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2章: 没入
14. 勝敗
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2匹の魚が、水槽の中で戦っている。
羽のような胸びれを使い、素早く移動したかと思えば、咄嗟に相手に体当たりした。
体当たりをされた魚は、身をくねらせ、衝撃を和らげようとした。
体当たりされた魚は転回し、相手の尾びれを思いきりつついた。
尾びれの一部が食いちぎられ、布切れのように水中に漂った。
怒ったもう一方の魚は、尖った口で相手の目を何度もつついた。
つつかれた目からは、血が滲み出ていた。
赤黒い血は水中で霧のように漂い、赤い海水をさらに赤く染めた。
僕は目を負傷し逃げ回る魚を見て、がくりと肩を落とした。
「お前の負けだ」
隣の席で、男が笑いながら短く言った。
僕は「目を抉られてしまったよ」と嘆息し、椅子の背に思いきりもたれかかった。
男の釣った魚は、僕の釣った魚を追い回していた。水槽内は忙しなく、水面から水飛沫が飛び上がっていた。
「別の魚で試させてくれないか」と、僕は男に頼んだ。ひょっとすれば、魚との相性が悪かったのかもしれない。
男は「いいさ」と言い、いつの間にか手にしていた酒缶を呷った。
僕は水槽内の魚を1匹掴み、海に放った。そして、再び釣竿を握り始めた。
だが、2匹目の魚も駄目だった。
「もう一度、別の魚を釣るから」と男に頼んでみたが、結果は同じだった。
僕の釣った魚は、尽く打ち負かされた。僕は段々と苛立ちが募り、ついに男に尋ねた。
「何か仕組んでいるんじゃないだろうな」
「そう見えるか?」
男は酒缶を呷りながら、何ともない様子で僕に返した。
僕は男を疑った。だが、その疑いはまもなく晴れた。
「竿に当たりが来た時から」
男は僕の釣竿を観察しながら、説明した。
「勝負は決まってる。よくつつく魚ほど、攻撃的で勝ちやすい」
男は一気に酒を飲み、空になった酒缶を水槽のそばに置いた。
「魚を酔わせたとでも思ったか?」と、男が笑ったので、僕は何だか恥ずかしくなった。
「早く言ってくれよ」と、僕はちょっとした負け惜しみで返したが、男はただ笑うばかりだった。
僕らはしばらく釣りをして楽しんだ。
時間を忘れ、腕が痛くなるほど釣りをした。
何故だかわからないが、この場所は日が暮れない。ずっと曇天のままだ。
僕はそのことについて、男に訊こうとしたが、止めた。
何となく、日が暮れるのは見たくなかった。できることならば、飽きが来るまでずっと釣りをしていたかった。
男の方を見ると、酒缶がドミノのように並んでいた。この男は、一体どれくらい酒を飲み続けるのだろうか。
僕が酒缶を眺めていると、男が僕に言った。
「美味い酒だ。お前も飲むか?」
男が僕に酒缶を差し出す。僕は酒缶を受け取り、タブに指を引っかける。
「パチン」と軽快な音が耳をくすぐり、中から泡が吹きこぼれる。僕は急いで泡をすする。
酒は不思議な味がした。ひどく甘ったるいが、それでいてスパイスの効いたような、今までに飲んだことのない味だった。
「美味いだろう」
男は足を組みながら、満足げに話した。
僕は「うん」と短く返し、酒をすすり続けた。
竿先を見ているうちに、幸福感がじわじわと湧き上がってきた。
今度こそ、強い魚を釣りたかった。僕は少し前のめりになり、竿先が揺れるのをじっと観察した。
羽のような胸びれを使い、素早く移動したかと思えば、咄嗟に相手に体当たりした。
体当たりをされた魚は、身をくねらせ、衝撃を和らげようとした。
体当たりされた魚は転回し、相手の尾びれを思いきりつついた。
尾びれの一部が食いちぎられ、布切れのように水中に漂った。
怒ったもう一方の魚は、尖った口で相手の目を何度もつついた。
つつかれた目からは、血が滲み出ていた。
赤黒い血は水中で霧のように漂い、赤い海水をさらに赤く染めた。
僕は目を負傷し逃げ回る魚を見て、がくりと肩を落とした。
「お前の負けだ」
隣の席で、男が笑いながら短く言った。
僕は「目を抉られてしまったよ」と嘆息し、椅子の背に思いきりもたれかかった。
男の釣った魚は、僕の釣った魚を追い回していた。水槽内は忙しなく、水面から水飛沫が飛び上がっていた。
「別の魚で試させてくれないか」と、僕は男に頼んだ。ひょっとすれば、魚との相性が悪かったのかもしれない。
男は「いいさ」と言い、いつの間にか手にしていた酒缶を呷った。
僕は水槽内の魚を1匹掴み、海に放った。そして、再び釣竿を握り始めた。
だが、2匹目の魚も駄目だった。
「もう一度、別の魚を釣るから」と男に頼んでみたが、結果は同じだった。
僕の釣った魚は、尽く打ち負かされた。僕は段々と苛立ちが募り、ついに男に尋ねた。
「何か仕組んでいるんじゃないだろうな」
「そう見えるか?」
男は酒缶を呷りながら、何ともない様子で僕に返した。
僕は男を疑った。だが、その疑いはまもなく晴れた。
「竿に当たりが来た時から」
男は僕の釣竿を観察しながら、説明した。
「勝負は決まってる。よくつつく魚ほど、攻撃的で勝ちやすい」
男は一気に酒を飲み、空になった酒缶を水槽のそばに置いた。
「魚を酔わせたとでも思ったか?」と、男が笑ったので、僕は何だか恥ずかしくなった。
「早く言ってくれよ」と、僕はちょっとした負け惜しみで返したが、男はただ笑うばかりだった。
僕らはしばらく釣りをして楽しんだ。
時間を忘れ、腕が痛くなるほど釣りをした。
何故だかわからないが、この場所は日が暮れない。ずっと曇天のままだ。
僕はそのことについて、男に訊こうとしたが、止めた。
何となく、日が暮れるのは見たくなかった。できることならば、飽きが来るまでずっと釣りをしていたかった。
男の方を見ると、酒缶がドミノのように並んでいた。この男は、一体どれくらい酒を飲み続けるのだろうか。
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男が僕に酒缶を差し出す。僕は酒缶を受け取り、タブに指を引っかける。
「パチン」と軽快な音が耳をくすぐり、中から泡が吹きこぼれる。僕は急いで泡をすする。
酒は不思議な味がした。ひどく甘ったるいが、それでいてスパイスの効いたような、今までに飲んだことのない味だった。
「美味いだろう」
男は足を組みながら、満足げに話した。
僕は「うん」と短く返し、酒をすすり続けた。
竿先を見ているうちに、幸福感がじわじわと湧き上がってきた。
今度こそ、強い魚を釣りたかった。僕は少し前のめりになり、竿先が揺れるのをじっと観察した。
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