崖先の住人

九時木

文字の大きさ
上 下
70 / 72
8章: 解放

70. 死闘

しおりを挟む
 エスと僕はナイフを片手に持ち、寄ったり離れたりを繰り返す。
 ナイフを柔軟に動かしながら、じりじりと様子を見合う。直後、僕は一気に前身し、エスの首元めがけてナイフを突きつけた。


 エスが左腕で僕のナイフを防ぐ。エスはそのまま勢いよく僕の右手を弾き、攻撃を防いだ。
 僕が怯んでいる間に、エスがナイフを逆手持ちに切り替え、僕の首元を狙って前進する。

 僕は反時計回りに体を回し、何とかエスの攻撃をかわす。
 すると、エスの左側に死角ができた。またとないチャンスだと判断し、僕はそのままナイフを振り上げた。

 だが、エスが左腕で僕の右腕を防ぐ。僕はその力に押されてしまい、その間にエスが一回転する。
 一回転したエスは、そのまま逆手持ちの状態で勢いをつけ、一気に前進する。


 エスに押され、僕の背が壁に打ち当たる。エスのナイフは僕の首元ぎりぎりまで迫っており、僕はそれを左手で必死に押さえる。
 同時に、右手でエスの首元を狙うが、エスもまたそれを残った手で防ぐ。

 ぎりぎりと2つの刃が震える音がする。僕らはしばらく防ぎ合っていたが、突如エスが右膝を上げ、思いきり僕の横腹を蹴りあげた。

 僕はうめき声を上げ、身を弓なりに反らせた。しかし、怯んでいる暇もなかった。僕は下からナイフを突き上げ、エスへの攻撃を試みた。
 だがエスの方も用心深く、僕の攻撃を軽く避けた。エスはそのままナイフを振り上げ、勢いよく僕に突き刺そうとした。

 僕は前のめりになり、そのまま床へ倒れた。すぐに振り返ったが、既にエスのナイフが迫っていた。
 僕はそれを左手で振り払い、急いで立ち上がった。だが、立ち上がる際にエスの刃先が僕の頬をかすめ、切り口から血が流れ出た。


 「アドレナリン中毒になっちまいそうだ」

 エスが自分の服にナイフをあてがい、付いた血を拭く。
 僕らは再びじりじりと睨み合い、互いの様子を伺う。
 僕はもう一度攻め、何度もナイフを振った。だが、エスは胴を左右に動かしながら、それを上手くかわした。

 ナイフは全て避けられてしまったが、僕はエスを窓まで追い詰めることができた。
 僕は今度こそチャンスを逃すまいと、素早くナイフを突きつける。しかし、その瞬間にエスがにやりと笑った。


 エスが姿勢を低くし、僕の下に潜り込んだ。そして、上からナイフを勢いよく突き上げた。
 僕はそれを避けたが、今度は上から振り下ろされ、それを防ごうとした僕の左手を貫通した。

 ナイフが骨の隙間を通り抜け、筋肉に裂け目を作る。貫通した部分からは血がどくどくと流れ、僕はその尋常でない痛みに歯を食いしばる。

 エスがそのまま僕に詰め寄り、首元を狙う。
 僕は急いで左手からナイフを引っこ抜き、真っ赤な手でエスの顔に掴みかかる。

 エスが抵抗し、僕の顔を拳で殴りつける。僕は窓に後頭部を強打し、辺りにガラスの破片がパラパラと落ちる。
 僕の頭がくらくらし始める。エスは僕の前髪を掴み、血塗れの顔で僕に笑いかけた。

 「楽しませてくれよ」

 僕は曖昧な意識を奮い立たせながら、下からナイフを突き出した。
 僕のナイフが、エスの太ももにぐさりと刺さる。エスか一瞬怯んだので、僕はそのままエスに頭突きをした。

 2人同時に床に倒れる。瞼が忙しなく動き、目の前の光景を何とか捉えようと必死になる。
 床に粉状のガラスと、泥のような血が広がっているのが見える。

 「いいぜ。最高だ」

 エスがふらりと立ち上がり、ガラスを踏みつける。ガラスはますます粉々になり、床が星のように煌めく。

 「今度はちゃんと狙えよ」

 エスの太ももからは、血が川のように流れている。僕はそれを見届け、ナイフを強く握った。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

アオハルのタクト

碧野葉菜
青春
ピアニストを夢見る拓人の腕は、勝手に音を奏でるようになった。彼女を失ったあの日を境に……。 病に足掻く天才少女と、恵まれているが無能な平凡少年。思い合っているのに結ばれない、切ない青春。

処理中です...