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33. 伝播
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「しかし、彼らはなぜ話し合いではなく、暴力で訴えるのでしょうか?」
マックが悩ましげな顔を見せながら、カーライルに尋ねる。
NATESのメンバーたちは、2人の会話にじっと耳を澄ませ、番組に聞き入っている。
画面に映ったカーライルは、マックの問いにきっぱりとこう答えた。
「それについては、まだ謎が多いですね。
一部の研究者は、『若者は他の年齢よりも衝動的で、感情を抑制する術を身につけていないから』と分析していますが、私はこの説を疑問視しています。
というのも、感情を抑制しないことが、どのように若者の暴力につながるのかが明確にされていないためです。
そもそも、衝動性は前頭野の損傷やセロトニン不足によって高まるとされていますが、これが暴力的な若者の全員に当てはまっているかを検証するのはかなり難しい。
それに、暴力的な若者の全てが前頭野を損傷しているとも考え難いでしょう。
この問題については、もっと社会学的な観点から分析される必要があると思います」
「ですが、研究は発展途上なのが現状ですね」カーライルが残念そうな表情を見せる。
「彼らの暴力性については、まだまだ明らかにされていないということですね」マックは相手に同情するように頷く。
「根本的な原因まだ明らかにされていませんが、彼らの暴力がどのように広がっていくかについては、ある程度説明ができます」
カーライルはソファに座り直し、マックをじっと見た。
「まず、メディアは彼らの暴力性の伝播に大きく貢献していると考えられます。
暴行事件はテレビやSNSで報道され、一部の若者は繰り返し情報を目にすることで事件に慣れる。
ザイアンスの法則までとはいきませんが、NATEについてのニュースを繰り返し見ることには、それと似た効果があります。
事件に慣れた若者は、危機感が薄れ、暴力に対して寛容になっていく。
そうして、いざ意見の合わない他者と巡り合わせた時、彼らはインプットした情報を使い、他者に暴力を加えるようになる。
さらに、若者はインターネットに慣れ親しんでいるので、情報共有の速度も早いです。
暴行事件も加え、インターネットやテレビでNATEについて話題になっていれば、仲間内であっという間に情報が伝わってしまうでしょう」
「メディアが若者の暴力を広げている。それがあなたの見解なんですね」マックが要点をまとめながら、カーライルの意見を確かめる。
「インターネットと若者の親和性も高いですから。この説は十分あり得るでしょうね」カーライルは水を飲んでから、静かに返した。
画面が切り替わり、コマーシャルが流れる。
NATESの会場内はざわつき、あちこちで意見を交わす声が響いている。
「カーライルの意見についてどう思う?」
「でたらめではない。だが、どうも話が大きすぎる気がするな」
「ああも若者だと一括りにされたくはないね」
「同意見だ」レオがメンバーの話に入った。
「カーライルは、インターネット上では意見が二極化していると言っていた。だが、俺たちNATESは人の数だけNATEがあることを知っている。
俺たちの目的は、暴行事件のように反対者を排除することじゃない。議論を進めることで、新たな発見をすることだ。
NATESは純粋な創造活動を目指している。俺たちは、カーライルの言う若者とは違うはずだ」
レオがメンバーの一人一人の顔を確かめるようにして、ラウンドテーブルを見渡す。
メンバーたちはこくりと頷き、レオと視線を合わせた。
目に見えない絆が、メンバー同士を繋げていく。私はその様子を観察しながら、レオの言葉を聞き届けた。
「何があっても、暴力では訴えない。それがNATESの鉄則だ」
マックが悩ましげな顔を見せながら、カーライルに尋ねる。
NATESのメンバーたちは、2人の会話にじっと耳を澄ませ、番組に聞き入っている。
画面に映ったカーライルは、マックの問いにきっぱりとこう答えた。
「それについては、まだ謎が多いですね。
一部の研究者は、『若者は他の年齢よりも衝動的で、感情を抑制する術を身につけていないから』と分析していますが、私はこの説を疑問視しています。
というのも、感情を抑制しないことが、どのように若者の暴力につながるのかが明確にされていないためです。
そもそも、衝動性は前頭野の損傷やセロトニン不足によって高まるとされていますが、これが暴力的な若者の全員に当てはまっているかを検証するのはかなり難しい。
それに、暴力的な若者の全てが前頭野を損傷しているとも考え難いでしょう。
この問題については、もっと社会学的な観点から分析される必要があると思います」
「ですが、研究は発展途上なのが現状ですね」カーライルが残念そうな表情を見せる。
「彼らの暴力性については、まだまだ明らかにされていないということですね」マックは相手に同情するように頷く。
「根本的な原因まだ明らかにされていませんが、彼らの暴力がどのように広がっていくかについては、ある程度説明ができます」
カーライルはソファに座り直し、マックをじっと見た。
「まず、メディアは彼らの暴力性の伝播に大きく貢献していると考えられます。
暴行事件はテレビやSNSで報道され、一部の若者は繰り返し情報を目にすることで事件に慣れる。
ザイアンスの法則までとはいきませんが、NATEについてのニュースを繰り返し見ることには、それと似た効果があります。
事件に慣れた若者は、危機感が薄れ、暴力に対して寛容になっていく。
そうして、いざ意見の合わない他者と巡り合わせた時、彼らはインプットした情報を使い、他者に暴力を加えるようになる。
さらに、若者はインターネットに慣れ親しんでいるので、情報共有の速度も早いです。
暴行事件も加え、インターネットやテレビでNATEについて話題になっていれば、仲間内であっという間に情報が伝わってしまうでしょう」
「メディアが若者の暴力を広げている。それがあなたの見解なんですね」マックが要点をまとめながら、カーライルの意見を確かめる。
「インターネットと若者の親和性も高いですから。この説は十分あり得るでしょうね」カーライルは水を飲んでから、静かに返した。
画面が切り替わり、コマーシャルが流れる。
NATESの会場内はざわつき、あちこちで意見を交わす声が響いている。
「カーライルの意見についてどう思う?」
「でたらめではない。だが、どうも話が大きすぎる気がするな」
「ああも若者だと一括りにされたくはないね」
「同意見だ」レオがメンバーの話に入った。
「カーライルは、インターネット上では意見が二極化していると言っていた。だが、俺たちNATESは人の数だけNATEがあることを知っている。
俺たちの目的は、暴行事件のように反対者を排除することじゃない。議論を進めることで、新たな発見をすることだ。
NATESは純粋な創造活動を目指している。俺たちは、カーライルの言う若者とは違うはずだ」
レオがメンバーの一人一人の顔を確かめるようにして、ラウンドテーブルを見渡す。
メンバーたちはこくりと頷き、レオと視線を合わせた。
目に見えない絆が、メンバー同士を繋げていく。私はその様子を観察しながら、レオの言葉を聞き届けた。
「何があっても、暴力では訴えない。それがNATESの鉄則だ」
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