崖先の住人

九時木

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2章: 没入

16. 対面

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 女が浜辺に到着し、舟から降りた。
 男は灯台に戻り、スナイパーライフルからアサルトライフルに切り替えた。

 男が無言で女のもとに歩いていく。僕は急いでその後へ続いた。


 「久しぶりね」

 黒髪を1つに結った女が、男に言った。
 僕は、女の拳銃と男のアサルトライフルを交互に見ながら、様子をうかがった。

 「帰れ。ここはお前の来る所じゃない」

 男は冷たい声で女に返す。
 空気があまりにも張り詰めていた。僕はこの2人が一体どういった間柄なのかを考えながら、続きを待った。

 「私だけ仲間外れなんて、ひどいじゃない」

 女は片目をつむったまま、小さく笑った。
 しばらくすると、女は銃を下ろし、辺りをぐるりと見回した。

 「相変わらず悪趣味ね」

 女は、灯台の下に置かれた水槽を見ていた。
 2匹の魚は相変わらず戦っており、血なまぐさい臭いを漂わせていた。

 「慣れない臭いだわ」

 そう言うと、女はポケットから1本の煙草を取り出し、ライターで火をつけた。
 女が煙草を咥え、濃厚な煙をふかし始める。僕は思わずむせ返った。

 「余計なものを持ち込むな」

 男は銃を構え、敵意をあらわにした。まるで輸入品を取り締まる検査員のような面持ちだ。

 「魚を逃がしてみたらどうかしら」と女は言ったが、男はじっと立ったまま動かなかった。


 「知ってるでしょう。私はお迎えに来たの。それ以外に用はないわ」

 しばらく経つと、女が「帰りましょう」と言い、僕の腕を引っ張った。
 何のことやらさっぱりわからなかった僕は、慌てて「何処に?」と尋ねた。

 「忘れたなんて言わせないわ。もとの世界へ帰るの」

 女は微笑みながらそう言ったが、僕の方は相変わらず上手く理解できなかった。
 僕の様子を読み取ったのか、女は男に非難の目を向けた。

 「あなたのせいね」

 男は肩をすくめ、「どうかな」と不敵な笑みを浮かべた。
 女は灯台近くに並べられた酒缶を目にした。


 「長居しすぎていると、ここが夢の世界か現実の世界か、わからなくなってしまうのよ」

 女は煙草を口から離し、僕を宥めるようにして話した。
 僕は女の言葉に混乱し、目を泳がせた。

 「自覚がないのね。でも目が覚めたら、ここがどんな場所なのかわかるわ。さあ、行きましょう」

 女は僕の腕をぐいと引っ張り、舟に乗せようとした。
 僕は何となく怖くなり、反射的に女の手を振り払った。

 「怖くないわ」

 女が僕のもとに近づき、ゆっくりと唇を動かす。
 僕は顔を引き攣らせながら、女の言葉に耳を塞いだ。

 「やっぱり、あなたのせいね」

 女が男を睨みつける。男は銃を構えたまま、にやりと笑った。

 「何。ちょっと楽しんだだけさ」
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