夢現新星譚

富南

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【Ⅰ】夢と現の星間郵便 第3章:狂った時間と狂わせる科学

37 終わらない夏祭り①

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 何かがおかしい。
 私はたしか、この星で狂人と戦っていたはず……。
 だけど目の前には平和な夏祭り会場があり、お祭りを楽しんでいる人達で賑わっている。

 タツロウと夢羽もまた、出店を目指して走っていった。

「……タツロウと夢羽は違和感を感じていない?」

 2人の後を追いながら様子を伺う。
 違和感を感じている様子はない。

「お嬢! このたこ焼き美味いぜ!」
「う、うん」
「どうした? せっかくのお祭りだ。楽しまないと損だぜ?」
「そうだね……」

 タツロウは首を傾げるが、気に留める事なく黙々と出店の食べ物を食べている。

「風羽! このわたあめ美味しいわよ!」
「う、うん」
「どうしたの? お腹でも壊した?」

 夢羽は私の周りをぐるぐると周る。

「あ! いつの間に怪我なんかしたのよ!」
「え?」

 夢羽が見ている所に視線を移す。
 そこには、救助した局員に切られた怪我があった。

「……え? どうして?」

 屈んで足首の怪我を触る。
 テープで切り傷を塞いだが、まだズキズキしている。

「さっき付けられた傷だ……」
「え! いつ!? 風羽にこんな事するの誰よ!」

 夢羽は、手に持っているわたあめを一口で食べ、シャドーボクシングを始めた。

「いや、近くにはいないはず……何してるの夢羽」
「とっちめようと思って」

 シュッシュッとか言いながら警戒している夢羽。

「大丈夫だよ。怪我させた人にはちゃんと叱っておいたから」
「そうなのね。ちゃんと処置もしてあるし、しばらくしたら治ると思うわ」
「うん、ありがとう。それより夢羽、気になる事があるんだけどいい?」

 出店の前を歩きながら話題を変える。

「どうしたの?」

 夢羽は焼きそばを2つ貰い、1つ渡してくれたので受け取った。

「この夢の星、ループしている気がする」
「……またまたー」

 そう言い、焼きそばを一口食べた。

「いやいや。冗談じゃないって。この怪我も前のループで付けられたんだよ」

 足首を指してアピールする。

「んー……たしかに。この星に降りてきて、風羽が誰かと接触しているの見てないもんね……」
「でしょでしょ? タツロウさんも呼んでから、あの丘に行きましょう。そこに怪我している局員がいるから」

 私は奥の丘を指した。
 狼煙が立ち上がっているが、煙が薄くなってきている。

「うん? どうした、奥の方なんか指して……」
「あ、タツロウさん。あそこに怪我している局員がいるから行こう」
「……あれはだいぶ時間が経った狼煙だな。もう救助されたんじゃないか? ……って、救助しにきたのは俺達か」

 そう言いながら気になったのか、丘の方へと向かい始めた。
 私は手に持っている焼きそばの弁当を、カバンの中に入れる。
 丘の階段を上がり、木の根本まで来た。
 そこには、

「本当にいたわ……」
「だいぶ衰弱しているな。おい、しっかりしろ! お嬢、クルマを呼んでこれを屋根に付けてくれ」

 タツロウは取り付け型赤色灯をカバンから出してきた。
 私はレンタカーを呼び、それを取り付けた。

「救助者を乗せて、自動運転のセット。これでよし」

 私とタツロウがクルマから離れると、赤色灯が光り、そしてあっという間に星の外へと出て行った。

「ちゃんと外に出られるのかな……」
「うん? 出て行ったじゃないか」
「それが……」

 タツロウにもこの星がループしている事を伝えた。

「……信じ難いが、お嬢が嘘をつくわけないしな。それにその怪我、突然出てきた感じだったから不思議だったんだよな」
「え? 見てたんだ……てか、先に言ってよ」
「ははは、すまんすまん」

 タツロウは自分の頭を触る。
 細かい所まで見ているんだな。意外だなって思ったけど、よく考えたら副隊長だしな。

「なんか失礼な事を思われている気がするが、いいか。それより、これから何が起きるんだ? どれくらい時間ある?」
「もうそんなに無いよ。このループでできる事は、2人に怪我をしてもらうくらいかな?」

 私がそう言うと、夢羽とタツロウは驚いた顔をした後、首を傾げた。

「いやだって、私だってこの星がループしているって知らなかったんだけど、さっきの局員に怪我させられたから記憶が保持されたわけだしね」

 自分の足首の怪我を指す。

「あ? あの野郎、俺等のお嬢に手を出しやがったのか!」
「風羽を傷物にした報い、つぐなわさせますわ!」
「そうだな! 警察隊に連絡して指名手配だ!」
「いやなんで2人意気投合しているのさ!」

 私は2人を落ち着かせる。

「うん? ……お嬢が2人!?」
「ん? ……やっほー」

 夢羽は、隣のタツロウに手を振って挨拶をしている。

「いや挨拶している時間ないってば! とりあえず、2人にはちょっとチクっとしてもらうよ」
「そうだな……お嬢2号の件は後で聞くことにする」
「お嬢2号!? あたしは夢羽よ!」
「ムウお嬢はこっちだ。2号お嬢」
「はい! 2人共、手を出す!」

 口論を始めようとしている2人の手を取り、念の為にアルコール消毒をした安全ピンを刺した。

「ったぁ! 容赦ねーな、お嬢」
「あいた! 心の準備くらいさせてよね、風羽」
「だから時間が無いってば! ほら!」

 丘の下を見ると、既に狂人達が祭りを楽しんでいた人々を襲い始めていた。

「なんじゃこりゃ!! どうなってるんだ!?」
「これってゲームの星の狂人よね?」
「まあ別物かもしれないし、同じかもしれないし、とりあえずこれに夢の主が襲われてループしている気がする」
「気がするってどういうことだ?」

 タツロウは銃を抜き、残弾の確認をし、私を見る。

「私がループしているって気づいたの、今回が初めてだからね」
「なるほど……」
「夢の主はどんな感じに襲われていたの?」

 夢羽は私の横に立ち、何か両手でねながら私を見る。

「助けに行った後、夢の主が狂人に押し潰されたって感じかな。その後に元に戻ってたから、そうかも」

 私は奥の出店を指す。
 そこに、狂人がどんどん集まっているように見えた。

「あっちに夢の主がいる」
「銃声が聞こえるな」
「今助けに行かないの?」

 夢羽はすごく心配そうな顔をしている。

「今回は残念だけど、向かっている途中で次のループに行くかも」
「そうなんだ……じゃあ、今のうちに救出作戦立てないとね!」

 私は現在の装備と狂人の習性を話す。
 タツロウも所持している装備を話す。

「んで、夢羽はさっきから何をしているの?」

 夢羽はずっと、両手を握ってこねこねしている。

「ん? これ? 必要かなって思ってね。ほい、作ったよ。足りないだろうから、どんどん作るね」

 渡されたのは、

「手榴弾じゃん! まじで物が作れるとか、夢羽何者……」
「すげーな……てかこれ本物か?」

 夢羽から手榴弾を渡されたので、慎重に受け取る。
 タツロウはそれをまじまじと見ている。

「これで2度目だからわかるんだけど、これ本物だからね」

 私がそう言うと、触ろうとしていたタツロウがかなり後ろに引いた。

「これ抜かないと爆発しないのは、普通の手榴弾と一緒だからね」

 それを聞き、タツロウはホッとして近づいてくる。
 と、その時

「あ、あれ!」

 狂人の群れが一箇所に集まり始めた。
 そして

「……戻ったね」
「俺が体験したのと似ているな……」
「これは……」

 少し違う気がするが、2人共驚いている様子。

「さて……作戦開始だよ」

 私は手榴弾のピンを抜いて、上に投げた。
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