NATE

九時木

文字の大きさ
上 下
30 / 72

30. レオ

しおりを挟む
 10月10日、午後21時。私はウィルの家で仕事を済ませた後、いつものようにXビルの階段を上り、2階の会場に到着していた。
 NATESは相変わらず超満員で、部屋は祭りのように賑わっていた。


 「やあ、エマ」レオが顔を出し、席から挨拶する。

 「一昨日ぶりですね」私はレオのもとへ歩み寄り、隣の席に座った。

 「メンバーが増えたようですが」

 「テーブルの数を増やしたんだ」レオが机に手を置きながら、私に言う。

 「君の言う通り、最近はメンバーが急増していてね。部屋がずいぶん狭く感じられるよ」

 レオは部屋をぐるりと見渡しながら、短く笑った。

 「そろそろ拠点も増やした方がいいだろうな」

 「拠点?」

 「ああ。ここだけじゃあ、明らかにスペースが足りないだろう?だから、別のビルも借りる必要がある」

 レオが机の上の書類をかき集め、一枚一枚に目を通しながら言った。

 「まあ、ここが栄えるのは良いことなんだがな」

 司会進行係の一人が、「時間です」と合図をする。
 レオが椅子に座り直し、背筋をまっすぐに伸ばす。

 「今日は議論係なんですか?」

 「そうだな。俺のお気に入りのポジションだ」

 レオは自信ありげに答える。
 私は彼が机の上で手を組み、相手の話にじっと耳を澄ましている様子を眺めていた。


 議論は着々と進んだ。
 レオはいたって冷静に相手の意見を分析し、的確な反論を述べていた。
 時間はあっという間に過ぎ去り、気がつけば23時を回っていた。

 議論終了後、人々が帰る支度をしている中、レオが私に申し訳なさそうに話した。

 「そういえば、JACKについて君に謝らなくちゃならないな。一昨日は、うちのゴスが強引なことをして悪かったよ」

 「構いません」私はレオを見返しながら、答える。

 「討論には様々な形があることを知れましたから」

 「JACKは過激だっただろう」レオが苦笑する。

 「俺は武力で訴えるのは苦手だね。問題解決をするなら、やっぱり話し合いが一番だ」

 「話し合いが一番ですか」私は昨日のウィルの話を思い出しながら、その言葉を繰り返す。

 「痛い目に遭うのは事実だからな」レオは物憂げな表情をし、その場で腕を組む。

 「JACKは、ゴスとあなたの口論から着想を得たものだと聞きましたよ」

 「ゴスから聞いたのかい」レオは表情を少し崩し、短く笑う。
 
 「ゴスと俺は、なかなか噛み合わなくてね。
 あいつは喧嘩っ早いんだが、俺はそうじゃなかったもんだから、ずいぶん揉めたよ」

 「今でもそうさ」レオはいかにもその通りというように、深く頷いてみせた。

 「だけど、あいつには感謝もしているんだ。俺を助けてくれたのはあいつだからな」

 「ゴスがあなたを?」私は確かめるように、レオをじっと見つめる。
 レオは長く息を吐いた後、ゆっくりと話を始めた。

 「俺が路地裏で上司に一発食らっている時に、あいつが上司を止めてくれたんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

宇宙への飛行、落下物としての思惟

九時木
現代文学
物語を描き進めるための実験的書物

大学寮の偽夫婦~住居のために偽装結婚はじめました~

石田空
現代文学
かつては最年少大賞受賞、コミカライズ、アニメ化まで決めた人気作家「だった」黒林亮太は、デビュー作が終了してからというもの、次の企画が全く通らず、デビュー作の印税だけでカツカツの生活のままどうにか食いつないでいた。 さらに区画整理に巻き込まれて、このままだと職なし住所なしにまで転がっていってしまう危機のさなかで偶然見つけた、大学寮の管理人の仕事。三食住居付きの夢のような仕事だが、条件は「夫婦住み込み」の文字。 困り果てていたところで、面接に行きたい白羽素子もまた、リストラに住居なしの危機に陥って困り果てていた。 利害が一致したふたりは、結婚して大学寮の管理人としてリスタートをはじめるのだった。 しかし初めての男女同棲に、個性的な寮生たちに、舞い込んでくるトラブル。 この状況で亮太は新作を書くことができるのか。そして素子との偽装結婚の行方は。

欲望

♚ゆめのん♚
現代文学
主人公、橘 凛(たちばな りん)【21歳】は祖父母が営んでいる新宿・歌舞伎町の喫茶店勤務。 両親を大学受験の合否発表の日に何者かに殺されて以来、犯人を、探し続けている。 そこに常連イケおじホストの大我が刺されたという話が舞い込んでくる。 両親の事件と似た状況だった。 新宿を舞台にした欲望にまみれた愛とサスペンス物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

六華 snow crystal 5

なごみ
現代文学
雪の街、札幌を舞台にした医療系純愛小説。part 5 沖縄で娘を産んだ有紀が札幌に戻ってきた。娘の名前は美冬。 雪のかけらみたいに綺麗な子。 修二さんにひと目でいいから見せてあげたいな。だけどそれは、許されないことだよね。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

芙蓉の宴

蒲公英
現代文学
たくさんの事情を抱えて、人は生きていく。芙蓉の花が咲くのは一度ではなく、猛暑の夏も冷夏も、花の様子は違ってもやはり花開くのだ。 正しいとは言えない状況で出逢った男と女の、足掻きながら寄り添おうとするお話。 表紙絵はどらりぬ様からいただきました。

処理中です...