53 / 70
【Ⅰ】夢と現の星間郵便 第4章:解放
53 サーキットの星
しおりを挟む
「とりあえず、あれに乗ろうか」
サーキットの中にあるピットビルの中に、数台のレーシングカーが停められていた。
「お、いいねいいね!」
タツロウはわくわくしている様子。
「わ、私はあのビルの中にいます!」
サトウはガタガタ震えながらピットビルを指す。
「あたしは風羽の助手席ね」
「うん。じゃあ、私が運転手だ」
「お嬢! レーシングカーも運転できるんだな! すごいな!」
タツロウが絶賛している。
「いや乗ったことないよ。普通のクルマも、アシストありでしか運転したことないし」
「そうなのか!? 大丈夫か?」
「何とかなりそうな気がするんだよね」
なぜか力が湧いてくる。
ちゃんと寝たからかな?
「風羽なら大丈夫よ。それより、タツローはサトウさんを同乗させた方がいいわ」
「それはどうしてだ? 姉御」
「保険よ」
「保険?」
「え! 私、任意保険じゃないです! 怖くて乗れません!!」
サトウは更にガタガタ震え、涙目になっている。
「そうよね……じゃあこれ助手席に置こう」
ピットビルに着いた私達は、タツロウが乗るクルマを選び、その助手席に夢羽が何かを置いた。
「人形? すごい精巧なのが出てきたね……何で女性?」
「女性になったってことは、子持ちってことでしょ? そしたら、ぶつかってこないかなって」
「……え?」
夢羽は指を差す。
サーキットでは2台のクルマが競い合っているが、コースを見るとコースアウトしているクルマが何台かあるのが見えた。
「あれって、ぶつけられたってことかな?」
「たぶんそうかもしれないわね」
夢の主が運転していると思われるクルマが、もう1台のクルマの右側後輪にぶつかろうとしている。
もう1台のクルマはそれを避け、左側後輪に接触を試みている。
「……あれってレースだよね。バトルじゃないよね」
「ははは! コースアウトさせたら勝ちみたいな勝負してるな!」
タツロウは腰に手を当てて笑い、サトウは両手で顔を覆いチラっと見ている。
「ということで、これでよし。あたし達はあれに乗るよ」
夢羽が指した先に赤いレーシングカーがあったので、それに乗り込んだ。
サトウは、ピットビルの見晴らしの良い所に行ってもらった。
「うわー……普通のクルマと違う」
「普通のクルマってどれの事を言ってるか知らないけど、星間郵便局のクルマはかなり未来のクルマだからね。これが現世のスタイルよ」
夢羽は、外から覗き込む形で運転席を見ている。
「……夢羽が乗った方がいいんじゃない?」
「あたし高校卒業したばかりよ? 若葉マーク貼るレベルなんだけど」
「いや私はそもそも免許すらないけど……」
「まあそうだよね。でもほら、普通に操作してるでしょ」
夢羽に言われた通り、なぜか運転前の準備の仕方がわかる。
ギアはATのようで、アクセルとブレーキのみが足元にあった。
MTだったら、さすがに私でも運転は厳しかったかも……。
助手席に夢羽が乗ってシートベルトをしたのを確認し、エンジンをかけた。
「発進するから、舌噛まないように気をつけて」
「らじゃー」
夢羽の返事を確認し、アクセルを踏んでスピードをあげた。
「……練習中?」
なぜか運転方法を知っているとはいえ、初めて自分で動かすので慎重にアクセルを踏んでしまった。
「これからが本番だよ」
そう言い更にアクセルを踏み込む。
車はどんどんスピードが上がってくる。
「うん、行けそうだ」
「らしいわよ。通信も良好?」
「聞こえるぜ、姉御」
「はい、こちらも聞こえます。見える範囲でサポートしますね」
上を見ると、双眼鏡を持って何かを追っているサトウがいた。
「夢の主はどこにいる?」
「もうすぐでビルの近くです。あ! コースから外れて中に入りました!」
どうやらピットインしたようだ。
目視でも確認できた。
「よし、じゃあ」
と、夢羽が何かを言いかけた瞬間、夢の主のクルマが発進した。
「はや! 追いかけるよ!」
「おうよ!」
「りょーかい!」
アクセルを踏み込む。
タツロウのクルマが前に出る。
そして、夢の主の後ろについた。
「行け行け! スピードが上がっていない今がチャンス!」
「おう! ってもう離された!?」
コースに入った瞬間、夢の主のクルマは瞬く間に走り去っていった。
その後ろから、誰も乗っていないクルマが夢の主を追いかけていく。
「あれは!」
「幽霊か! いや、俺達がそうか。ってことはあれは」
「もしかしたらゲンかも!」
「局長か! 追うぞ!」
私とタツロウは、前方の2台に追いつくために更に加速する。
「前方にカーブがあります!」
サトウからのサポートが聞こえる。
「カーブか! 減速するはずだ!」
「いや、ここは私達も減速するよ!」
「風羽の言う通りよ。減速せずに突っ込んでも、追いつけないどころかあんな感じになっちゃうわよ」
カーブが見えてきた。
曲がり切れなくてコースアウトしたクルマが何台か見えた。
先に夢の主と無人のクルマがカーブを曲がる。
「素直に曲がるぜ!」
「うん」
ブレーキを踏み、カーブを曲がる。
「あ、これ行けるかも」
「うん?」
夢羽が首を傾げると同時に私は、ブレーキを離しハンドルを逆に切り、アクセルを踏んだ。
「うわ!? 風羽何やってるの!? 死ぬよ!」
「大丈夫。任せて!」
タイヤの摩擦音が車内に響く。
「よし! ドリフト成功!」
「ひゅー! お嬢最高だぜ!」
「し、死ぬかと思った……」
「隊長素敵です!」
他のクルマは減速した中、私のクルマだけは速度を維持したままカーブを曲がる事ができたようだ。
前方2台が先にカーブを曲がり切り、すぐ後に私が曲がり切った。
「お嬢が主に近づいたぜ! 俺も直線に入ったから加速だ!」
タツロウもカーブを抜け、スピードを出す。
「次、クネクネ道あります!」
「よしきた! 主に追いつくよ!」
「りょーかい!」
再びカーブが見えてきた。
クネクネ道って言ってたから、複数回曲がらないといけないはず。
私は夢の主に追いつくために、更に加速した。
「また!? またあれやるの!?」
夢羽はカバンから大きなクッションを取り出した。
主と無人クルマがカーブを曲がる。
そして
「曲がる! うおりゃ!」
ブレーキを踏んだ後、ハンドルを切る。
そして、逆に切りアクセルを踏む。
カーブの方向が変わったのでブレーキを踏み、車体の向きをカーブに合わせる。
そしてまたハンドルを逆に切り、アクセルを踏む。
と、クルマの後輪だけ右に左にと振るように、クネクネ道を突破した。
「あ! 主追い越しちゃった!」
「…………ぐは」
直進に入ったのでアクセルを踏み込む。
「夢羽大丈夫?」
「……し、死ぬー」
夢羽はピクピクと動いている。
その時、
「うりゃうりゃ! ノロノロ走ってると邪魔だぞ!」
夢羽に気を取られすぎたのか、後方から2台の車が接近し、そのうち1台の窓が開き、大声で話しかけてきた。
「おーい、事故るぞー」
「うるせー! こうしてやる!」
おそらく夢の主だと思われる人物があっかんべーをした後窓を閉め、右側を並走していたクルマを少し遅くし、後ろに近づいた。
「おっと、そうはさせないぜ?」
タツロウも追いついてきたようで、左側に並走している。
「ちっ! 追いついてみな!」
「はや!」
「まだ速くなるの!?」
夢の主は更に加速し、私達は距離を離された。
サーキットの中にあるピットビルの中に、数台のレーシングカーが停められていた。
「お、いいねいいね!」
タツロウはわくわくしている様子。
「わ、私はあのビルの中にいます!」
サトウはガタガタ震えながらピットビルを指す。
「あたしは風羽の助手席ね」
「うん。じゃあ、私が運転手だ」
「お嬢! レーシングカーも運転できるんだな! すごいな!」
タツロウが絶賛している。
「いや乗ったことないよ。普通のクルマも、アシストありでしか運転したことないし」
「そうなのか!? 大丈夫か?」
「何とかなりそうな気がするんだよね」
なぜか力が湧いてくる。
ちゃんと寝たからかな?
「風羽なら大丈夫よ。それより、タツローはサトウさんを同乗させた方がいいわ」
「それはどうしてだ? 姉御」
「保険よ」
「保険?」
「え! 私、任意保険じゃないです! 怖くて乗れません!!」
サトウは更にガタガタ震え、涙目になっている。
「そうよね……じゃあこれ助手席に置こう」
ピットビルに着いた私達は、タツロウが乗るクルマを選び、その助手席に夢羽が何かを置いた。
「人形? すごい精巧なのが出てきたね……何で女性?」
「女性になったってことは、子持ちってことでしょ? そしたら、ぶつかってこないかなって」
「……え?」
夢羽は指を差す。
サーキットでは2台のクルマが競い合っているが、コースを見るとコースアウトしているクルマが何台かあるのが見えた。
「あれって、ぶつけられたってことかな?」
「たぶんそうかもしれないわね」
夢の主が運転していると思われるクルマが、もう1台のクルマの右側後輪にぶつかろうとしている。
もう1台のクルマはそれを避け、左側後輪に接触を試みている。
「……あれってレースだよね。バトルじゃないよね」
「ははは! コースアウトさせたら勝ちみたいな勝負してるな!」
タツロウは腰に手を当てて笑い、サトウは両手で顔を覆いチラっと見ている。
「ということで、これでよし。あたし達はあれに乗るよ」
夢羽が指した先に赤いレーシングカーがあったので、それに乗り込んだ。
サトウは、ピットビルの見晴らしの良い所に行ってもらった。
「うわー……普通のクルマと違う」
「普通のクルマってどれの事を言ってるか知らないけど、星間郵便局のクルマはかなり未来のクルマだからね。これが現世のスタイルよ」
夢羽は、外から覗き込む形で運転席を見ている。
「……夢羽が乗った方がいいんじゃない?」
「あたし高校卒業したばかりよ? 若葉マーク貼るレベルなんだけど」
「いや私はそもそも免許すらないけど……」
「まあそうだよね。でもほら、普通に操作してるでしょ」
夢羽に言われた通り、なぜか運転前の準備の仕方がわかる。
ギアはATのようで、アクセルとブレーキのみが足元にあった。
MTだったら、さすがに私でも運転は厳しかったかも……。
助手席に夢羽が乗ってシートベルトをしたのを確認し、エンジンをかけた。
「発進するから、舌噛まないように気をつけて」
「らじゃー」
夢羽の返事を確認し、アクセルを踏んでスピードをあげた。
「……練習中?」
なぜか運転方法を知っているとはいえ、初めて自分で動かすので慎重にアクセルを踏んでしまった。
「これからが本番だよ」
そう言い更にアクセルを踏み込む。
車はどんどんスピードが上がってくる。
「うん、行けそうだ」
「らしいわよ。通信も良好?」
「聞こえるぜ、姉御」
「はい、こちらも聞こえます。見える範囲でサポートしますね」
上を見ると、双眼鏡を持って何かを追っているサトウがいた。
「夢の主はどこにいる?」
「もうすぐでビルの近くです。あ! コースから外れて中に入りました!」
どうやらピットインしたようだ。
目視でも確認できた。
「よし、じゃあ」
と、夢羽が何かを言いかけた瞬間、夢の主のクルマが発進した。
「はや! 追いかけるよ!」
「おうよ!」
「りょーかい!」
アクセルを踏み込む。
タツロウのクルマが前に出る。
そして、夢の主の後ろについた。
「行け行け! スピードが上がっていない今がチャンス!」
「おう! ってもう離された!?」
コースに入った瞬間、夢の主のクルマは瞬く間に走り去っていった。
その後ろから、誰も乗っていないクルマが夢の主を追いかけていく。
「あれは!」
「幽霊か! いや、俺達がそうか。ってことはあれは」
「もしかしたらゲンかも!」
「局長か! 追うぞ!」
私とタツロウは、前方の2台に追いつくために更に加速する。
「前方にカーブがあります!」
サトウからのサポートが聞こえる。
「カーブか! 減速するはずだ!」
「いや、ここは私達も減速するよ!」
「風羽の言う通りよ。減速せずに突っ込んでも、追いつけないどころかあんな感じになっちゃうわよ」
カーブが見えてきた。
曲がり切れなくてコースアウトしたクルマが何台か見えた。
先に夢の主と無人のクルマがカーブを曲がる。
「素直に曲がるぜ!」
「うん」
ブレーキを踏み、カーブを曲がる。
「あ、これ行けるかも」
「うん?」
夢羽が首を傾げると同時に私は、ブレーキを離しハンドルを逆に切り、アクセルを踏んだ。
「うわ!? 風羽何やってるの!? 死ぬよ!」
「大丈夫。任せて!」
タイヤの摩擦音が車内に響く。
「よし! ドリフト成功!」
「ひゅー! お嬢最高だぜ!」
「し、死ぬかと思った……」
「隊長素敵です!」
他のクルマは減速した中、私のクルマだけは速度を維持したままカーブを曲がる事ができたようだ。
前方2台が先にカーブを曲がり切り、すぐ後に私が曲がり切った。
「お嬢が主に近づいたぜ! 俺も直線に入ったから加速だ!」
タツロウもカーブを抜け、スピードを出す。
「次、クネクネ道あります!」
「よしきた! 主に追いつくよ!」
「りょーかい!」
再びカーブが見えてきた。
クネクネ道って言ってたから、複数回曲がらないといけないはず。
私は夢の主に追いつくために、更に加速した。
「また!? またあれやるの!?」
夢羽はカバンから大きなクッションを取り出した。
主と無人クルマがカーブを曲がる。
そして
「曲がる! うおりゃ!」
ブレーキを踏んだ後、ハンドルを切る。
そして、逆に切りアクセルを踏む。
カーブの方向が変わったのでブレーキを踏み、車体の向きをカーブに合わせる。
そしてまたハンドルを逆に切り、アクセルを踏む。
と、クルマの後輪だけ右に左にと振るように、クネクネ道を突破した。
「あ! 主追い越しちゃった!」
「…………ぐは」
直進に入ったのでアクセルを踏み込む。
「夢羽大丈夫?」
「……し、死ぬー」
夢羽はピクピクと動いている。
その時、
「うりゃうりゃ! ノロノロ走ってると邪魔だぞ!」
夢羽に気を取られすぎたのか、後方から2台の車が接近し、そのうち1台の窓が開き、大声で話しかけてきた。
「おーい、事故るぞー」
「うるせー! こうしてやる!」
おそらく夢の主だと思われる人物があっかんべーをした後窓を閉め、右側を並走していたクルマを少し遅くし、後ろに近づいた。
「おっと、そうはさせないぜ?」
タツロウも追いついてきたようで、左側に並走している。
「ちっ! 追いついてみな!」
「はや!」
「まだ速くなるの!?」
夢の主は更に加速し、私達は距離を離された。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる