NATE

九時木

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16. リンダ

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 正午になり、私はW公園に無事到着した。
 リンダはこちらに気がつくと、元気よく手を振り、満面の笑みを浮かべた。

 「久しぶりね、エマ!」

 リンダは巻いたロングヘアを揺らしながら、私に抱きついた。
 ふわりとフローラルの香りが漂い、私は笑みをこぼす。「久しぶりだね」と、そっとリンダの腕を支え、相手を見つめた。

 澄んだブラウンアイに、雪のように透き通った肌。リンダは以前にも増して美しくなっていた。

 「綺麗になったね」と私が言うと、彼女は照れくさそうに私の背を叩いた。

 「ショートヘアに、黒のカーディガン。いつものエマで安心したわ」

 リンダはにっこりと幸せそうに微笑む。ちらと時計に目をやりながら、お腹を押さえる。

 「お腹が空いたわ。早速どこかへ食べに行きましょう」

 リンダは私の背を軽く押し、一緒に歩くように促した。
 私たちは公園を去り、近場でレストランを探した。


 リンダは私の一番の友人だ。
 私たちは高校で出会い、いつもそばにいた。

 リンダは勉強が苦手な女子高生だった。私はいつも彼女にノートを見せ、勉強を教えていた。


 「あなたのノートって、教科書みたいに正確ね。文字も綺麗だし、誤字や脱字も一切見当たらない」


 私が校正の仕事を目指したのは、リンダの言葉がきっかけだった。
 リンダは私の特技を見抜くのが上手かった。さらに人と関わるのが好きで、リンダには友人が大勢いた。

 私はどちらかと言うと引っ込み思案な性格で、友人も少ない方だった。
 リンダと私は正反対だったが、すぐに打ち解けた。お互い様の不足を補い合うように、リンダは私に友人を紹介し、私はリンダに勉強を教えた。

 高校以来別れてしまったが、リンダとは今でも連絡を取っている。


 「こうして顔を合わせるのは、高校卒業以来ね」

 リンダがアイスコーヒーをストローで吸いながら、私に何気なく話しかける。
 私たちはカフェのテラス席に座り、外を眺めながら話していた。

 「予定が合って良かったね」

 「本当よ。ほら、あなたって忙しいでしょう。連絡を取るのも結構大変なんだから」

 「ところで、仕事は上手くいってるの?」リンダが氷をかき回しながら、私に尋ねる。

 「何とかね。担当の作家が苦戦しているみたいで。最近は、その人と話していることが多いよ」

 「リンダはどう?」私は相手に視線を送り、返事を待った。
 リンダはカラカラと氷の音を立てながら、私に話した。

 「この前、アパレルの仕事に就職したって言ったでしょう。でも、それは辞めたの。
 今はカフェで働いているわ。やっぱりこっちの方が肌に合っているみたいで」

 「そうなんだ」私はリンダの長いまつ毛を見ながら、相槌を打つ。

 「ご飯を美味しそうに頬張るお客さんを見てると、こっちまで嬉しくなるのよ」
 
 「それに、挽きたてのコーヒーもまかないで飲めるし」リンダがいたずらっぽい顔をする。

 「とにかく、元気そうで良かったよ」私はカフェオレを口にしながら、リンダをそっと眺めた。

 「私はいつも元気なんだから」リンダは手を軽く払い、冗談めかして笑った。

 
 話に耽っていると、パトカーがテラスの前を突っ走った。
 けたたましい音が、右から左へと流れていく。その疾走ぶりを眺めていると、リンダが頬杖をつきながら呟いた。

 「最近、何だか街が物騒ね」

 「やっぱりNATEの影響かな」私はキッシュをつまみながら、リンダに言う。

 「エマもNATEを知っているの?」

 「ニュースでよく見かけるから。今朝もグッズが完売したとか言って……」

 私がその言葉を言い終える前に、リンダが鞄からハンカチを取り出す。
 彼女は目の前でハンカチを広げ、そのロゴをひらひらと見せた。

 「NATEのハンカチ。私、つい買っちゃった」
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