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【Ⅰ】夢と現の星間郵便 第4章:解放
58 物語
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「にゃんだにゃんだ!?」
さっきと雰囲気が違う。
「えーっと……あなたは?」
「私はこの世界の主にゃ。お前達迷い人が言う夢の主というやつにゃ」
迷い人? もしかして自分の夢に迷い込んだ人と思っているのだろうか? いや、その前に……
「……えーっと、私の世界には猫の人はいないんだが……」
私は手を横に振る。
「この姿は迷い人を食する時の姿にゃ……って、何でこの姿になっているのにゃ!?」
「いや知らないし……」
自称夢の主の猫店員は、自身の姿に驚いている。
「うーん! このご飯さいこー! おいしー!」
夢羽が食べ損ねた御前を食べている。
「食べてるにゃ! 動けないにゃー! みゃーも食べるにゃ!」
そう言い、自称夢の主の猫店員は畳の上でゴロゴロ転がる。
「夢羽はそのまま食べてて。あと、そこの自称夢の主さん」
「はいにゃ! ……って自称って何さ」
「この手紙の名前に心当たりある?」
「あ、それ私にゃ。あと、その手紙の主は私の夫にゃ。だいぶ前に亡くなったんだけどにゃ」
ということは、局員が配達しようとしたけど、その夢の主に食べられてしまって届けられなかった昔の手紙ってことかな。
「お! 俺達も食べていいか?」
「わ、私も食べたいです!」
豪華な料理を食べたいという欲を抑えきれなかったのか、障子戸の近くにいたタツロウとサトウが中に入ってきた。
「うん、食べちゃって。このままだと全部夢羽に食べられちゃうよ」
「それは阻止せねば!」
「いただきます!」
3人並んで食べている姿を見て、私は顔が緩んだ。
「ん? ……んぐ。風羽も食べたいの?」
「いやいいよ。私の分も夢羽が食べちゃって」
「そう? それじゃ遠慮なく」
そう言い、再び料理に手を伸ばした。
「さて……自称改め夢の主さん」
畳の上に横たわって動かなくなった夢の主を見る。
「だから自称ってなにさ」
「今まで何人食べたのかな?」
自称というツッコミはスルーして、腕を前に組んで更に詰め寄る。
「ひ……1人にゃ……」
「それ、嘘よ」
「なんでわかったにゃ!?」
夢の主は夢羽を見る。
「そのお手紙の配達をしようとした局員は、全員行方不明になっている記録があったわ」
「それって桜と椛の星と同レベルじゃん……」
「そんな怖い所で、私達デート……ごほん。捜索していたんですね」
サトウは唖然としている。
「まあ全員無事だし、こんな美味しい飯食えてるんだ。行方不明者達の無念を晴らす意味で、たくさん食べようぜ」
「縛られた夢の主の横で食事……」
「局員を食べた罰ね。んー美味しい!」
夢羽は美味しそうに天ぷらを頬張る。
「それで? 夢の主さん。何人食べたの?」
私は再び夢の主を見る。
「えっと……覚えてないにゃ」
あくまでも食事なのだろう。
私も食材のにんじんを何本食べたかなんて覚えていないし。
「んー良くないけど置いておいて……風羽、夢の主に手紙を渡してあげて」
出された食事のほとんどを食べ終えていた夢羽は、私を見ている。
「おっけー。はい、これお手紙です」
私は手に持っている手紙を夢の主に渡した。
「迷い人は郵便屋さんだったのにゃー。他の迷い人もそうだったのにゃ?」
夢の主は困った顔をしている。
「まあ、そうなるね」
「悪いことをしたにゃ……」
そう言いながら夢の主は手紙を受け取り、開いた。
開いた瞬間、夢の主と旦那さんと思われる人物が出てくる映像が頭によぎる。
「再発防止のために、何か対策をしておきたいですね……。どうしたらいいでしょう?」
サトウはうーんと考え込む。
「再発防止? 難しいわね……。アレが誰に渡っているのか、事が起きない限りわからないからね……」
「アレって、もしかしてこれと似たような物があるってこと?」
私は、桜と椛の星で入手した2枚の切手を見せる。
「うん、そうよ。おっと……近くにいるからこれ以上話せないわ」
夢羽は何かに警戒している。
「これ持っていた人達も、送られてきた後からお腹が空いてきたって言ってたね」
「そうにゃ! そうにゃ! みゃーの所にも来てたにゃ! その後に迷い人に初めて会った時、なぜか無性にお腹が空いたのにゃ。んで、口を開けたらペロっといけたのにゃ」
ペロっといけたって怖いな……。
「でも取られたにゃ!」
「え? 誰に?」
「あれにゃ!」
夢の主は夢羽が持っている鈴を指す。
「あれが?」
私はその鈴を取ろうとした。
すると
「あ! 消えた! ……切手になったね」
私はその切手を取る。
「『物語』? 注文の多い料理店かな」
「ふふ、たしかにそうね……それに3枚目ね」
夢羽はくすくす笑っている。
「あ、戻った! お腹も全然空いてない! 迷い人さんありがとう!」
夢の主の姿が、猫人から人間に戻った。
そして、夢の主は再び手紙に目を通し始める。
「どういたしまして。出されたご飯は全部食べたみたいだし、そろそろ出るよ。あ、でもこのデパートから出る方法がわからないんだよね……」
立ち上がる3人を見ながら、うーんと考える。
「あ、それなら上に向かって!」
夢の主は上を指す。
「上ね。ありがと。じゃあね!」
「ごちそうさまでした」
「美味かったぜ」
挨拶をした3人が和室から出た後、私は夢の主を見る。
「この刀、返します」
腰に括り付けていた刀を鞘ごと抜く。
つくちゃんが肩の上に移動したのを確認し、刀を夢の主に差し出した。
「いえ、これは貴女にあげるよ。これは、あの人が使っていた刀を模倣して作ってもらった物だから」
「そうだったんですね……」
「猫になる術で試しに作ってみたらできちゃった物だしね。あ、本物はお家にあるから、それはあげる」
あるんかい! てか、この刀って夢の主が作ったのか。
「では遠慮なく使わせていただきますね」
「消えちゃう前にさっさと持っていって」
「うん、ありがと。あ! もう1つ! ロボットみたいな見た目の人見ませんでした?」
私がそう言うと、夢の主は首を傾げた後、何か思い出したような顔をした。
「うん、見たよ! 不思議な人でね。あの術が全く効かなかったんだ」
「見たの! 今はどこに?」
「もういないよ。食べられないと思ったから出口作ってあげたの。そしたらすぐに出ていっちゃった」
「そうか……うん、情報ありがとね。それじゃ、来訪者には優しくね」
私は夢の主に手を振った。
夢の主も手を振って見送ってくれた。
その時、夢の主の手にある手紙から1枚の切手が剥がれ、それが私の所へ飛んできた。
それを取り、カバンのポケットに入れた。
そして廊下を進み、出入り口の会計に着いた。
「よし、目的達成だね。サトウさんもデパートデート楽しめた?」
出入り口で待っていたサトウに質問を投げた後、店員に声をかけて会計をしようと財布を出した。
「はい、おかげさまで。って! デートじゃなくて捜索です!」
サトウの顔が赤く染まる。
「ははは、それじゃ上向かおうか」
「はい!」
お店の外に出て、外で待っていた夢羽とタツロウと合流し、私達は屋上を目指した。
「あ、あれが屋上への扉じゃないかな」
夢羽が天井付近にある扉を指した。
「あったね……さっき主に聞いたんだけど、ゲンもこの星にいたみたいよ」
「それで今は?」
「食べられないってわかったから出口を作ってあげたって」
「じゃあ、もうこの星にはいないのね」
「そうみたい」
扉に辿り着いた私達は、目の前の扉を開いた。
開いた先はすぐに屋上のヘリポートになっていて、すでにクルマが待機していた。
「デパートは名残惜しいけど、次の星へ! ゲンを探しに行くよ」
「おー!」
クルマに全員乗り込み、夢の星を脱出した。
さっきと雰囲気が違う。
「えーっと……あなたは?」
「私はこの世界の主にゃ。お前達迷い人が言う夢の主というやつにゃ」
迷い人? もしかして自分の夢に迷い込んだ人と思っているのだろうか? いや、その前に……
「……えーっと、私の世界には猫の人はいないんだが……」
私は手を横に振る。
「この姿は迷い人を食する時の姿にゃ……って、何でこの姿になっているのにゃ!?」
「いや知らないし……」
自称夢の主の猫店員は、自身の姿に驚いている。
「うーん! このご飯さいこー! おいしー!」
夢羽が食べ損ねた御前を食べている。
「食べてるにゃ! 動けないにゃー! みゃーも食べるにゃ!」
そう言い、自称夢の主の猫店員は畳の上でゴロゴロ転がる。
「夢羽はそのまま食べてて。あと、そこの自称夢の主さん」
「はいにゃ! ……って自称って何さ」
「この手紙の名前に心当たりある?」
「あ、それ私にゃ。あと、その手紙の主は私の夫にゃ。だいぶ前に亡くなったんだけどにゃ」
ということは、局員が配達しようとしたけど、その夢の主に食べられてしまって届けられなかった昔の手紙ってことかな。
「お! 俺達も食べていいか?」
「わ、私も食べたいです!」
豪華な料理を食べたいという欲を抑えきれなかったのか、障子戸の近くにいたタツロウとサトウが中に入ってきた。
「うん、食べちゃって。このままだと全部夢羽に食べられちゃうよ」
「それは阻止せねば!」
「いただきます!」
3人並んで食べている姿を見て、私は顔が緩んだ。
「ん? ……んぐ。風羽も食べたいの?」
「いやいいよ。私の分も夢羽が食べちゃって」
「そう? それじゃ遠慮なく」
そう言い、再び料理に手を伸ばした。
「さて……自称改め夢の主さん」
畳の上に横たわって動かなくなった夢の主を見る。
「だから自称ってなにさ」
「今まで何人食べたのかな?」
自称というツッコミはスルーして、腕を前に組んで更に詰め寄る。
「ひ……1人にゃ……」
「それ、嘘よ」
「なんでわかったにゃ!?」
夢の主は夢羽を見る。
「そのお手紙の配達をしようとした局員は、全員行方不明になっている記録があったわ」
「それって桜と椛の星と同レベルじゃん……」
「そんな怖い所で、私達デート……ごほん。捜索していたんですね」
サトウは唖然としている。
「まあ全員無事だし、こんな美味しい飯食えてるんだ。行方不明者達の無念を晴らす意味で、たくさん食べようぜ」
「縛られた夢の主の横で食事……」
「局員を食べた罰ね。んー美味しい!」
夢羽は美味しそうに天ぷらを頬張る。
「それで? 夢の主さん。何人食べたの?」
私は再び夢の主を見る。
「えっと……覚えてないにゃ」
あくまでも食事なのだろう。
私も食材のにんじんを何本食べたかなんて覚えていないし。
「んー良くないけど置いておいて……風羽、夢の主に手紙を渡してあげて」
出された食事のほとんどを食べ終えていた夢羽は、私を見ている。
「おっけー。はい、これお手紙です」
私は手に持っている手紙を夢の主に渡した。
「迷い人は郵便屋さんだったのにゃー。他の迷い人もそうだったのにゃ?」
夢の主は困った顔をしている。
「まあ、そうなるね」
「悪いことをしたにゃ……」
そう言いながら夢の主は手紙を受け取り、開いた。
開いた瞬間、夢の主と旦那さんと思われる人物が出てくる映像が頭によぎる。
「再発防止のために、何か対策をしておきたいですね……。どうしたらいいでしょう?」
サトウはうーんと考え込む。
「再発防止? 難しいわね……。アレが誰に渡っているのか、事が起きない限りわからないからね……」
「アレって、もしかしてこれと似たような物があるってこと?」
私は、桜と椛の星で入手した2枚の切手を見せる。
「うん、そうよ。おっと……近くにいるからこれ以上話せないわ」
夢羽は何かに警戒している。
「これ持っていた人達も、送られてきた後からお腹が空いてきたって言ってたね」
「そうにゃ! そうにゃ! みゃーの所にも来てたにゃ! その後に迷い人に初めて会った時、なぜか無性にお腹が空いたのにゃ。んで、口を開けたらペロっといけたのにゃ」
ペロっといけたって怖いな……。
「でも取られたにゃ!」
「え? 誰に?」
「あれにゃ!」
夢の主は夢羽が持っている鈴を指す。
「あれが?」
私はその鈴を取ろうとした。
すると
「あ! 消えた! ……切手になったね」
私はその切手を取る。
「『物語』? 注文の多い料理店かな」
「ふふ、たしかにそうね……それに3枚目ね」
夢羽はくすくす笑っている。
「あ、戻った! お腹も全然空いてない! 迷い人さんありがとう!」
夢の主の姿が、猫人から人間に戻った。
そして、夢の主は再び手紙に目を通し始める。
「どういたしまして。出されたご飯は全部食べたみたいだし、そろそろ出るよ。あ、でもこのデパートから出る方法がわからないんだよね……」
立ち上がる3人を見ながら、うーんと考える。
「あ、それなら上に向かって!」
夢の主は上を指す。
「上ね。ありがと。じゃあね!」
「ごちそうさまでした」
「美味かったぜ」
挨拶をした3人が和室から出た後、私は夢の主を見る。
「この刀、返します」
腰に括り付けていた刀を鞘ごと抜く。
つくちゃんが肩の上に移動したのを確認し、刀を夢の主に差し出した。
「いえ、これは貴女にあげるよ。これは、あの人が使っていた刀を模倣して作ってもらった物だから」
「そうだったんですね……」
「猫になる術で試しに作ってみたらできちゃった物だしね。あ、本物はお家にあるから、それはあげる」
あるんかい! てか、この刀って夢の主が作ったのか。
「では遠慮なく使わせていただきますね」
「消えちゃう前にさっさと持っていって」
「うん、ありがと。あ! もう1つ! ロボットみたいな見た目の人見ませんでした?」
私がそう言うと、夢の主は首を傾げた後、何か思い出したような顔をした。
「うん、見たよ! 不思議な人でね。あの術が全く効かなかったんだ」
「見たの! 今はどこに?」
「もういないよ。食べられないと思ったから出口作ってあげたの。そしたらすぐに出ていっちゃった」
「そうか……うん、情報ありがとね。それじゃ、来訪者には優しくね」
私は夢の主に手を振った。
夢の主も手を振って見送ってくれた。
その時、夢の主の手にある手紙から1枚の切手が剥がれ、それが私の所へ飛んできた。
それを取り、カバンのポケットに入れた。
そして廊下を進み、出入り口の会計に着いた。
「よし、目的達成だね。サトウさんもデパートデート楽しめた?」
出入り口で待っていたサトウに質問を投げた後、店員に声をかけて会計をしようと財布を出した。
「はい、おかげさまで。って! デートじゃなくて捜索です!」
サトウの顔が赤く染まる。
「ははは、それじゃ上向かおうか」
「はい!」
お店の外に出て、外で待っていた夢羽とタツロウと合流し、私達は屋上を目指した。
「あ、あれが屋上への扉じゃないかな」
夢羽が天井付近にある扉を指した。
「あったね……さっき主に聞いたんだけど、ゲンもこの星にいたみたいよ」
「それで今は?」
「食べられないってわかったから出口を作ってあげたって」
「じゃあ、もうこの星にはいないのね」
「そうみたい」
扉に辿り着いた私達は、目の前の扉を開いた。
開いた先はすぐに屋上のヘリポートになっていて、すでにクルマが待機していた。
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