月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏

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エピローグ 未来へつづく道

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「きゃ! やだサトミ、ぬれちゃったじゃない!」

 あたり一面にひびきわたるセミの声よりも、ヒロミの声はかん高い。


「あれ、ケンヂ。頭の上に、なにのせてるんだ?」


 小川のふちに腰をかける、おれの影が、水面みなもにくっきりとうつっている。
 その頭には、カエルの影がのっかっていた。

 背中ごしにタカシの下品なわらい声がひびく。
 あいかわらずでかい声。

 耳をすませば、そのなかにサトミの笑い声も聞こえる。

 夏休みに入ってからというもの、ほとんど毎日、おれたちはひょうたん池公園に遊びにきていた。

 すっかりきれいに整備された公園は、子どもたちには最高の水遊び場に変ぼうしたのだ。


「だからってさ、もう水遊びってとしじゃないだろ」

 小川にひたした裸足はだしを、ぱしゃぱしゃとゆらしながら、ぽつりとひとり、つぶやく。


「あら、いいじゃない。こんなに楽しいの、うまれてはじめて」


 いつのまにかおれのとなりにすわっていたサトミは、にっこりと笑って立ち上がり、走っていった。

 背中ごしにタカシの下品なわらい声がひびく。
 見れば、頭の上のカエルの影は、ふたつにふえていた。



 あの日の朝――。

 サトミは、このひょうたん池公園まで見送ってくれた。

 ふたりで月神山つきがみやま神社に御礼おんれいをしてから石段をくだるとき、木々のあいだから、この街の景色が一望できた。


「この街が変わっていくように、わたしたちも変わっていくのかな……」

 サトミがひとりごとのように、ぽつりとつぶやいた。

「変わらなくっちゃね。いつまでも子どもじゃいられないし、自分があゆんでいく道も、自分で見つけなくちゃ……」


 まっすぐとまえを見つめながら言ったサトミの横顔が、とても大人っぽく見えた。




「ケンヂ! あんたもウチくるんでしょ? オムライス、サトミが上手じょうずな作り方、教えてくれるんだからさ!」

 ヒロミが叫んでいる。
 ふり返れば、みんな公園の出口にむかって歩いていた。


「オムライス? 行く行く!」

 ふんわりとろとろ。
 半熟はんじゅくたまごのオムライス。

「おれ、サトミが作ったやつが食べたい!」

 急いでサンダルをひっかけ、みんなのあとを追った。


「なによケンヂ! わたしが作るのは食べられないっていうの?」

「まぁまぁ。ヒロミのは、おれが食ってやるからさ」

「あんたは自分で作ったのを食べなさいよ。それかエリカかユキナが作ったやつね。
 二人とも、わたしの家で合流するんだからさ」


 ようやくみんなに追いついたとき、タカシがおれにふり返って聞いた。

「そういえばケンヂ。ファイクエ7、クリアしたか? おれはもうクリアしたぜ」

 自慢げに、顔をにやつかせている。


「ああ、ファイナルクエストね……」


 そういえば、あれからゲームなんか、一度もやっていなかった。
 ゲームなんかよりすごい体験をしてしまったからかもしれない。

 もちろん、夢だったのかもしれないけど……。


「エンディングのまえで、やめちゃったんだ。ほら、最後の選択。お姫さまの星へ行くか、この星で一緒に暮らすか……」


「ばか! おまえそれ、まだまだ序盤じょばんだぞ。その選択のあとストーリーが分岐ぶんきして、まだまださきはつづくんだ!」

 タカシがおおげさに肩をすくめて笑った。


 なるほど。どうりでずいぶんと早いエンディングだと思ったんだ。


「でも、そのときの選択が、後々のちのち重要になってくるんだ。どっちの道を選んだほうがいいかというと……」


「まって!」
 得意げに話すタカシの口を、おれは急いでふさいだ。


「その決断けつだんはさ、自分でするから面白いんじゃないの?」


 みんなが、おたがいの顔を見合わせる。

「そんなの、あたりまえじゃない」
 ヒロミがあきれたように言った。

「ま、そうだよな」
 タカシがうなずく。

「そうよね」
 サトミがおれを見て、にっこりと微笑ほほえんだ。



 おれたちは、変わりゆく街へとつづく道を、みんなで歩いていった。





  【完】


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感想 1

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みんなの感想(1件)

うさぎの子
2023.08.08 うさぎの子

たくさんの細かい伏線がきれいに回収されて気持ちよかった。終わり方も爽やかでいい。砕けすぎていないので児童文学として安心して子どもに薦められる。

ひろみ透夏
2023.08.08 ひろみ透夏

うさぎの子さん、感想をお寄せいただきありがとうございます!
他の作品も真面目なお話をエンタメっぽく楽しく書いていますので宜しければご一読ください。

解除

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