NATE

九時木

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10. NATES

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 「これが、今流行りのウェブサイトだ」

 ダンが私にパソコンを向け、説明する。
 私は画面を覗き込み、『NATES(ネイツ)』と書かれたホームページを目にする。

 「このサイトは一体?」

 「エマは、NATEについて知っているか?」ダンがコーヒーカップを手にしながら、私に尋ねる。

 「『実体のない存在、目視できない存在』ですよね」

 「そう。NATESは、そんな謎に満ちた存在について語る会だ。
 NATESは会員制で、主に討論を活動内容としている。ラウンドテーブルを囲って、ひたすらNATEについて話し合うわけだ」

 「ここにアーカイブがあるだろう」ダンが指でタッチパッドに触れ、カーソルを操作する。


 『10月1日 火曜日: NATE~株の大暴落をもたらした謎の組織~』

 『10月3日 木曜日: NATEとエジプトピラミッドの関係~古代文明を支配した影の王~』

 『10月5日 土曜日: NATEとエンドルフィン~有酸素運動以上の効果を持つその正体とは?~』


 「こんなものがあるのですね」

 サイトには、様々な討論内容が記録されていた。
 私はリスト化されたアーカイブを、興味深げに眺める。

 「NATEについて知りたがる人は大勢いる。それが人なのか物なのか。実在しているのか、架空の存在なのか」

 「未知をはらんだものは、の興味を掻き立てる」ダンの何気ない言葉に、私は咄嗟に反応する。

 「、ということは?」

 「俺もNATESのメンバーだ」

 ダンがコーヒーカップを置き、にやりと笑う。


 「曜日は、毎週火、木、土、日。
 討論は午後21時から23時まで、N・ストリートのXビル2階で開催される」

 「興味があるか?」ダンが意向を確かめるようにして、私の目をじっと見つめる。

 「ええ、気になります」私はダンを見返し、参加の意思があることを伝える。

 「いいぜ、来てみろよ。きっと面白いものが見れる」

 ダンが人差し指を立て、説明を付け足す。

 「ただし、他言無用だ。本来、参加はメンバー限定だからな」

 「私が参加をしても良いのでしょうか?」

 「今回は特別さ」


 壁掛けの時計が午後5時を指し、人々が次々と入れ替わる。
 ダンがノートパソコンをぱたりと閉じ、黒の鞄にしまった。

 「時間になっちまったな。悪いが、俺はこれからダチと会う予定があるんだ」

 彼は残りのコーヒーを一気に飲み、席から立ち上がった。

 ダンがソーサーを片手で持ち、返却口へ向かう。
 私は席に座ったまま、彼が食器を片付けるのを見届ける。

 ダンが振り向き、声を張って私に言った。

 「今夜、21時にXビル前で落ち合おうぜ」

 突如現れた、謎の人物。しかし何処か目の離せない、人を惹きつけるようなオーラを放った男。
 ダンがひらひらと手を振り、店を出る。私はその背を眺めながら、彼についてしばらく考えていた。
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