NATE

九時木

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30. レオ

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 10月10日、午後21時。私はウィルの家で仕事を済ませた後、いつものようにXビルの階段を上り、2階の会場に到着していた。
 NATESは相変わらず超満員で、部屋は祭りのように賑わっていた。


 「やあ、エマ」レオが顔を出し、席から挨拶する。

 「一昨日ぶりですね」私はレオのもとへ歩み寄り、隣の席に座った。

 「メンバーが増えたようですが」

 「テーブルの数を増やしたんだ」レオが机に手を置きながら、私に言う。

 「君の言う通り、最近はメンバーが急増していてね。部屋がずいぶん狭く感じられるよ」

 レオは部屋をぐるりと見渡しながら、短く笑った。

 「そろそろ拠点も増やした方がいいだろうな」

 「拠点?」

 「ああ。ここだけじゃあ、明らかにスペースが足りないだろう?だから、別のビルも借りる必要がある」

 レオが机の上の書類をかき集め、一枚一枚に目を通しながら言った。

 「まあ、ここが栄えるのは良いことなんだがな」

 司会進行係の一人が、「時間です」と合図をする。
 レオが椅子に座り直し、背筋をまっすぐに伸ばす。

 「今日は議論係なんですか?」

 「そうだな。俺のお気に入りのポジションだ」

 レオは自信ありげに答える。
 私は彼が机の上で手を組み、相手の話にじっと耳を澄ましている様子を眺めていた。


 議論は着々と進んだ。
 レオはいたって冷静に相手の意見を分析し、的確な反論を述べていた。
 時間はあっという間に過ぎ去り、気がつけば23時を回っていた。

 議論終了後、人々が帰る支度をしている中、レオが私に申し訳なさそうに話した。

 「そういえば、JACKについて君に謝らなくちゃならないな。一昨日は、うちのゴスが強引なことをして悪かったよ」

 「構いません」私はレオを見返しながら、答える。

 「討論には様々な形があることを知れましたから」

 「JACKは過激だっただろう」レオが苦笑する。

 「俺は武力で訴えるのは苦手だね。問題解決をするなら、やっぱり話し合いが一番だ」

 「話し合いが一番ですか」私は昨日のウィルの話を思い出しながら、その言葉を繰り返す。

 「痛い目に遭うのは事実だからな」レオは物憂げな表情をし、その場で腕を組む。

 「JACKは、ゴスとあなたの口論から着想を得たものだと聞きましたよ」

 「ゴスから聞いたのかい」レオは表情を少し崩し、短く笑う。
 
 「ゴスと俺は、なかなか噛み合わなくてね。
 あいつは喧嘩っ早いんだが、俺はそうじゃなかったもんだから、ずいぶん揉めたよ」

 「今でもそうさ」レオはいかにもその通りというように、深く頷いてみせた。

 「だけど、あいつには感謝もしているんだ。俺を助けてくれたのはあいつだからな」

 「ゴスがあなたを?」私は確かめるように、レオをじっと見つめる。
 レオは長く息を吐いた後、ゆっくりと話を始めた。

 「俺が路地裏で上司に一発食らっている時に、あいつが上司を止めてくれたんだ」
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