NATE

九時木

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26. N・クラブ

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 ダンと色白男の試合終了後、挑戦者が次々と現れ、戦いが続いた。
 ゴスと私は試合を観戦し、男女問わず顔にアザができるのを見届けていた。


 ふと、誰かが私の肩に手を置く。振り返ると、そこにはダンがいた。

 「来ていたんだな、エマ」ダンがジャケットを羽織りながら、私に話しかける。

 「この子はあたしが連れてきたんだよ」ゴスが私の背を軽く叩き、ダンに説明する。

 「NATESの中で、あたしと目を合わせたのはこの子だけだった。
 この子には度胸があるよ。だから、戦わせてもいいだろう?」

 ゴスの言葉に、私はぎょっとする。
 血なまぐさい格闘技に、私も参加することになるだろうか?

 鼓動が速まるのを感じ取る。そんな私の動揺を察したのか、ダンが代わりに言った。

 「見るだけで充分さ」

 彼はゴスと私の肩に腕を乗せ、間に入った。

 「バーに行こうぜ。今夜は飲みたい気分だ」

 「いつものN・クラブかい」ゴスがダンを見上げる。

 「ジンのソーダ割りを飲むのさ」ダンが私たちを出口まで導き、ドアを閉める。

 「あたしは泡いっぱいのビールが飲みたいね」ゴスの指をパチンと鳴らす音が、階段に響き渡る。

 「新人祝いだ。あんたも来るんだよ。さあ、どんな酒が飲みたい?」

 ゴスに尋ねられた私は、少しまごつきながら答えた。

 「えっと、カクテルですかね……」


 私たち3人は、N・クラブと呼ばれる場所で酒を飲んでいた。
 カウンター席に並び、雑談を交わす。カクテルに口をつけていると、ゴスが私の方へ振り向き、手を差し出した。

 「紹介が遅れたね。あたしはゴス。あんたはエマだね」

 「はい」私はゴスと握手をした後、ふと気になったことを尋ねた。

 「あの、お二人はどういった関係で?」

 「数年来のダチだ」ダンがグラスを手にしながら、私に説明する。

 「NATESとJACKを立てる前、俺たちはここのバーで出会った。レオも同じ場所で知り合ったんだ。

 俺はザイオンと、ゴスはレオと2人でここに来ていた。
 それで、4人で話しているうちにウマが合ったってわけだ」

 「ちなみに、JACKはダンが考え出したものなんだよ」ゴスがビールを煽り、口元を拭う。

 「あたしとレオが言い合いになって、さらに掴み合いになったのを見てね。『こいつはいいやり取りだ』って思ったのさ。そうだろう?ダン」

 「きっかけを作ったのはお前らさ。ダチ様様だよ」ダンが笑いながら、ジンをくいと飲む。

 「皆はあんたを信頼している。『俺たちに居場所を与えてくれた』って。だから、全部あんたのおかげなんだよ」

 ゴスがダンの背を叩きながら言う。
 
 「まあ、悪い気はしないな」

 ダンはにやりと笑い、ゴスのグラスに自分のグラスを打ちつけた。


 「ところで、あんたはこれからどうするつもりだい?」ゴスが私の方へ振り向き、尋ねる。

 「JACKに参加するのなら、あたしは本気で歓迎するよ」

 「格闘技はあまり得意ではなくて……」私はできるだけ丁寧に断るように心がける。

 「エマは頭脳派なんだ。きっと、レオが喜ぶぜ」

 「あいつにだけは取られたくないね」ゴスがダンの言葉に反応し、いかにも憎らしそうに言う。

 「まあ、エマの好きにするといいさ」ダンがくるくるとグラスを回す。


 私たちの雑談は延々と続いた。気がつけば、時計は23時を回っており、外は真っ暗になっていた。

 「N・ストリートは人気ひとけがないね」3人の足音が響く中、ゴスが静かに話す。

 「南の方は賑やかなんだがな」ダンがポケットに手を突っ込み、白い息を吐く。

 私は2人の会話を聞きながら、角を曲がった所で別れを告げた。

 「今日はありがとうございます。では、私はこの辺りに家があるので……」

 「くれぐれも夜道には気をつけるんだよ」ゴスが念を押す。

 「特に、筋肉質の姉ちゃんには気をつけろよ」冗談めかしたダンが、ゴスに小突かれる。

 2人は笑いながら、去っていった。私はほろ酔い気分で、体が温まるのを感じながら、一人帰路についた。
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