夢現新星譚

富南

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【Ⅰ】夢と現の星間郵便 第3章:狂った時間と狂わせる科学

36 夏祭りの星②

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 私は、タツロウの誘いで不思議探しの旅に出ている。
 その1件目の夢の星が、この夏祭りの星だ。
 この星に降りて早々、タツロウと夢羽は出店を目指して走っていった。

「こんな所に要救助対象者がいるのかな? 何かの間違いな気がするけど……」

 周囲を見渡すが、現世の日本の祭りと同じで平和そのものだ。

「お嬢! このたこ焼き美味いぜ!」

 そう言いながら戻ってくるタツロウ。
 差し出された2本目の爪楊枝にたこ焼きが刺さっていたので、受け取りいただいた。

「うん、美味しいね」
「風羽! このわたあめ美味しいわよ!」

 今度は夢羽がわたあめを持って飛んできた。
 差し出してきたので、少しだけいただいた。

「うん、美味しいね……(って、夢羽どうやって買ったん?)」
「普通に貰ったよー」

 あ、買わないんだ。そこは夢って感じだね。
 よく見ると、たしかに他の人もお金を渡さず食べ物などを受け取っている。

「うま! この焼き鳥うま!」

 タツロウはまた別の物を貰ってきたようで、食べて感想を呟いて食べてを繰り返している。

「タツロウさん、食べてばっかりだね……」

 美味しそうに焼き鳥を食べているタツロウの姿を見ながら苦笑する私。

「この焼きそばも美味しいわよ!」

 夢羽もまた別の物を貰って戻ってきた。

「(夢羽も食べてるけど、それ浮いてないの?)」

 焼きそばの容器を指す。

「お嬢も食え! 美味いぞ!」

 焼き鳥を1本差し出すタツロウ。

「風羽も食べたらいいのに。美味しいよ! あと見えないっぽいね」

 焼きそばを食べさせようとしてくる夢羽。

「食べてるけど……(たしかにタツロウさんだけには見えてないね)」

 既に焼きそばを持っていたので夢羽の物は遠慮し、タツロウの焼き鳥を受け取る。

「ここが最近噂の夏祭りの星よね……」
「賑やかだな。ここのどこに救助対象者がいるんだろうな」

 そう言いながら祭りを楽しんでいるタツロウ。

「ねえ風羽。さっきから悲鳴が聞こえるんだけど、ここって絶叫マシーンでもあるの?」
「あー……悲鳴、聞こえるね……。祭り会場に絶叫マシーンはないと思うんだけどな……」
「悲鳴? よく聞いたらたしかに前から……っと、あれが悲鳴の出所みたいだぜ」

 前に人だかりがある。野次馬か何かだろうか?
 私はその人だかりを見た後、奥にある丘に目が行った。

「!! タツロウさん、奥の丘に救難狼煙!」
「うん? ……まじだ! 急ぐぞ」

 目の前の人だかりをスルーし、急いで奥の丘へと走った。
 丘は見晴らしが良いが急斜面になっていて、登りづらい構造になっていた。
 一箇所だけ階段があり、袋小路になっている。
 まるで自然の要塞だ。

「救助対象者は……」
「風羽! こっちにいるわ!」

 夢羽が木の根本にいたので、私はそこに近づいた。
 そこには、局員の制服を着た男性がぐったりとしていた。
 身体の見える箇所を確認すると、歯形のような物があった。
 また、誰かの手当を受けた後も見られた。

「タツロウさん! こっちです!」

 後から来たタツロウが私を探しているようだったので、手招きをする。

「ここだったか。どれどれ……こりゃひどいな。でも、さすがお嬢。応急処置は完璧だ」

 タツロウは手当の箇所を確認した後に、私に向けてサムズアップをした。

「え? これ、自分自身でやった物じゃないの?」
「ん? お嬢がやった物じゃないのか?」
「うん」

 タツロウは再度、手当の箇所を確認している。

「これ、救助隊が独自に使用しているやり方だぜ。自分自身でできる方法ではないな」

 応急処置でのテープの使い方や包帯の巻き方など、どんな所が救急隊独自の物なのか教えてくれた。

「じゃあ誰が……うん?」

 丘の下が騒がしくなってきた。
 祭りを楽しんでいる感じではなく、悲鳴とかが増えてきている。

「ねえ風羽。あれ、ゲームの星にいた狂人と似ていない?」

 夢羽が指した所に、酔っぱらいのような動きをしている人がいた。
 その人は逃げようとした人に飛びかかり、そして噛みついた。

「タツロウさん。この方の処置が終わっているのであれば、後は救助を待つだけだよね?」
「そうだな……うん? お嬢! 助けに行くのか?」

 タツロウは立ち上がり、丘の下を見た。

「うん。見過ごせないからね」
「さすがお嬢! お供するぜ!」

 私は銃を抜き、丘を滑り降りようとした。
 その時、

「うわ!?」

 突然誰かに足を捕まえられた。
 そんな私に気づかず、タツロウと夢羽は先に下に降りていった。

 私は転びそうになったのをギリギリで耐え、そして後ろに視線を移した。
 そこには、

「……1回目の君は狼煙を上げて少し手当をして、2回目の君は残りの傷を手当した。2回目と3回目の君は僕の事を憶えていない。僕と君の違いは何?」

 ぐったりしていたはずの男性局員が私の足を握っていた。

「え? 何を言ってるの? 助けに行かないとだから、その手を離して!」

 振りほどこうとするが、怪我人と思えない程の力で足首を握られている。

「ちょっと……痛いんですけど!」

 私がそう言うと、局員は何かに気づいた様子を見せ、そして空いている手をポケットに入れたのちにすぐに出し、その手を足首に近づけた。

 そして、足首に激痛が走った。

「痛い!! 何すんの!!」

 さっきより強い力で振りほどこうとしたら、男はうつ伏せのままぐったりとした。

「痛いなーもう……ざっくり切れちゃってるし……何だったんだ?」

 傷口から魂が漏れ出ないように開いた切り傷を縫合ほうごう用テープでくっつけ、その上から大きい絆創膏ばんそうこうを貼った。

「これでよし……大した怪我ではないし、大目に見てあげる」

 うつ伏せに倒れていた局員を仰向けにし、そのまま丘を滑り降りた。

「風羽、どうかしたの?」

 私がいない事に気づいたのか、夢羽が飛んで戻ってきた。

「ううん、大丈夫だよ。ちょっと転んだだけ」
「そうだったの……気をつけてね」

 夢羽はそう言うと、またタツロウの見える位置へと戻った。

「さて、狂人共を減らして行きますか!」

 再び銃をホルスターから抜き、狂人の頭を撃ち抜く。
 そしてナイフも抜き、それで狂人の頭を裂いた。

「お嬢! 大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。それより、あっちの方から銃声が聞こえない?」
「……そう言われてみれば聞こえるな」
「囲まれる前にあっちに行こう」
「りょーかい」

 私とタツロウは抜け道を作るために、障害になる狂人だけを狙い、道を作った。
 出店のテントを二張り抜けると、そこにも狂人の群れがあった。

「加勢する!」

 タツロウは狂人を蹴散らしていく。
 私も狂人をどんどん減らしていった。
 そして、

「あ! やっと助かる!」

 相手にも私達が見えたようで、ちょっと安心したような顔をした。

「風羽! やばいわ!」
「え?」
「うわああああああ!!!!」

 その囲まれていた人の攻撃が緩んだからか、狂人の数が増えたからかわからないが、助けようとしていた人が狂人に押し潰され、見えなくなった。
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