6 / 72
6. 若者
しおりを挟む
ウィルが目をつむり、リクライニングチェアで寝息を立てている。
取り残された私は、テレビをつけ、チャンネル8を視聴した。
チャンネル8では、今朝のニュースについての解説がされていた。
私は木製の椅子に座り、日記を開けながら、画面を見た。
「昨晩、NATEに関する口論が事件となりましたが、これについてどう思いますか?」
番組の女性司会者が、男性コメンテーターに尋ねる。コメンテーターは眼鏡を整え、少し前のめりになった。
「今回の事件では、加害者は18歳の青年、被害者は30歳の会社員でした。
口論は、NATEについての意見が分かれたことで起こったようですが、これには若者特有の理由があります。
まず、NATEは研究者の間では否定されていますが、若者には大きな影響を与えています。
実際に、年代ごとの調査では、NATEを信じる者は15~24歳の若者が最も多いことがわかっています」
コメンテーターは水を飲み、一休みする。司会者は続きをじっと待つ。
スタジオに少しばかりの沈黙が訪れた後、コメンテーターが話を再開した。
「若者は、真偽の定かでない情報に関心を抱き、好奇心を共有する。『知っている』という感覚を得ることで、仲間意識を高め、絆を確かめ合う。
ですが、それがエスカレートすると、感情を制御できなくなってしまう。そうして、『自分こそ正しい』という自己正当化に陥り、相手を攻撃するようになる。
特に、NATEを信じる若者にとって、自身の信念を否定されることは、自己否定だけでなく、仲間の否定にもなり得ます。
今回の事件では、加害者の友人も複数名いたようですから、NATEを否定されたことで『仲間を傷つけられた』という意識が強まったのでしょう」
コメンテーターが再び水を飲み、乾いた喉を潤す。
私はコメントに耳を傾けながら、日記に内容を書き留める。
しばらくテレビを視聴していると、ウィルが目を覚まし、ゆっくりと起き上がった。
「すみません。起こしてしまいました」
私は急いでテレビの音量を下げ、ウィルに謝る。
彼は「いいんだよ」と言い、私の向かいの椅子に座った。
「最近この手の事件が多いね」
ウィルが頬杖をつきながら、私に話しかける。
私はペンを手にしたまま、相手をじっと見た。
起きたてのせいか、ウィルはぼんやりとテレビを眺めていた。私はペンを握り、昨晩から気にかけていたことを尋ねた。
「NATEについて、どう思いますか?」
ウィルがその言葉に反応し、私をちらと見る。
私は彼を見返し、返答を待つ。
「そうだな」ウィルは右上を見ながら、何かを思い出すようにして私に語った。
「NATEは、僕が10代の頃に流行ったんだ。
とある秘密結社と関係があるとか、直視すると記憶喪失になるとか、そういった噂が広まってね。
その後は徐々に自然消滅したけれど、最近また話題になりつつあるようだね」
「昔は信じ難い内容ばかりだったけれど」ウィルは私に視線を戻し、真剣な顔つきで言った。
「最近のNATEは、より現実味を帯びているように感じるよ」
「あなたは、NATEを信じますか?」私はウィルの目の奥を見ながら、その質問を投げかけた。
「どうかな」
ウィルは私に確かめるような眼差しを向ける。
私は答えが気になったが、彼はただにこりと微笑むだけだった。
「君はNATEに興味があるのかい?」ウィルは頬杖をついたまま、私に問い返す。
私は少し考え、日記に目を落としながら言った。
「そうですね。やはり、あれだけ人々の関心を集めていますから」
取り残された私は、テレビをつけ、チャンネル8を視聴した。
チャンネル8では、今朝のニュースについての解説がされていた。
私は木製の椅子に座り、日記を開けながら、画面を見た。
「昨晩、NATEに関する口論が事件となりましたが、これについてどう思いますか?」
番組の女性司会者が、男性コメンテーターに尋ねる。コメンテーターは眼鏡を整え、少し前のめりになった。
「今回の事件では、加害者は18歳の青年、被害者は30歳の会社員でした。
口論は、NATEについての意見が分かれたことで起こったようですが、これには若者特有の理由があります。
まず、NATEは研究者の間では否定されていますが、若者には大きな影響を与えています。
実際に、年代ごとの調査では、NATEを信じる者は15~24歳の若者が最も多いことがわかっています」
コメンテーターは水を飲み、一休みする。司会者は続きをじっと待つ。
スタジオに少しばかりの沈黙が訪れた後、コメンテーターが話を再開した。
「若者は、真偽の定かでない情報に関心を抱き、好奇心を共有する。『知っている』という感覚を得ることで、仲間意識を高め、絆を確かめ合う。
ですが、それがエスカレートすると、感情を制御できなくなってしまう。そうして、『自分こそ正しい』という自己正当化に陥り、相手を攻撃するようになる。
特に、NATEを信じる若者にとって、自身の信念を否定されることは、自己否定だけでなく、仲間の否定にもなり得ます。
今回の事件では、加害者の友人も複数名いたようですから、NATEを否定されたことで『仲間を傷つけられた』という意識が強まったのでしょう」
コメンテーターが再び水を飲み、乾いた喉を潤す。
私はコメントに耳を傾けながら、日記に内容を書き留める。
しばらくテレビを視聴していると、ウィルが目を覚まし、ゆっくりと起き上がった。
「すみません。起こしてしまいました」
私は急いでテレビの音量を下げ、ウィルに謝る。
彼は「いいんだよ」と言い、私の向かいの椅子に座った。
「最近この手の事件が多いね」
ウィルが頬杖をつきながら、私に話しかける。
私はペンを手にしたまま、相手をじっと見た。
起きたてのせいか、ウィルはぼんやりとテレビを眺めていた。私はペンを握り、昨晩から気にかけていたことを尋ねた。
「NATEについて、どう思いますか?」
ウィルがその言葉に反応し、私をちらと見る。
私は彼を見返し、返答を待つ。
「そうだな」ウィルは右上を見ながら、何かを思い出すようにして私に語った。
「NATEは、僕が10代の頃に流行ったんだ。
とある秘密結社と関係があるとか、直視すると記憶喪失になるとか、そういった噂が広まってね。
その後は徐々に自然消滅したけれど、最近また話題になりつつあるようだね」
「昔は信じ難い内容ばかりだったけれど」ウィルは私に視線を戻し、真剣な顔つきで言った。
「最近のNATEは、より現実味を帯びているように感じるよ」
「あなたは、NATEを信じますか?」私はウィルの目の奥を見ながら、その質問を投げかけた。
「どうかな」
ウィルは私に確かめるような眼差しを向ける。
私は答えが気になったが、彼はただにこりと微笑むだけだった。
「君はNATEに興味があるのかい?」ウィルは頬杖をついたまま、私に問い返す。
私は少し考え、日記に目を落としながら言った。
「そうですね。やはり、あれだけ人々の関心を集めていますから」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
生きてたまるか
黒白さん
現代文学
20××年4月×日、人類は消え、世界は終わった。
滅びのその日に、東京の真ん中で、ただひとり生き残っていた僕がしたことは、デパートで高級食材を漁り、食べ続けただけ。それだけ。
好きなことをやりたい放題。誰にも怒られない。何をしてもいい。何もしなくてもいい。
初めて明日がちょっとだけ待ち遠しくなっていた。
でも、死にたい……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

大人への門
相良武有
現代文学
思春期から大人へと向かう青春の一時期、それは驟雨の如くに激しく、強く、そして、短い。
が、男であれ女であれ、人はその時期に大人への確たる何かを、成熟した人生を送るのに無くてはならないものを掴む為に、喪失をも含めて、獲ち得るのである。人は人生の新しい局面を切り拓いて行くチャレンジャブルな大人への階段を、時には激しく、時には沈静して、昇降する。それは、驟雨の如く、強烈で、然も短く、将に人生の時の瞬なのである。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる