12 / 72
2章: 没入
12. 灯台
しおりを挟む
数十分ほど歩くと、灯台に着いた。
男はポケットから鍵を取り出し、扉を開けた。
重々しい扉が金属音を響かせた後、男は内部へと足を踏み入れた。
「案外広いだろう」
灯台の内部で、男の声が響き渡った。
僕は天井を見上げた。天井までは、螺旋階段が果てしなく続いており、目が回りそうになった。
「頂上まで上るのかい」
「まあな」
男は僕の先を歩き、階段を上り始めた。
僕は1階全体を見回し、様子を確認した。
ふと、空き缶が目に留まった。空き缶は壁沿いに並べられており、トランプタワーのように積み上げられていた。
「そいつが気になるか?」
男が少し上の階段から、僕に話しかけた。
僕は空き缶のラベルをじっと見た。
「長く住んでいると、暇になるんでね。もう何杯呷ったか覚えちゃいない」
男は愉快そうに鼻歌を歌いながら、階段を上っていった。
僕は一番上に置かれた空き缶をそっと回した。
空き缶のラベルには、「アルコール分9パーセント」と記されていた。
それは銀色の酒缶だった。どれも同じ種類の酒缶で、男が飲んだもののようだった。
僕は無数の空き缶を横目で見ながら、恐る恐る階段を上った。
「さっき、君はここに住んでいると言ったけれど」
足音が響き渡る中、僕は男に向かって声を張り上げていた。
「一体何のために、こんな所に住んでいるんだい?」
男は慣れた足取りで、速く上った。知らぬうちに、男と僕の間には何周もの距離が空いていた。
「上に着けばわかるさ」
男は一定の速度で階段を上りながら、返事をした。
僕らは淡々と階段を上り続けた。僕の方は段々と息苦しくなり、手すりに掴まりながら階段を上るようになっていた。
「たどり着けばの話だが」
男の冗談めかした一言が、上段から伝ってくる。
僕は最早上を見る余裕もなく、ただ足元に汗が落ちるのを見送りながら、重い足を上げていた。
階段を上り始めてから数十分後、僕はようやく頂上にたどり着いた。
風が汗を吹き飛ばし、髪を横に流す。僕は荒ぶった息を抑えながら、灯台から見える景色を一望した。
「すごいや」
景色は驚嘆すべきものだった。
真っ赤な海が視界全体を覆い尽くし、はるか彼方まで広がっている。
曇天は光を遮り、不穏な空気を漂わせている。
まるで魔界のような景色だ。しかし、海と雲以外には何も映らない。
「それは?」
僕は、隣で機械をいじっている男に目を移した。
「望遠鏡。これで『漂着物』を見るんだよ」
男は2つのレンズを覗き込みながら、望遠鏡の首を回していた。
「この海には、よく物が流れ着く。時々は舟も見かける」
男はレンズから目を離し、話を続けた。
「俺はここで監視員をやってるんだ。毎日、海に何が流れ着いたかを確かめるのさ」
「それが君の仕事か」
「そうだ」
男は返事をすると、傍の椅子に座り、足を組んだ。
僕は少し考えた後、男に尋ねた。
「もしかして、僕も流れ着いた身なのかい」
「そうだな」
男はポケットから鍵を取り出し、指に引っ掛けて回し始めた。
僕の内で不安がよぎり、反射的に拳を握りしめた。
「まあ、焦るなよ。せっかくここに着いたんだ。一息ついていけばいい」
男は僕の内を見透かしたかのように、即座に言葉を付け加えた。
僕はそわそわしながら、辺りを見回した。しかし、辺りにはやはり真っ赤な海しか広がっていなかった。
「今日は特に異常がないみたいだ。ここから降りようぜ」
男は鍵を一掴みし、手の内に収めたまま階段を降り始めた。
鉄の臭いが、体全体に吹きつけていた。僕はその場で立ち尽くしたまま、海を呆然と眺めていた。
「他にもやることは色々あるんだ。教えてやるから、お前も来いよ」
男は愉快げに笑いながら、僕に言った。
「そのまま突っ立っていると、鍵を閉めちまうぞ」と言われた時、僕は我に返り、急いで男の後に続いた。
男はポケットから鍵を取り出し、扉を開けた。
重々しい扉が金属音を響かせた後、男は内部へと足を踏み入れた。
「案外広いだろう」
灯台の内部で、男の声が響き渡った。
僕は天井を見上げた。天井までは、螺旋階段が果てしなく続いており、目が回りそうになった。
「頂上まで上るのかい」
「まあな」
男は僕の先を歩き、階段を上り始めた。
僕は1階全体を見回し、様子を確認した。
ふと、空き缶が目に留まった。空き缶は壁沿いに並べられており、トランプタワーのように積み上げられていた。
「そいつが気になるか?」
男が少し上の階段から、僕に話しかけた。
僕は空き缶のラベルをじっと見た。
「長く住んでいると、暇になるんでね。もう何杯呷ったか覚えちゃいない」
男は愉快そうに鼻歌を歌いながら、階段を上っていった。
僕は一番上に置かれた空き缶をそっと回した。
空き缶のラベルには、「アルコール分9パーセント」と記されていた。
それは銀色の酒缶だった。どれも同じ種類の酒缶で、男が飲んだもののようだった。
僕は無数の空き缶を横目で見ながら、恐る恐る階段を上った。
「さっき、君はここに住んでいると言ったけれど」
足音が響き渡る中、僕は男に向かって声を張り上げていた。
「一体何のために、こんな所に住んでいるんだい?」
男は慣れた足取りで、速く上った。知らぬうちに、男と僕の間には何周もの距離が空いていた。
「上に着けばわかるさ」
男は一定の速度で階段を上りながら、返事をした。
僕らは淡々と階段を上り続けた。僕の方は段々と息苦しくなり、手すりに掴まりながら階段を上るようになっていた。
「たどり着けばの話だが」
男の冗談めかした一言が、上段から伝ってくる。
僕は最早上を見る余裕もなく、ただ足元に汗が落ちるのを見送りながら、重い足を上げていた。
階段を上り始めてから数十分後、僕はようやく頂上にたどり着いた。
風が汗を吹き飛ばし、髪を横に流す。僕は荒ぶった息を抑えながら、灯台から見える景色を一望した。
「すごいや」
景色は驚嘆すべきものだった。
真っ赤な海が視界全体を覆い尽くし、はるか彼方まで広がっている。
曇天は光を遮り、不穏な空気を漂わせている。
まるで魔界のような景色だ。しかし、海と雲以外には何も映らない。
「それは?」
僕は、隣で機械をいじっている男に目を移した。
「望遠鏡。これで『漂着物』を見るんだよ」
男は2つのレンズを覗き込みながら、望遠鏡の首を回していた。
「この海には、よく物が流れ着く。時々は舟も見かける」
男はレンズから目を離し、話を続けた。
「俺はここで監視員をやってるんだ。毎日、海に何が流れ着いたかを確かめるのさ」
「それが君の仕事か」
「そうだ」
男は返事をすると、傍の椅子に座り、足を組んだ。
僕は少し考えた後、男に尋ねた。
「もしかして、僕も流れ着いた身なのかい」
「そうだな」
男はポケットから鍵を取り出し、指に引っ掛けて回し始めた。
僕の内で不安がよぎり、反射的に拳を握りしめた。
「まあ、焦るなよ。せっかくここに着いたんだ。一息ついていけばいい」
男は僕の内を見透かしたかのように、即座に言葉を付け加えた。
僕はそわそわしながら、辺りを見回した。しかし、辺りにはやはり真っ赤な海しか広がっていなかった。
「今日は特に異常がないみたいだ。ここから降りようぜ」
男は鍵を一掴みし、手の内に収めたまま階段を降り始めた。
鉄の臭いが、体全体に吹きつけていた。僕はその場で立ち尽くしたまま、海を呆然と眺めていた。
「他にもやることは色々あるんだ。教えてやるから、お前も来いよ」
男は愉快げに笑いながら、僕に言った。
「そのまま突っ立っていると、鍵を閉めちまうぞ」と言われた時、僕は我に返り、急いで男の後に続いた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる