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48. 酔い
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マンションのエレベーターに乗り、7階まで上る。
私は見慣れたインターホンを鳴らし、彼が出てくるのを待った。
「お待たせ。よく来たね」
ウィルはいつも通り笑みを浮かべ、私を歓迎する。
彼の目は相変わらず落ち窪んでおり、全体的にやつれていた。
私はそっと玄関に上がり、リビングに向かった。
10月18日、金曜日。私はウィルの家を訪れていた。
結局、ダンの計画についてはレオから聞き出せなかった。
メンバーたちはNATESから次々と退出し、YビルのJACKへ向かっていった。
取り残されたのは、レオと私を含むわずか数名だけだった。
「ダンを止めてくれ」
レオは震え声で、私にそう言った。
ダンは一体、何をしようとしているのだろうか?
「皆がやられてしまう」ような出来事について考えを巡らせていると、ふとウィルが私に話しかけた。
「ずいぶん考え込んでいるようだね。何かあったのかい?」
散らかった部屋に佇んだまま、ウィルが私の様子を伺う。
私は額に手を押さえながら、彼に返した。
「正直、気が滅入っています。私が今抱えている問題についてあなたにお話しすべきか、私にはわからないのです」
「君には世話になっているからね」ウィルは腕を組み、私に言った。
「僕で良ければ、話を聞くよ」
ウィルが挽きたてのコーヒーを私に差し出す。
私は温かいマグカップを手で包み、湯気にそっと息を吹きかけた。
「それで、どんな話なんだい?」ウィルが木製椅子でつくろぎながら、私に尋ねる。
「お話ししたいのは、人間関係についてなのですが」私はコーヒーを一口飲んでから、彼に話した。
「私は今、ある友人に頭を抱えているんです。
彼はとても友好的で、リーダーシップもあり、仲間からは絶大な信頼を得ています。
ですが、何処か常軌を逸しているような所があるんです。
詳しくは言えませんが、彼は目的のために周囲を巻き込んでしまうような危うさがある。
私はそんな彼を止めたいのですが、自信がありません。一体どうすれば良いのでしょうか?」
ウィルは私を見つめながら、静かに傾聴する。
直後、彼は確かめるような口調で私に尋ねた。
「説得できそうな相手なのかい」
「わかりません。ただ、彼には強い信念があるようです。
仲間を助けたいという信念が……。仲間もそれに同調し、危険な道に進もうとしています」
ウィルは首を傾げる。私は自分の鼓動が高鳴るのを覚えながら、彼の答えを待った。
数秒経つと、彼は疑わしげな表情を浮かべた。
「君の友人は、本当に仲間を助けたいのかな」
「なぜそのような問いを?」私は思わぬ疑問に驚きをあらわにする。
「単純な話、本当に仲間を助けたいのならば、まずは仲間を安全な方へ導くはずだろう。
だけど、君の友人の場合はそうじゃない。仲間を同じ危険な道へ誘っている。
その人は本当に仲間を助けることを目的としているのだろうね?」
ウィルは真っ直ぐな視線を私に送る。
強い視線に気圧された私は、「どうでしょう……」と曖昧な返事をする。
「これは、あくまでも僕の想像だけれど」
ウィルはグラスにワインを注ぎながら、私に言う。
「その人は、周囲を巻き込むことにスリルを感じているんじゃないかな」
「スリル?」私はマグカップを置き、ウィルの言葉を繰り返す。
「危険と快楽は表裏一体の関係でね」ウィルは真っ赤な赤ワインをたっぷりと注いだ後、グラスを誘惑的に揺らしてみせた。
「危険が増すほど、恐怖心も強まる。だけど、恐怖心が頂点に達すると、今度は快楽を感じるようになる。
『次は一体どんな出来事が待ち構えているのか?』。そんな期待が膨らんで、より強い刺激を求めるようになる。
人間という生き物は、あまりに危険にさらされていると、やがて恐怖心を克服してしまうんだ。
そうして、恐れを克服したという達成感も相まって、ますます刺激を求めるようになる」
「これは酒と似ているよ」ウィルは赤ワインをごくりと飲み干し、芳香な香りを放った。
「酒を飲み続けると、アルコールに慣れて、度数の高い酒に手をつけるようになるのさ」
ウィルの白ワインは赤ワインに変わっていた。
ボトルのラベルには40度と記されており、とびきり高い度数に私は度肝を抜かれた。
「真剣な話をしているんです」私は少し咎めるような視線を彼に向ける。
「わかっているよ」ウィルはごく優しい口調で、私に語りかけた。
「僕もいたって真剣だ」
私は見慣れたインターホンを鳴らし、彼が出てくるのを待った。
「お待たせ。よく来たね」
ウィルはいつも通り笑みを浮かべ、私を歓迎する。
彼の目は相変わらず落ち窪んでおり、全体的にやつれていた。
私はそっと玄関に上がり、リビングに向かった。
10月18日、金曜日。私はウィルの家を訪れていた。
結局、ダンの計画についてはレオから聞き出せなかった。
メンバーたちはNATESから次々と退出し、YビルのJACKへ向かっていった。
取り残されたのは、レオと私を含むわずか数名だけだった。
「ダンを止めてくれ」
レオは震え声で、私にそう言った。
ダンは一体、何をしようとしているのだろうか?
「皆がやられてしまう」ような出来事について考えを巡らせていると、ふとウィルが私に話しかけた。
「ずいぶん考え込んでいるようだね。何かあったのかい?」
散らかった部屋に佇んだまま、ウィルが私の様子を伺う。
私は額に手を押さえながら、彼に返した。
「正直、気が滅入っています。私が今抱えている問題についてあなたにお話しすべきか、私にはわからないのです」
「君には世話になっているからね」ウィルは腕を組み、私に言った。
「僕で良ければ、話を聞くよ」
ウィルが挽きたてのコーヒーを私に差し出す。
私は温かいマグカップを手で包み、湯気にそっと息を吹きかけた。
「それで、どんな話なんだい?」ウィルが木製椅子でつくろぎながら、私に尋ねる。
「お話ししたいのは、人間関係についてなのですが」私はコーヒーを一口飲んでから、彼に話した。
「私は今、ある友人に頭を抱えているんです。
彼はとても友好的で、リーダーシップもあり、仲間からは絶大な信頼を得ています。
ですが、何処か常軌を逸しているような所があるんです。
詳しくは言えませんが、彼は目的のために周囲を巻き込んでしまうような危うさがある。
私はそんな彼を止めたいのですが、自信がありません。一体どうすれば良いのでしょうか?」
ウィルは私を見つめながら、静かに傾聴する。
直後、彼は確かめるような口調で私に尋ねた。
「説得できそうな相手なのかい」
「わかりません。ただ、彼には強い信念があるようです。
仲間を助けたいという信念が……。仲間もそれに同調し、危険な道に進もうとしています」
ウィルは首を傾げる。私は自分の鼓動が高鳴るのを覚えながら、彼の答えを待った。
数秒経つと、彼は疑わしげな表情を浮かべた。
「君の友人は、本当に仲間を助けたいのかな」
「なぜそのような問いを?」私は思わぬ疑問に驚きをあらわにする。
「単純な話、本当に仲間を助けたいのならば、まずは仲間を安全な方へ導くはずだろう。
だけど、君の友人の場合はそうじゃない。仲間を同じ危険な道へ誘っている。
その人は本当に仲間を助けることを目的としているのだろうね?」
ウィルは真っ直ぐな視線を私に送る。
強い視線に気圧された私は、「どうでしょう……」と曖昧な返事をする。
「これは、あくまでも僕の想像だけれど」
ウィルはグラスにワインを注ぎながら、私に言う。
「その人は、周囲を巻き込むことにスリルを感じているんじゃないかな」
「スリル?」私はマグカップを置き、ウィルの言葉を繰り返す。
「危険と快楽は表裏一体の関係でね」ウィルは真っ赤な赤ワインをたっぷりと注いだ後、グラスを誘惑的に揺らしてみせた。
「危険が増すほど、恐怖心も強まる。だけど、恐怖心が頂点に達すると、今度は快楽を感じるようになる。
『次は一体どんな出来事が待ち構えているのか?』。そんな期待が膨らんで、より強い刺激を求めるようになる。
人間という生き物は、あまりに危険にさらされていると、やがて恐怖心を克服してしまうんだ。
そうして、恐れを克服したという達成感も相まって、ますます刺激を求めるようになる」
「これは酒と似ているよ」ウィルは赤ワインをごくりと飲み干し、芳香な香りを放った。
「酒を飲み続けると、アルコールに慣れて、度数の高い酒に手をつけるようになるのさ」
ウィルの白ワインは赤ワインに変わっていた。
ボトルのラベルには40度と記されており、とびきり高い度数に私は度肝を抜かれた。
「真剣な話をしているんです」私は少し咎めるような視線を彼に向ける。
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「僕もいたって真剣だ」
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