NATE

49. 11:9

　「ところで、今朝のニュースはもう見たかい」

　ウィルがワインボトルを手にしながら、私に尋ねる。
　私が首を振ると、彼はソファに座り、テレビをつけた。

　テレビに女性アナウンサーが映り、緊迫した声が流れる。
　私はニュースの字幕に目を見開いた。


　『10月18日、金曜日。今朝のニュースをお伝えします。
　午前9時、各ストリートにて、NATEをめぐる暴行事件が同時に発生しました。

　事件はN・ストリートで8件、W・ストリートで5件、S・ストリートで5件、E・ストリートで2件です。

　12日に起こった10件目の暴行事件は、今朝で20件に膨れ上がりました。
　加害者は全員、10件目の事件と同様、暴行の正当性を主張しているとのことです。

　警察は、背景に何らかのグループが関与していることを踏まえ、調査を進めています』


　ニュースを見た私は、その場で固まった。
　その間、ウィルは私に探るような眼差しを向けた。

　「君は信念のために殴り合いをしているグループを知っている。そして、君の友人にはリーダーシップがあり、皆に慕われている。

　どうやら君は、とんでもない事件に巻き込まれてしまったようだね」

　ウィルは全てを察したようだった。
　もはや誤魔化しようのない状況だった。私は額に汗がにじみ出るのを感じながら、ウィルに尋ねた。

　「今すぐにでも、私はこのグループから抜け出すべきでしょうか？」

　「身の安全のためならね」

　「ですが、私には友人がいます」

　「リーダーシップのある彼とは、別の友人が」私は震え声で訴えた。

　「事件に巻き込まれそうになっているんです。私はその友人を助けなくてはならない。理解していただけますか？」

　「十分に理解するさ」ウィルな私に同情する。

　ニュースは容赦しなかった。ウィルと私が話している間、画面が切り替わり、別の事件を報道した。


　『ニュースです。昨日午後21半過ぎ、N地方局が何者かによって電波ジャックの被害に遭いました。

　地方局によりますと、犯人はNATEをめぐる暴行事件の加害者を解放するように呼びかけていたとのことです。

　警察は、電波ジャックの犯人が暴行事件のグループと関係していると見ており……』

　「これは君の友人かな」ウィルがソファでくつろぎながら、私に問う。
　私の長い閉口によって、リビングに沈黙が訪れる。

　私はウィルが静かにグラスを揺らすのを見ながら、不安げな声で尋ねた。

　「私をグループの関係者として通報しますか？」

　ウィルはこちらに振り向き、そっと笑った。

　「仮にそうしたとしても、君なら簡単には口を割らないだろうね」

　「大丈夫さ。僕は君たちの邪魔はしないよ」ウィルは安心させるような口調で、私に語りかける。

　ニュースが犯人の声明に切り替わる。
　ざらついた雑音とともに、ダンの声が流れた。


　『俺たちが求めているのは、自由だ。ありのままの姿をさらけ出せる場所だ……
　俺たちの仲間を解放しろ。暴力のレッテルを貼るのはよせ』

　「つまらないことを言ってくれるじゃないか」ウィルはいかにも愉快そうな顔をしながら、テレビ画面を眺めている。

　「通報しないのですね？」私は念を押すように、ウィルに再度尋ねる。

　ウィルは返答する代わりに、鼻歌を歌い始めた。
　滑らかに、賛美歌でも歌い上げるような調子で、彼はソファで口ずさんだ。


　「『若者よ、お前の若さを喜ぶがよい。青年時代を楽しく過ごせ。
　心にかなう道を、目に映るところに従って行け。

　知っておくがよい。神はそれらすべてについて、お前を裁きの座に連れて行かれると』」