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第2択
危険な選択
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授業が終了すると、詩奈は俺を誘って進みだす。俺は他の知り合いと会わないかと下を向いて歩く。
「そんなに嫌ならイメチェンなんてしなければいいのに」
「……」
「大丈夫、憲司とウーバーは2人してパチンコ屋さん行っているみたい。ムラッセと緒方は……彼らは卒業までバイトに勤しんで学校に来ないかもね」
「優衣は?」
「そんなに気になる?」
すっとぼけた表情をした詩奈はクスリと微笑み、なおも俺の前を進んだ。彼女が連れてきたのは、4面のテニスコートがある敷地だった。
直ぐに俺は、テニスサークルに加入している優衣の姿を思い浮かべた。実際に、Cコートと呼ばれている3つ目のテニスコートに彼女の姿はあった。少し距離が離れており、俺が物陰に身を潜めたのでバレてはいないはずだ。
季節は梅雨が抜けて本格的に真夏に向かおうとしている。間もなく夏休みに入ろうとしているところで、黒Tシャツを身に付けていた詩奈はパタパタと指で摘まみながら、体内に新鮮な空気を取り入れる。
「私ね、優衣が嫌いなの」
「は?」
突然の告白に驚きというよりも、理解に追いつけず頭がパニックになったと言ったほうがいいかもしれない。
「ごめん、ちょっと言い方が違うかも。超絶に大っ嫌いなの」
「……まじかよ。でも、2人は高校からの親友なんじゃ」
「アイツが言っているだけよ。そもそも、私は1人でこの大学に来る気だったのに、アイツが真似なんかするから。私の後追いのクセに、いつもいつもいつもいつもいつも――!」
なんだなんだ! 俺の知っている詩奈とは程遠い、憎悪に塗れた女性が目の前にいる。彼女の圧に迫力があるからなのか、俺は恐怖して言葉を挟み込む勇気が持てなかった。
「優衣は美人でしょ? その上、賢いしスポーツも得意。性格が最悪なら救いはあったんだけど、友達想いで清純そのもの。うん、絵に描いたようなヒロインって表現するのが合っているかも。で、私が好きになった人を次々に射止めていくの。勿論、ヒロインだから悪気はないんだけどね。でも、悪気がないってタチが悪いと思わない? だからね、俊介に穢されそうになったと聞いて、”惜しい”って思ったの」
隣でペラペラと喋っている女は誰だ? 俺はとてもじゃないが彼女の顔を見ることが出来ずに地に視線を落としていた。
すると、逃げていた俺の視線に合わせ、彼女の顔が下から覗くように飛び込んでくる。口の端は大きく引き上げられ、目を大きくしながら不気味な笑みを向ける彼女に、俺は「わっ!」と、ビビッて腰を抜かした。
「私は俊介が好きよ。だから、複雑なの。優衣を襲って彼女を傷つけてくれるのは嬉しいけど、貴方の愛がアイツに向けられているのは嫌。私、とってもワガママなの。優衣の人生を狂わせたいし、貴方も欲しい。――お願い、私と一緒に優衣を壊そ? もし断ったら、ね? 分かっているでしょ」
なんて返すのが正解なんだっ……!
俺は言葉を必死に探した。だけど、とても正常だと思えない彼女を前に正しい言葉なんて果たしてあるのだろうか?
【詩奈を口封じする】
【承諾する】
【断る】
【考える時間をもらう】
そりゃあそうだ。このタイミングで≪悪魔の脳≫が出ないわけがない。
この選択肢の中で最も良心的なのが【考える時間をもらう】であるが、これを選んだところで先延ばし程度にしかならず、3択に決するのは目に見えている。
口封じというのはつまり――そういうことなのか?
俺の推測が正しければ、それはつまり、詩奈を殺害するということ。
(やめてくれ、犯罪者だなんてゴメンだ!)
「わかった、協力する。ただし、俺とお前は共犯だ。絶対に裏切るなよ」
「もうっ、信頼がないなあ。言ったでしょ? 私は俊介が好きなの。好きな人を陥れたくない乙女心分からないかな?」
「人を陥れるのに乙女もくそもあるもんか」
はい、ここまでのセリフが全て無我の意思によって吐き出されたセリフである。わずか1分ほどであろうか。と、俺は冷静に分析をしていた。なんせ、この間の行動はすべて勝手に動くのだから、暇を持て余した俺は考えることに特化することができるわけだ。
選択権が戻ってくるまでに最低1分はかかるということか。今までは意識していなかっただけに、ちゃんとした時間を測り損ねている。それに――。
「あーやっぱりさっきの話は違って――」
「え?」
なるほど。選択権が戻ってきさえすれば、過去の選択を打ち消す可能性もあるということか。いや、これはまだ確定事項ではない。なんせ、この状況で「やっぱり無し」だなんてことを言えば、詩奈の怒りを買うことになる。
「共犯という言い方をすると犯罪者っぽいから、やっぱり、うん」
「ははっ、そんなことを気にしたの。じゃあ、単純に協力者ってことにしよ」
ふぅ。なんとか誤魔化しは利いた。選択権が戻ってきた後の行動についても、今後、実験していく必要があるなと頭の中でメモをした。
▽
状況が良くなったわけではない。むしろ、優衣を標的にしてしまった上に、詩奈という協力者がいることで行動の決定が難しくなってしまった。このままでは、本当に優衣に酷い仕打ちをしてしまうことになってしまう。
いっそのこと、俺が冤罪を被れば丸く収まったのか? いや、それは偽善だ。俺はやはり優衣にしたことを誰にも知られたくはないし、広められることを恐れている。願わくば、優衣と詩奈には墓場まで持って行ってほしいぐらいだ。
最悪な方向に人生は着実に進んでいることには違いない。
「別に私は優衣を殺そうだなんて言っているんじゃないの」
「当然だ」
「彼女の自慢を奪いたい。ただ、それだけで十分」
「優衣の自慢?」
こんなモラルに欠けた会話を聞かれるわけにもいかないし、かといって詩奈の家は大学の女子寮で俺は入ることができない。当然、俺はカラオケボックスや人の居ない公園などを提案したが、彼女は却下。
「俊介の部屋にあげてよ」
と、実家であることに断りを入れたが、詩奈は折れなかった。優衣の件で脅されては、俺には拒否することができなかった。
家族は他人を家に上げるのを嫌うような人種ではない。むしろ、恋人を連れてこようものなら、隙あらばと部屋の様子を覗きにやってくる。そういった節操のなさが発揮されるので、できるだけ女性を連れ込みたくはなかった。とはいえ、今までは碌に恋人も作ったことがなかったので、女性を上げるのは初めてだったりする。
いの一番で食いつく茜には絶賛距離を置かれていたので、詩奈を家に上げたときにテンションを上げたのはお袋だけであった。なお、親父は飲み会で遅くなるとのことだったので家にはいない。
俺はお袋から逃げるように、詩奈の腕を引っ張って2階の自室に飛び込んだ。
「お母さん、明るい人だね」
「どこの家もあんなもんだろ」
「私の家は違ったよ」
「んあ?」
「あっ、この辺にエッチな本とか隠してるのかな?」
と、詩奈は本棚の本を引っ張ってから、あちこちと見回す。
「今時、エロ本だなんて古いだろ」
「あー、ネットかぁ」
「無料のな。で、詩奈の親はどんな感じの人?」
「……負の塊だったよ。母はずっと泣いていたし、父はずっと怒っていたし」
「それはなんというか……」
「気にしないで。だから実家を飛び出して1人暮らしを始めたの。お母さんには申し訳ないけど、あの父親から逃げられた私は快適に過ごしているの。ま、逃げられない母自身の責任なんだから、申し訳ないって気持ちなんて本当は無いんだけどね」
ああ、やっぱり詩奈は歪んだ心の持ち主のようだ。数日前までは気さくで優しい印象であったのが、今ではすっかり悪魔を飼いならした魔女のような印象である。
「で、お前は優衣をどうしたいんだ?」
「色々と考えたの。彼女の大切なものとは何か? 家族、友人? まあ、そこらへんを殺せば心に大きな穴を開けてくれるかもね。あるいは親友だと思っていた私に酷い仕打ちをされるとかね。でもね、私は加害者として当事者に回りたくないの。彼女が苦しむところを支えるフリをして傍にいたいの」
こんなにも饒舌に喋る詩奈を見るのは決して初めてでないはずなのに、まるで別人格の人間を目に映しているようだ。
「殺人は美しくないな。うん、本人を殺してもつまらないだけだし、家族や友人を殺すのも違う。だって、その人たちに恨みはないもの。だからやっぱり、本人だけが被害を被るものがいい。なおかつ、彼女の大切なもの。あ~ん、それが何か見つけちゃった!」
≪悪魔の脳≫だなんて言っていた俺が可愛いぐらいに思えてきやがる。本物の悪魔は目の前に実在しているではないか。なにを閃いたか知らないが、恍惚となった顔の彼女におぞましさを感じた俺は、皮膚に粟が立つ。
「顔、顔、顔! あの女が自慢にしている美貌を奪ってやるの! あの顔を潰して、醜い顔にするの! そうしたら誰も殺さず、彼女だけが被害を受けて苦しむことになる。ウフフフフ、ね、俊介、名案でしょ?」
彼女の目は狂乱の境地にあり、興奮のあまりに涎を口の端からタラリと糸を引かせて落とす。そんな顔で近付いてこられた日には、俺は血の気の引いた顔で怯えるしかなかった。
ドン!
物音。それは壁を挟んで隣の部屋からだ。
(やばいっ! 茜の耳に先程の会話聞が届いてしまっていたのだ!)
「あはーん。俊介の妹ちゃんに挨拶するの忘れていたね。うん、ちゃんと挨拶はしないとね」
情けないことに俺は恐怖で動くことも声を出すこともできなかった。詩奈は俺の部屋の扉を開けて廊下に出て行く。
おい、茜に何をする気だ!
やめろ、やめろ!
茜、逃げろ! 今すぐ、そこから逃げろ!
「そんなに嫌ならイメチェンなんてしなければいいのに」
「……」
「大丈夫、憲司とウーバーは2人してパチンコ屋さん行っているみたい。ムラッセと緒方は……彼らは卒業までバイトに勤しんで学校に来ないかもね」
「優衣は?」
「そんなに気になる?」
すっとぼけた表情をした詩奈はクスリと微笑み、なおも俺の前を進んだ。彼女が連れてきたのは、4面のテニスコートがある敷地だった。
直ぐに俺は、テニスサークルに加入している優衣の姿を思い浮かべた。実際に、Cコートと呼ばれている3つ目のテニスコートに彼女の姿はあった。少し距離が離れており、俺が物陰に身を潜めたのでバレてはいないはずだ。
季節は梅雨が抜けて本格的に真夏に向かおうとしている。間もなく夏休みに入ろうとしているところで、黒Tシャツを身に付けていた詩奈はパタパタと指で摘まみながら、体内に新鮮な空気を取り入れる。
「私ね、優衣が嫌いなの」
「は?」
突然の告白に驚きというよりも、理解に追いつけず頭がパニックになったと言ったほうがいいかもしれない。
「ごめん、ちょっと言い方が違うかも。超絶に大っ嫌いなの」
「……まじかよ。でも、2人は高校からの親友なんじゃ」
「アイツが言っているだけよ。そもそも、私は1人でこの大学に来る気だったのに、アイツが真似なんかするから。私の後追いのクセに、いつもいつもいつもいつもいつも――!」
なんだなんだ! 俺の知っている詩奈とは程遠い、憎悪に塗れた女性が目の前にいる。彼女の圧に迫力があるからなのか、俺は恐怖して言葉を挟み込む勇気が持てなかった。
「優衣は美人でしょ? その上、賢いしスポーツも得意。性格が最悪なら救いはあったんだけど、友達想いで清純そのもの。うん、絵に描いたようなヒロインって表現するのが合っているかも。で、私が好きになった人を次々に射止めていくの。勿論、ヒロインだから悪気はないんだけどね。でも、悪気がないってタチが悪いと思わない? だからね、俊介に穢されそうになったと聞いて、”惜しい”って思ったの」
隣でペラペラと喋っている女は誰だ? 俺はとてもじゃないが彼女の顔を見ることが出来ずに地に視線を落としていた。
すると、逃げていた俺の視線に合わせ、彼女の顔が下から覗くように飛び込んでくる。口の端は大きく引き上げられ、目を大きくしながら不気味な笑みを向ける彼女に、俺は「わっ!」と、ビビッて腰を抜かした。
「私は俊介が好きよ。だから、複雑なの。優衣を襲って彼女を傷つけてくれるのは嬉しいけど、貴方の愛がアイツに向けられているのは嫌。私、とってもワガママなの。優衣の人生を狂わせたいし、貴方も欲しい。――お願い、私と一緒に優衣を壊そ? もし断ったら、ね? 分かっているでしょ」
なんて返すのが正解なんだっ……!
俺は言葉を必死に探した。だけど、とても正常だと思えない彼女を前に正しい言葉なんて果たしてあるのだろうか?
【詩奈を口封じする】
【承諾する】
【断る】
【考える時間をもらう】
そりゃあそうだ。このタイミングで≪悪魔の脳≫が出ないわけがない。
この選択肢の中で最も良心的なのが【考える時間をもらう】であるが、これを選んだところで先延ばし程度にしかならず、3択に決するのは目に見えている。
口封じというのはつまり――そういうことなのか?
俺の推測が正しければ、それはつまり、詩奈を殺害するということ。
(やめてくれ、犯罪者だなんてゴメンだ!)
「わかった、協力する。ただし、俺とお前は共犯だ。絶対に裏切るなよ」
「もうっ、信頼がないなあ。言ったでしょ? 私は俊介が好きなの。好きな人を陥れたくない乙女心分からないかな?」
「人を陥れるのに乙女もくそもあるもんか」
はい、ここまでのセリフが全て無我の意思によって吐き出されたセリフである。わずか1分ほどであろうか。と、俺は冷静に分析をしていた。なんせ、この間の行動はすべて勝手に動くのだから、暇を持て余した俺は考えることに特化することができるわけだ。
選択権が戻ってくるまでに最低1分はかかるということか。今までは意識していなかっただけに、ちゃんとした時間を測り損ねている。それに――。
「あーやっぱりさっきの話は違って――」
「え?」
なるほど。選択権が戻ってきさえすれば、過去の選択を打ち消す可能性もあるということか。いや、これはまだ確定事項ではない。なんせ、この状況で「やっぱり無し」だなんてことを言えば、詩奈の怒りを買うことになる。
「共犯という言い方をすると犯罪者っぽいから、やっぱり、うん」
「ははっ、そんなことを気にしたの。じゃあ、単純に協力者ってことにしよ」
ふぅ。なんとか誤魔化しは利いた。選択権が戻ってきた後の行動についても、今後、実験していく必要があるなと頭の中でメモをした。
▽
状況が良くなったわけではない。むしろ、優衣を標的にしてしまった上に、詩奈という協力者がいることで行動の決定が難しくなってしまった。このままでは、本当に優衣に酷い仕打ちをしてしまうことになってしまう。
いっそのこと、俺が冤罪を被れば丸く収まったのか? いや、それは偽善だ。俺はやはり優衣にしたことを誰にも知られたくはないし、広められることを恐れている。願わくば、優衣と詩奈には墓場まで持って行ってほしいぐらいだ。
最悪な方向に人生は着実に進んでいることには違いない。
「別に私は優衣を殺そうだなんて言っているんじゃないの」
「当然だ」
「彼女の自慢を奪いたい。ただ、それだけで十分」
「優衣の自慢?」
こんなモラルに欠けた会話を聞かれるわけにもいかないし、かといって詩奈の家は大学の女子寮で俺は入ることができない。当然、俺はカラオケボックスや人の居ない公園などを提案したが、彼女は却下。
「俊介の部屋にあげてよ」
と、実家であることに断りを入れたが、詩奈は折れなかった。優衣の件で脅されては、俺には拒否することができなかった。
家族は他人を家に上げるのを嫌うような人種ではない。むしろ、恋人を連れてこようものなら、隙あらばと部屋の様子を覗きにやってくる。そういった節操のなさが発揮されるので、できるだけ女性を連れ込みたくはなかった。とはいえ、今までは碌に恋人も作ったことがなかったので、女性を上げるのは初めてだったりする。
いの一番で食いつく茜には絶賛距離を置かれていたので、詩奈を家に上げたときにテンションを上げたのはお袋だけであった。なお、親父は飲み会で遅くなるとのことだったので家にはいない。
俺はお袋から逃げるように、詩奈の腕を引っ張って2階の自室に飛び込んだ。
「お母さん、明るい人だね」
「どこの家もあんなもんだろ」
「私の家は違ったよ」
「んあ?」
「あっ、この辺にエッチな本とか隠してるのかな?」
と、詩奈は本棚の本を引っ張ってから、あちこちと見回す。
「今時、エロ本だなんて古いだろ」
「あー、ネットかぁ」
「無料のな。で、詩奈の親はどんな感じの人?」
「……負の塊だったよ。母はずっと泣いていたし、父はずっと怒っていたし」
「それはなんというか……」
「気にしないで。だから実家を飛び出して1人暮らしを始めたの。お母さんには申し訳ないけど、あの父親から逃げられた私は快適に過ごしているの。ま、逃げられない母自身の責任なんだから、申し訳ないって気持ちなんて本当は無いんだけどね」
ああ、やっぱり詩奈は歪んだ心の持ち主のようだ。数日前までは気さくで優しい印象であったのが、今ではすっかり悪魔を飼いならした魔女のような印象である。
「で、お前は優衣をどうしたいんだ?」
「色々と考えたの。彼女の大切なものとは何か? 家族、友人? まあ、そこらへんを殺せば心に大きな穴を開けてくれるかもね。あるいは親友だと思っていた私に酷い仕打ちをされるとかね。でもね、私は加害者として当事者に回りたくないの。彼女が苦しむところを支えるフリをして傍にいたいの」
こんなにも饒舌に喋る詩奈を見るのは決して初めてでないはずなのに、まるで別人格の人間を目に映しているようだ。
「殺人は美しくないな。うん、本人を殺してもつまらないだけだし、家族や友人を殺すのも違う。だって、その人たちに恨みはないもの。だからやっぱり、本人だけが被害を被るものがいい。なおかつ、彼女の大切なもの。あ~ん、それが何か見つけちゃった!」
≪悪魔の脳≫だなんて言っていた俺が可愛いぐらいに思えてきやがる。本物の悪魔は目の前に実在しているではないか。なにを閃いたか知らないが、恍惚となった顔の彼女におぞましさを感じた俺は、皮膚に粟が立つ。
「顔、顔、顔! あの女が自慢にしている美貌を奪ってやるの! あの顔を潰して、醜い顔にするの! そうしたら誰も殺さず、彼女だけが被害を受けて苦しむことになる。ウフフフフ、ね、俊介、名案でしょ?」
彼女の目は狂乱の境地にあり、興奮のあまりに涎を口の端からタラリと糸を引かせて落とす。そんな顔で近付いてこられた日には、俺は血の気の引いた顔で怯えるしかなかった。
ドン!
物音。それは壁を挟んで隣の部屋からだ。
(やばいっ! 茜の耳に先程の会話聞が届いてしまっていたのだ!)
「あはーん。俊介の妹ちゃんに挨拶するの忘れていたね。うん、ちゃんと挨拶はしないとね」
情けないことに俺は恐怖で動くことも声を出すこともできなかった。詩奈は俺の部屋の扉を開けて廊下に出て行く。
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