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46. ゴス
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「あたしがまだ小学生だった頃」
ゴスがゆっくりと前を歩きながら、メンバーたちに話している。
「あたしの両親は、あたしの白斑を見て驚いたりしなかった。
『あんたは特別な子だよ』と言って、あたしの目元をそっと撫でてくれた。
あたしはこの模様に、何の思い入れもなかった。
周りもいつか、同じように目元が白くなるものだと思っていた。それくらいの認識だったのさ。
だけど、いつまで経っても皆の目元は白くならなかった。あたしだけが白いままで、いつになっても消えてはくれなかった」
ゴスがメンバーたちに目を逸らすことなく、真っ直ぐな目で見つめる。
メンバーたちはそれに答えるように、ゴスをじっと見返した。
「クラスのやつらは、あたしをからかった。
『お前だけ目元が白いのは、呪われているからだ』と言って、あたしを避けたり、あたしのカバンを隠したりした。
一番ひどかったのは、白斑に泥を塗られたことだ。
『こんな恥ずかしいものを周りに見せるな』と言って、クラスのやつらはあたしの顔に泥を塗ったんだ」
ゴスが歯ぎしりをし、何かに堪えるような顔をすした。
「あたしは悔しかった。親は白斑のことを『誇りだ』なんて言ったけれど、実際は誇りでも何でもなかった。落ちぶれ者のスティグマだったのさ。
それが嫌になって、あたしはある日から眼帯をつけるようになった。そうすれば、白斑が隠れてくれるだろう?」
ゴスはマイク越しに嘲笑う。私は真剣な顔で、ゴスを見る。
「だけど、クラスのやつら。今度は『そんな眼帯をつけて恥ずかしくないのか』って、またあたしをからかいやがった。
あたしは嫌になって、眼帯をゴミ箱に放り投げた。こんなのをつけたって意味がなかったんだ。
あたしは白斑をさらしたまま、しばらく学校に通い続けた。
クラスのやつらは、先生にこっぴどく叱られた。だが、やつらはあたしへのいじめを止めなかった」
「嫌な記憶だよ」ゴスはマイクから口を離し、独り言のように呟く。
メンバーたちはぴくりともせず、そのままゴスを見続けていた。
「放課後になると、あたしはいつも校庭の裏に連れられた。
そうして、胸ぐらを掴まれて、皆に押さえつけられて、マジックペンで目元をめちゃくちゃに塗り潰された。
皆は笑っていた。面白おかしそうに笑っていたんだ。
あたしは許せなかった。一体どうして、生まれつきのものをそんな風に扱われなくちゃならないんだって、むしょうに腹が立った。
ある日突然、細い糸がぷつりと切れた。あたしは皆を殴りつけて、これ以上ないほどに力を込めてやっつけた。
そうしたら、皆は腰を抜かして逃げていった。
あっけなく終わったよ。それからからかいは止んだ。だけど、何かがまた変わっちまった」
ゴスはマイクを握りしめ、鋭い目つきで私たちを睨んだ。
「誰もあたしをからかおうとはしなかった。だけど、代わりに白い目であたしを見るんだ。
『あいつは危ないやつだから、関わらないでおこうぜ』って。仕掛けたのはそっちだって言うのに。
誰も味方になっちゃくれなかったんだ」
メンバーたちは嘆く。何人かは、唇を噛み締め、じっと痛みに堪えているように見えた。
「あたしがどれだけ寂しい思いをしたか、わかるかい。わからないだろう。わかってもらっちゃ困るね。
だけど、これだけは言わせてくれ。あたしはあのことを今でも覚えている。きっと、二度と忘れないだろう。
マーカーの冷たい温度だって、あの鼻につくような臭いだって、全部覚えているさ。
あたしはあいつらを絶対に許さない。過ちは償えても、傷は癒えやしない。わかるね?」
メンバーたちは顔を上げ、ゴスを熱心な目で見つめていた。
ゴスはマイクを再び握り、話を続けた。
「あたしが一番嫌いなのは、『あの頃は仕方なかった』と言って、全てをないがしろにすることさ。
あたしはしぶとい人間だからね、そんなことを認めやしないんだよ。認めちゃいけないと思っている。
あたしが求めているのは反省じゃない。理解でもない。記憶の継承だ。
この記憶は、あたしの中でずっと残っている。
一度したことは弁解できない。そのままの形で背負っていくこと。それが本当の意味での償いなんだよ」
「だけど」ゴスはメンバーの一人一人に視線を向け、姿勢を伸ばした。
「傷を背負っているのは、あたしだけじゃないはずだ。誰もが傷を背負っている。
自分のプライドを傷つけられた記憶。馬鹿にされ、惨めな思いをした記憶。
あたしたちはその中で、日々もがいている。そのことを忘れちゃいけない。
あたしは自分のために、毎日JACKで闘っているんだ。
あたしは度胸のあるやつを歓迎する。JACKはこれからも、そんなやつらのためにあり続けるだろう。
……興味が湧いたかい?いつでもかかってきなよ。あたしは誰にでも容赦しないよ。誰であろうが、構いやしないからね」
ゴスがゆっくりと前を歩きながら、メンバーたちに話している。
「あたしの両親は、あたしの白斑を見て驚いたりしなかった。
『あんたは特別な子だよ』と言って、あたしの目元をそっと撫でてくれた。
あたしはこの模様に、何の思い入れもなかった。
周りもいつか、同じように目元が白くなるものだと思っていた。それくらいの認識だったのさ。
だけど、いつまで経っても皆の目元は白くならなかった。あたしだけが白いままで、いつになっても消えてはくれなかった」
ゴスがメンバーたちに目を逸らすことなく、真っ直ぐな目で見つめる。
メンバーたちはそれに答えるように、ゴスをじっと見返した。
「クラスのやつらは、あたしをからかった。
『お前だけ目元が白いのは、呪われているからだ』と言って、あたしを避けたり、あたしのカバンを隠したりした。
一番ひどかったのは、白斑に泥を塗られたことだ。
『こんな恥ずかしいものを周りに見せるな』と言って、クラスのやつらはあたしの顔に泥を塗ったんだ」
ゴスが歯ぎしりをし、何かに堪えるような顔をすした。
「あたしは悔しかった。親は白斑のことを『誇りだ』なんて言ったけれど、実際は誇りでも何でもなかった。落ちぶれ者のスティグマだったのさ。
それが嫌になって、あたしはある日から眼帯をつけるようになった。そうすれば、白斑が隠れてくれるだろう?」
ゴスはマイク越しに嘲笑う。私は真剣な顔で、ゴスを見る。
「だけど、クラスのやつら。今度は『そんな眼帯をつけて恥ずかしくないのか』って、またあたしをからかいやがった。
あたしは嫌になって、眼帯をゴミ箱に放り投げた。こんなのをつけたって意味がなかったんだ。
あたしは白斑をさらしたまま、しばらく学校に通い続けた。
クラスのやつらは、先生にこっぴどく叱られた。だが、やつらはあたしへのいじめを止めなかった」
「嫌な記憶だよ」ゴスはマイクから口を離し、独り言のように呟く。
メンバーたちはぴくりともせず、そのままゴスを見続けていた。
「放課後になると、あたしはいつも校庭の裏に連れられた。
そうして、胸ぐらを掴まれて、皆に押さえつけられて、マジックペンで目元をめちゃくちゃに塗り潰された。
皆は笑っていた。面白おかしそうに笑っていたんだ。
あたしは許せなかった。一体どうして、生まれつきのものをそんな風に扱われなくちゃならないんだって、むしょうに腹が立った。
ある日突然、細い糸がぷつりと切れた。あたしは皆を殴りつけて、これ以上ないほどに力を込めてやっつけた。
そうしたら、皆は腰を抜かして逃げていった。
あっけなく終わったよ。それからからかいは止んだ。だけど、何かがまた変わっちまった」
ゴスはマイクを握りしめ、鋭い目つきで私たちを睨んだ。
「誰もあたしをからかおうとはしなかった。だけど、代わりに白い目であたしを見るんだ。
『あいつは危ないやつだから、関わらないでおこうぜ』って。仕掛けたのはそっちだって言うのに。
誰も味方になっちゃくれなかったんだ」
メンバーたちは嘆く。何人かは、唇を噛み締め、じっと痛みに堪えているように見えた。
「あたしがどれだけ寂しい思いをしたか、わかるかい。わからないだろう。わかってもらっちゃ困るね。
だけど、これだけは言わせてくれ。あたしはあのことを今でも覚えている。きっと、二度と忘れないだろう。
マーカーの冷たい温度だって、あの鼻につくような臭いだって、全部覚えているさ。
あたしはあいつらを絶対に許さない。過ちは償えても、傷は癒えやしない。わかるね?」
メンバーたちは顔を上げ、ゴスを熱心な目で見つめていた。
ゴスはマイクを再び握り、話を続けた。
「あたしが一番嫌いなのは、『あの頃は仕方なかった』と言って、全てをないがしろにすることさ。
あたしはしぶとい人間だからね、そんなことを認めやしないんだよ。認めちゃいけないと思っている。
あたしが求めているのは反省じゃない。理解でもない。記憶の継承だ。
この記憶は、あたしの中でずっと残っている。
一度したことは弁解できない。そのままの形で背負っていくこと。それが本当の意味での償いなんだよ」
「だけど」ゴスはメンバーの一人一人に視線を向け、姿勢を伸ばした。
「傷を背負っているのは、あたしだけじゃないはずだ。誰もが傷を背負っている。
自分のプライドを傷つけられた記憶。馬鹿にされ、惨めな思いをした記憶。
あたしたちはその中で、日々もがいている。そのことを忘れちゃいけない。
あたしは自分のために、毎日JACKで闘っているんだ。
あたしは度胸のあるやつを歓迎する。JACKはこれからも、そんなやつらのためにあり続けるだろう。
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