。
中央には2人の男が立ち、殴り合いをしているのが見える。
男たちは顔が傷だらけで、長く闘い続けているであろうことが見て取れた。
私は会場を見回し、ダンを探した。
黒いトレーナーを来た男が、壁にもたれている。ダンは会場の隅で、静かに観戦していた。
「よう、エマ」
こちらに気づいたダンが、私に視線を送る。
私は彼の隣に立ち、中央の闘いをじっと見た。
「今夜はいつもに増して盛り上がっていますね」
「試合前に、ちょっとした喝を入れたんだ」
ダンが腕を組み、短く笑う。私は暗い表情をし、彼に問いかけた。
「レオから、あなたを止めるよう話を聞きました。一体、何を企んでいるのですか?」
私は視線を中央に向けたまま、ダンに尋ねる。
一人の男がもう一人の男に殴りかかり、会場に歓声が湧き上がる。
ダンは拍手を送りながら、私に耳打ちをした。
「ラジオの乗っ取りだけじゃ物足りないんだ」
「また悪さをするつもりですね」私は唇を噛み締め、彼を睨む。
「怖い顔をするなよ。この状況を楽しまないのは損だぜ」
「私の友人が巻き込まれているんです」
私はいてもたってもいられないような気持ちになり、説得するような口調で彼に言った。
「リンダは私の大切な友人です。あなたが彼女をJACKに誘ったことは知っています。
私を引き止めるために、彼女を盾にしていることも。ですが、私はあなたの危険行為には同意できません。
私には、あなたの計画がどんなものかはわかりません。ですが、どうか私の友人を巻き込むのは止めてください」
「JACKでは、個々の意思が何よりも尊重される」ダンが間髪入れず、私に返す。
「脱退するタイミングは、その人が決めることだ。
彼女がまだここに居続けたいというのならば、その意思は誰にも邪魔されてはならない」
「お前の友人は、今のところJACKに釘付けみたいだぜ」ダンが観客の輪に視線を移し、私に合図する。
リンダは観客に紛れ込み、大歓声を上げていた。
私は彼女のそばに駆けつけようとしたが、ダンが私の腕を掴んだ。
「リンダは危険行為に無自覚なんです」私は決然とした態度で、ダンに言う。
「あなたは危険行為を理解した上で、この状況を楽しんでいるかもしれません。だけど、彼女はそうじゃない。
これから何が起こるかもわからないまま、あなたに振り回されている。私は黙って見過ごすわけにはいかないんです」
「それなら、俺たちを通報すればいい」ダンが射抜くような目で私を見る。
「通報して、テレビ局の乗っ取りをすることを警察に伝えるんだ。そうすれば、お前は友人を救える」
「テレビ局の乗っ取りですって?」私は思わずその言葉を繰り返した。
「いいか、お前に与えられているのは二択だ。
一つは俺たちを通報し、リンダを救う代わりにJACKの仲間を全員逮捕させる。
もう一つは、仲間がテレビ局で自由の権利を発信するのを見届ける」
「現実か希望か、選ぶのはお前次第だ」ダンが私の手を離す。
「絶対に、通報しますから」私はポケットからスマートフォンを取り出し、電話番号をタイプしようとした。
ダンは、私の震える手を黙って眺める。
私は自分に言い聞かせてみるが、手はなかなか動かない。
「本心は裏切れない。わかるな?」ダンが壁にもたれながら、ごく落ち着いた様子で話した。
「お前は、俺たちに期待している。これからどんな行動を取るのか、実際は見たくて仕方ないんだ。
だから、俺たちを通報することはできない。知っているさ。お前の好奇心は並のものじゃないんだ」
中央には2人の男が立ち、殴り合いをしているのが見える。
男たちは顔が傷だらけで、長く闘い続けているであろうことが見て取れた。
私は会場を見回し、ダンを探した。
黒いトレーナーを来た男が、壁にもたれている。ダンは会場の隅で、静かに観戦していた。
「よう、エマ」
こちらに気づいたダンが、私に視線を送る。
私は彼の隣に立ち、中央の闘いをじっと見た。
「今夜はいつもに増して盛り上がっていますね」
「試合前に、ちょっとした喝を入れたんだ」
ダンが腕を組み、短く笑う。私は暗い表情をし、彼に問いかけた。
「レオから、あなたを止めるよう話を聞きました。一体、何を企んでいるのですか?」
私は視線を中央に向けたまま、ダンに尋ねる。
一人の男がもう一人の男に殴りかかり、会場に歓声が湧き上がる。
ダンは拍手を送りながら、私に耳打ちをした。
「ラジオの乗っ取りだけじゃ物足りないんだ」
「また悪さをするつもりですね」私は唇を噛み締め、彼を睨む。
「怖い顔をするなよ。この状況を楽しまないのは損だぜ」
「私の友人が巻き込まれているんです」
私はいてもたってもいられないような気持ちになり、説得するような口調で彼に言った。
「リンダは私の大切な友人です。あなたが彼女をJACKに誘ったことは知っています。
私を引き止めるために、彼女を盾にしていることも。ですが、私はあなたの危険行為には同意できません。
私には、あなたの計画がどんなものかはわかりません。ですが、どうか私の友人を巻き込むのは止めてください」
「JACKでは、個々の意思が何よりも尊重される」ダンが間髪入れず、私に返す。
「脱退するタイミングは、その人が決めることだ。
彼女がまだここに居続けたいというのならば、その意思は誰にも邪魔されてはならない」
「お前の友人は、今のところJACKに釘付けみたいだぜ」ダンが観客の輪に視線を移し、私に合図する。
リンダは観客に紛れ込み、大歓声を上げていた。
私は彼女のそばに駆けつけようとしたが、ダンが私の腕を掴んだ。
「リンダは危険行為に無自覚なんです」私は決然とした態度で、ダンに言う。
「あなたは危険行為を理解した上で、この状況を楽しんでいるかもしれません。だけど、彼女はそうじゃない。
これから何が起こるかもわからないまま、あなたに振り回されている。私は黙って見過ごすわけにはいかないんです」
「それなら、俺たちを通報すればいい」ダンが射抜くような目で私を見る。
「通報して、テレビ局の乗っ取りをすることを警察に伝えるんだ。そうすれば、お前は友人を救える」
「テレビ局の乗っ取りですって?」私は思わずその言葉を繰り返した。
「いいか、お前に与えられているのは二択だ。
一つは俺たちを通報し、リンダを救う代わりにJACKの仲間を全員逮捕させる。
もう一つは、仲間がテレビ局で自由の権利を発信するのを見届ける」
「現実か希望か、選ぶのはお前次第だ」ダンが私の手を離す。
「絶対に、通報しますから」私はポケットからスマートフォンを取り出し、電話番号をタイプしようとした。
ダンは、私の震える手を黙って眺める。
私は自分に言い聞かせてみるが、手はなかなか動かない。
「本心は裏切れない。わかるな?」ダンが壁にもたれながら、ごく落ち着いた様子で話した。
「お前は、俺たちに期待している。これからどんな行動を取るのか、実際は見たくて仕方ないんだ。
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