NATE

九時木

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17. パワー

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 「私、NATEのハンカチを買ったわ」

 リンダが両手でハンカチを伸ばし、旗のように振る。その端に刺繍された小さなロゴに、私は目を細めた。


 「どこで買ったの?」

 「Bショップのオンラインサイトよ。今朝、ニュースで流れていたでしょう」

 リンダはハンカチを広げたまま置き、スマートフォンを手に取る。
 画面をスクロールし、私にオンラインサイトを見せる。サイトのホームページには、色違いのハンカチが載せられていた。

 「ずいぶん熱心なんだね」

 「もちろんよ」リンダが目をきりっとさせながら、声を張る。

 「ネットでは、NATEが実在しないってよく言われているけれど、私は信じるわ」

 「どうして?」私はリンダの言葉に刺激され、少し前のめりになって話を伺う。

 「NATEにはパワーがあるのよ」リンダが抑揚をつけ、説得するような調子で続ける。

 「正直、私は前の仕事で上手くいってなかったの。
 ファッションは好きだったけれど、お客さんの好みをなかなか当てられなくて。
 たくさん服を勧めたけれど、厄介払いされることが多かったわ。

 レジでもミスが頻発して、かなり落ち込んでた。だけど、NATEがそれを変えてくれたわ」

 リンダが語気を強めて、私に言う。

 「仕事でミスをした時、このハンカチで何度も涙を拭いたの。そうしたら、自然とパワーがみなぎって、何でも出来るような気がしてきた。

 本当に効果があって、驚いたわ。
 NATEは夜な夜な泣きじゃくる私に、『仕事を変えた方がいい』って、助言してくれたの。そのおかげで、私は今天職に就けている。ありがたいことだわ」

 リンダはハンカチに見とれながら、いかにも感慨深そうな口ぶりで話をする。
 流れるようなリンダの言葉に、私はあっけらかんとした。


 「NATEはどこで知ったの?」

 「SNSにトレンド入りしていたから、ちょっと確かめてみたわ。
 『NATEには運気を上げる効果がある』って書いてあったから、急いでハンカチを買ったのよ」

 どうやら、NATEにはスピリチュアルにも影響をもたらしているらしい。
 私は眉をひそめ、リンダの幸せそうな顔をじっと見た。


 昔から、リンダは流行りに乗るのが好きだった。
 高校時代にも、流行語を使ったり、トレンドファッションを着こなして、よく周囲の目を引きつけていた。

 さらに、当時人気だったシンガーソングライターを追いかけたり、普段手をつけないであろう読み物も流行りのものならすぐさま飛びついた。

 リンダはそんな性格をしていた。それを思えば、彼女がNATEに熱を入れるのも何ら不自然なことではなかった。


 「NATEのコートにニット帽。必要なものは全て予約しておいたわ」

 「これからもグッズを集めなくちゃね」リンダが張り切った様子でサイトの画面を見る。

 とてもはったりとは言えなかった。私もまた、昨晩NATESに参加したばかりなのだ。

 「エマも何か買う?良ければ、私が紹介するわよ」

 リンダが良心的な視線を私に向ける。私はできるだけ表情を抑えながら、そっと告げた。

 「貯金しているんだ。今は控えておくよ」
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