NATE

18. 夜道

　「私はいつでもOKだから。エマの予定に合わせるわ」

　「ありがとう」私はリンダの温かい視線を受け、そっと微笑する。

　「また会いましょうね」暗くなった夜道で、私たちは別れ、それぞれの帰路についた。


　午後21時30分。W・ストリートはすっかり静まり返り、ただ街灯が立ち並んでいるばかりだった。
　リンダと私は、夜遅くまで会話を楽しんだ。ウィンドショップを楽しみながら、それぞれの仕事や趣味についてたっぷり話した。

　疲れきった足を引きずるようにして、私は帰り道を歩く。10月の夜は少し肌寒く、吐息もほんのりと白く染められている。

　私は今日の出来事について振り返りながら、ゆっくりと足を動かした。


　「私はNATEを信じるわ」

　ふと昼間のカフェテラスで聞いた、リンダの言葉を思い出す。
　どうやら、リンダはNATEをパワーストーン的な意味合いで解釈しているようだ。
　
　仕事での挫折を救ってくれた体験もあるのだろう。
　NATEについて話す時のリンダは、目を星のように輝かせ、まるでそれに超人的な力が備わっているかのような期待ぶりだった。

　リンダは研究者の見解について、どう思うのだろう。
　NATEについて、研究者は科学的根拠がないものとして真っ向から否定しているが、果たして個人的体験を持ったリンダにその意見は通用するのだろうか。

　「NATEのコートにニット帽。必要なものは全て予約しておいたわ。これからもグッズを集めなくちゃね」

　リンダは一度信じれば、とことん信じ込むタイプだ。だからきっと、周りがNATEを否定しても、すぐにNATEを疑問視することはないだろう。


　一方では否定され、もう一方では深く信じ込まれるNATE。
　誰かには見えないものでありながら、誰かには見えるもの。
　人によって姿を変える存在。人の数だけNATEがあるという事実。

　私は大きくため息をつき、夜空を見上げた。
　秋の澄んだ空には、所々で星が光っている。しかし、その並び方に法則はない。

　ランダムに光る星。私は一つの星に目を留めるということもなく、ただぼんやりと黒い隙間を眺める。

　白い吐息が上昇し、霧のように散っていく。
　吐息は曖昧に揺れ、私の心をますます心細くさせる。

　私はポケットに手を突っ込み、悩みをかき消すようにして明日の予定について考えを巡らせた。
　10月8日。明日は午前にウィルの家で仕事がある。夜にはXビルで、討論を聞きに行く予定だ。

　時間が経つにつれ、夜の冷たさは増す。寒さに体を震わせ、ふと温かい部屋とホットミルクが恋しくなる。

　私は身を固めながら、急ぎ足で夜道を歩いた。