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6章: 回想
56. 決闘
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僕はエスの銃に飛びかかった。
しかし、エスは軽くかわし、前のめりになった僕の背中に思い切り肘を振り下ろした。
背中に重力がかかり、僕は真正面から倒れる。顔面を地面に打ちつけ、手で鼻を覆う。
残り20秒。こんな所でもたもたしていられない。
僕は急いで立ち上がり、エスに殴りかかる。
エスは素早く拳を受け止め、僕の腹に膝をめり込ませる。
腹が圧迫され、僕はうめき声を上げる。舌を噛んでしまい、さらに血反吐を吐く。
2秒経過。僕はむせ返る暇もなく、立ち上がることを余儀なくされる。
腹を抱えたまま、今度は頭突きを試みる。だが、それもエスにかわされてしまう。
エスは僕の前髪を思い切り掴み、頬に一発食らわせる。僕の顔は右に吹っ飛ばされ、意識が途切れ途切れになる。
3秒経過。残り15秒。僕は歯を食いしばり、エスの額に向かって頭を思い切り打ちつける。
今度は上手くいったようだ。エスと僕の頭蓋骨がぶつかり合い、奇妙な音を立てて弾き合った。
「やるじゃないか」
エスが額を押さえ、その場でふらつきながら言う。
14秒、13秒、12秒。僕は時計の秒針音を聞き届け、残り11秒で思い切り足を踏み込んだ。
エスに向かって、右ストレートを振るう。その瞬間、エスがにやりと笑い、僕の腹部に潜り込んだ。
強烈なアッパーが僕の顎に当たる。上と下の歯がかち合い、僕は尻もちをつく。
3秒経過。残り7秒。僕の意識が飛び、さらに3秒を台無しにする。
残り4秒。僕はこのままエスに脳みそを撃ち抜かれるのだろうか。
撃たれた後はどうなる?僕の意識は何処へ行く?そんな疑問が高速で脳裏をよぎる。
残り3秒。もう後はない。
僕はエスの首に向かって、勢いよく片腕を引っかけた。
ラリアットだ。そのまま、エスの体を地面へ打ちつける。エスがドサリと仰向けに倒れ、片手の銃が視界に入る。
薄暗い照明で、銃のボディが艷めく。僕はエスにまたがり、銃をひったくろうとするが、相手はなかなか離さない。
「手を離せ!」僕はエスに向かって叫ぶ。
「力ずくで奪え」エスは仰向けになったまま、僕に笑いかける。
残り1秒。僕は銃を激しく揺らし、ついにエスから銃を奪った。
僕は急いで、エスの額に銃口を当てる。秒針音がピタリと止まり、辺りがしんと静まり返る。
残り0秒。戦いは終わった。僕の勝ちだ。
「やれば出来るもんだな」
エスが仰向けのまま両手を広げ、僕に言う。
僕は引き金に指をかけ、溜まりに溜まった血反吐を脇に吐いてから、エスに告げる。
「もううんざりだ」
「俺を撃つか?」エスはごく落ち着いた様子で返す。
「撃ったら、君は大人しくしてくれるのか?」
「どうかな」とエス。やはりこの男は信用ならない。
「だが、ゲームはゲームだ。勝った人間は、負けた人間を撃たなくちゃならない」
「そんなルール、聞いたことないよ」僕は少し躊躇い、銃を持つ手が震え始める。
「言ったはずだぜ。『狩るか、狩られるか』。それがゲームの原理だ」
「俺を撃ってみろよ」エスが銃口を掴み、自分の額にぐいと押し付ける。
僕の鼓動がどくどくと速まり、体全体を小刻みに震わせる。
「夢の世界にうんざりしているんだろう」
エスが、真っ直ぐな視線を僕に向ける。
僕は段々と吐き気がし、縫いつけたように口を閉ざす。
「残念だが」エスは僕から目を離すと、僕の手から銃を引っこ抜き、素早く奪い返した。
「時間切れだ」
エスはそっと微笑み、引き金を引いた。
発射音が僕の耳をつんざき、視界が真っ赤になる。手足が脱力し、血の海に投げ込まれる。
「お前は、こう思わないか?」
朦朧とした意識の中、エスの声が聞こえる。
耳がエスの言葉を途切れ途切れに拾う。
「無意識の世界は、一つの平坦な世界じゃない。いくつもの層が重なって、無限に広がっている。
そこに果てはなく、落ちる限り落ちていける場所だと」
「限りなく落ちた先に」エスが僕のもとにしゃがみ込み、そっとささやく。
「何があるのか。その目で見てみるといい」
体が落下していく感覚に呑まれていく。僕の意識は地下室からみるみるうちに遠ざかり、やがて夢の果てへと沈んでいった。
しかし、エスは軽くかわし、前のめりになった僕の背中に思い切り肘を振り下ろした。
背中に重力がかかり、僕は真正面から倒れる。顔面を地面に打ちつけ、手で鼻を覆う。
残り20秒。こんな所でもたもたしていられない。
僕は急いで立ち上がり、エスに殴りかかる。
エスは素早く拳を受け止め、僕の腹に膝をめり込ませる。
腹が圧迫され、僕はうめき声を上げる。舌を噛んでしまい、さらに血反吐を吐く。
2秒経過。僕はむせ返る暇もなく、立ち上がることを余儀なくされる。
腹を抱えたまま、今度は頭突きを試みる。だが、それもエスにかわされてしまう。
エスは僕の前髪を思い切り掴み、頬に一発食らわせる。僕の顔は右に吹っ飛ばされ、意識が途切れ途切れになる。
3秒経過。残り15秒。僕は歯を食いしばり、エスの額に向かって頭を思い切り打ちつける。
今度は上手くいったようだ。エスと僕の頭蓋骨がぶつかり合い、奇妙な音を立てて弾き合った。
「やるじゃないか」
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14秒、13秒、12秒。僕は時計の秒針音を聞き届け、残り11秒で思い切り足を踏み込んだ。
エスに向かって、右ストレートを振るう。その瞬間、エスがにやりと笑い、僕の腹部に潜り込んだ。
強烈なアッパーが僕の顎に当たる。上と下の歯がかち合い、僕は尻もちをつく。
3秒経過。残り7秒。僕の意識が飛び、さらに3秒を台無しにする。
残り4秒。僕はこのままエスに脳みそを撃ち抜かれるのだろうか。
撃たれた後はどうなる?僕の意識は何処へ行く?そんな疑問が高速で脳裏をよぎる。
残り3秒。もう後はない。
僕はエスの首に向かって、勢いよく片腕を引っかけた。
ラリアットだ。そのまま、エスの体を地面へ打ちつける。エスがドサリと仰向けに倒れ、片手の銃が視界に入る。
薄暗い照明で、銃のボディが艷めく。僕はエスにまたがり、銃をひったくろうとするが、相手はなかなか離さない。
「手を離せ!」僕はエスに向かって叫ぶ。
「力ずくで奪え」エスは仰向けになったまま、僕に笑いかける。
残り1秒。僕は銃を激しく揺らし、ついにエスから銃を奪った。
僕は急いで、エスの額に銃口を当てる。秒針音がピタリと止まり、辺りがしんと静まり返る。
残り0秒。戦いは終わった。僕の勝ちだ。
「やれば出来るもんだな」
エスが仰向けのまま両手を広げ、僕に言う。
僕は引き金に指をかけ、溜まりに溜まった血反吐を脇に吐いてから、エスに告げる。
「もううんざりだ」
「俺を撃つか?」エスはごく落ち着いた様子で返す。
「撃ったら、君は大人しくしてくれるのか?」
「どうかな」とエス。やはりこの男は信用ならない。
「だが、ゲームはゲームだ。勝った人間は、負けた人間を撃たなくちゃならない」
「そんなルール、聞いたことないよ」僕は少し躊躇い、銃を持つ手が震え始める。
「言ったはずだぜ。『狩るか、狩られるか』。それがゲームの原理だ」
「俺を撃ってみろよ」エスが銃口を掴み、自分の額にぐいと押し付ける。
僕の鼓動がどくどくと速まり、体全体を小刻みに震わせる。
「夢の世界にうんざりしているんだろう」
エスが、真っ直ぐな視線を僕に向ける。
僕は段々と吐き気がし、縫いつけたように口を閉ざす。
「残念だが」エスは僕から目を離すと、僕の手から銃を引っこ抜き、素早く奪い返した。
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