夢現新星譚

富南

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【Ⅰ】夢と現の星間郵便 第4章:解放

56 神隠し

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 満足そうな顔をした1名と苦しそうにしている顔の1名が、クレープ屋のディスプレイに反射して映っている。
 予想通り、苦しそうにしているのが私で、その隣にいるのが満足そうな夢羽である。
 何があったかというと、カウンターで巨大クレープを注文したら、すぐにそれを食べるための専用の部屋へと案内された。
 注文を聞き間違えたのか、なぜか巨大クレープが2つ、部屋の中に運び込まれた。
 ちなみに巨大クレープ2つ分のお値段は、なんとキャンペーンで無料になっていた

「うまー! 風羽も早く食べなよ! 美味しいよ!」

 夢羽は早速食べ始め、いつの間にかもう既に半分くらい減っていた。

「さっき気分悪そうにしていた夢羽はどこに行ったのやら……」

 私も食べたが、半分も食べきれずにギブアップ。
 残りは全て、夢羽の腹の中に消えていったという感じだ。

「次行こう、次!」

 粘土で何かをたくさん作った後、急かすように私の背中を押す。
 どうやら夢羽はまだ食べ足りないようだ。

「次はどこに行くのさ」
「あれ、美味しそう!」

 夢羽が指した所に、マンガでしか見たことのない骨付き肉がたくさん並んでいた。

「うわ……これは夢だ」
「何言ってるの? 夢に決まってるでしょ。でもあたし達は食べられるから、いただこう!」
「……そうだね」

 マンガ肉屋に向かい、そしてその肉を2個購入しようとした。
 するとまた、初回特典として無料で貰うことができた。

「むぅ……やっぱり食べられないや」

 さっきのクレープがまだお腹の中を占拠しているわ……。

 一口かじった後無理だと感じ、残った肉は夢羽のお腹の中へと消えていった。

「よく食べられるね……」
「都度消費してるからね」
「なにで?」
「秘密ー」

 あの粘土こねこねが関係しているのかな? 考えてもわからないや。

 夢羽は私から視線を外し、周囲をキョロキョロしている。またお店を探しているのだろう。

「ん?」

 私は視線を感じたので、その方向を見る。
 だが、たくさん人がいるせいで、誰の視線なのかわからない。

「どうしたの?」
「視線を感じたんだけど……」
「視線ね……。なんだろうね?」
「さあ?」

 夢羽はそう言い、お店探しを再開した。

---

 いくつかのお店を転々とし、食べ歩きをした。
 夢羽は底知れぬ食欲で、苦もなく普通に食べている。
 私はというと、辛うじて一口食べられるかなという状態で夢羽について回った。
 不思議なことに、行く先々のお店での料金は無料で、デパート全体でキャンペーンをやっているのではと思ってしまう程であった。
 あと気になったのが、食べ物系の店以外全て閉まっているという点だ。
 他の客はそんな事は気にせず、虚ろな目で食べ物の店へとフラフラ近づいている。

「次のお店ー……」
「……夢羽? 大丈夫?」
「……うん。次のお店で食べないとー……」

 夢羽も虚ろな目をしている。

「ちょっと、夢羽? 周りの人の真似しなくてもいいから」

 私は夢羽の前に回り込み、両肩を掴み夢羽を揺らした。

「真似してなんかないよー。正常だよー。次のお店行こー」
「それのどこが正常だよ。食べ歩きはさっきの所で終了だよ。ほら、捜索の方に専念するよ」

 私は夢羽の左腕を掴んで引っ張り、上へ上へと移動した。
 しかし、上へと移動しても天井に近づいている感じがしなく、まだまだ続いている感じがした。

「次のお店着いたー」
「え?」

 それどころか、次の店に無意識に誘い込まれてしまった。

「いや、入らないよ。夢羽、帰るよ!」
「入るの!」

 夢羽は掴んでいる手を容易く振り解き、シュークリーム屋へとフラフラと近づいていた。
 私はその夢羽の両脚を両腕で捕まえた。

「離してー!」

 夢羽はジタバタをしているが、無重力なので振りほどけていない。

「夢羽……やっぱりおかしい……そうだ! タツロウさんに連絡……」

 私はカバンの中から端末を取り出し、タツロウとの通話を開始した。

「お嬢! どうした!?」
「夢羽がおかしくなっちゃった!」
「とりあえず落ち着け。こっちは要救助者1名見つけたが、そいつがずっと食べ物ばっか求めてくる。姉御もそんな感じか?」
「そうそう! 虚ろな目で次の店―って」
「全く同じだな。まあ落ち着いて深呼吸しろ」

 深呼吸をすると落ち着いたので、周囲を見渡してタツロウ達が近くにいるか確認した。

「今どこにいる? 合流した方がいいかなって」
「はい。クレープ屋の近くにいますね」

 タツロウの代わりにサトウが返事をする。

「待って! そのクレープ屋って、巨大クレープ置いてない?」
「えっと……あ、ありますね」
「私達、最初この店から食べ歩きを始めたんだ。何か変わったものはない?」
「そうですね……特に目立ったものは……あ! 看板にいちという字が書かれていますね」

 私と夢羽が入ろうとしているシュークリーム屋の看板にも、十ニという字が書かれていた。
 これってたしか……

「こっちには十ニって数字が書いているね。桜と椛の星にあった鳥居にもこんな数字あったよ」
「お嬢が入隊直後に行ったあの星か」
「……うーん」

 タツロウが話した後、サトウの唸り声が聞こえた。

「どうしたの? そんなに唸って」
「隊長と夢羽さんの反応がないんです」

 うん? 反応?

「反応って何?」
「あれ? 知らないんですか!? 同行している局員同士で通話をすると、位置情報も発信されるんです」
「知らなかった……それなら繋ぎっぱなしがいいのかもしれないね」

 どうやら私達は行方不明、いや、同じ場所にいるのに違う空間にいるから神隠しかな?

「そういえば、なんで私達とタツロウさん達は違う空間にいるの? そっちの要救助者も夢羽と同じなんだよね?」
「そういえばそうだな。だけどこいつが入りたがっている店、壱って書いているクレープ屋だぜ? ここに入ったらお嬢達と同じ空間に行くかもしれん」
「虚ろな目だけど、これから壱の店に入る……考えてもわからないから、とりあえず残りの店にも入ってみるね」
「りょーかい。お嬢はくれぐれも食べ物に気をつけろよ」
「うん、わかったよ。夢羽、お待たせ。行こうか」

 端末の通話をそのままにし、私は夢羽の手を引く。

「待ってました! シュークリームがあたしを待っているー!」

 いつもの夢羽にしか見えないが、やはり違うのだろう。
 引いていた手を逆に引っ張られ、私達はシュークリーム屋の中へと入っていった。
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